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135 準 備

「これ、どうぞ!」

 日本に戻って、自宅の台所で作ってきたおにぎり、18個。6人の警備兵の皆さんの夜食としては、充分な量だろう。物産店のお隣の、無料警備員の皆さんへの、餌付け……、お礼の品だ。

 おにぎりは、以前にも持ってきたことがある。美味しくて素早く食べられて腹持ちがいいと、大好評だったよ。……まぁ、お隣の女の子が持ってきてくれた差し入れに文句を付けるような者はいないだろうけどね!


 大喜びでおにぎりを受け取って、早速それを頬張りつつ、警備兵のひとりが教えてくれた。

「ミツハ嬢ちゃん、昨夜遅く、お店の周りを怪しい男がうろついていたよ。こっそり見張っていたら、裏口から侵入しようとしてね。

 いや、警備隊詰所の隣に侵入とか、勇敢な男だねぇ……」

「え! それで、どうなりました?」

 何と、警備兵のおじさんから、驚きの報告が!

 うんうん、この場所を選んで、良かったねぇ。

「捕まえて、拷も……事情聴取したら、とある子爵家の手の者だと自白……答えてくれてね。忍び込んで、何やら良からぬことを、と企んでいたそうだから、子爵家に引き取りに来るよう連絡をしたんだがね、そうしたら……」

「そうしたら?」

「そのような者は知らん、との仰せだったよ」

 まぁ、そりゃそうだよね~。若い女の子がひとり暮らししている家に忍び込もうとした犯人が自分の手下だとか、自分の命令で、とかいうのが表沙汰になったら、困るよね~。


「それで、『身元不明の者が他国の貴族家に侵入しようとしたのであれば大事だから、すぐに王宮に連絡して犯人を引き渡し、厳しく取り調べを行います。お心当たりのないことでお手を煩わせて、申し訳ありませんでした』、と連絡してやったら……」

「してやったら?」

「すぐに引き取りに来た。王宮に引き渡して、子爵家にダメージを与えて嬢ちゃんに恨みを持たせるより、その方が、嬢ちゃんには都合がいいんじゃないかと思ってね」

 そう言って、にやりと笑う警備兵のおじさん。

 いやぁ、いい仕事してますね~!


 目的が、宝石類か情報か、あるいは私自身かは知らないけれど、今の私にこの国で手出しすれば、かなりマズいことになるはずだ。

 あの養殖真珠のネックレスに、人造宝石。それらを気軽に子供に与えられるだけの、想像を絶する資産。それ以前に、他国の上級貴族の……、いや、下手をすると、王族の血を引いているかも知れない、親に溺愛されているらしき少女なのだ。犯人が王宮で調べ上げられれば、非常に困ったことになるはずだ。……というか、なぜそれで、私に手出ししようと思ったのか。

 むこうも子爵とのことだから、同じ子爵位を名乗って目立っている私が目障りだったのかな? それとも、何か情報を手に入れて、私と交渉したかった? 真珠や宝石を手に入れたかった?

 まぁ、私を襲ってどうこう、というつもりはなかったであろうと信じたい。

 しかし、早速役に立ってくれたよ、お隣さんとの良好なお付き合いが!

 普通なら、そんな面倒なことはせず、捕縛して、ただの泥棒扱いで済ませただろうと思う。


 とにかく、犯人を引き取りに来た者には、その者の身元をしっかりと確認した上で、引き取り証明書にサインをさせたらしい。そしてそれらの事実は、警備記録として王宮に提出された、と……。

 そりゃ、ここは貴族街の中心地であり、この警備隊詰所は王都警備隊の一部で、上層部は王宮なんだから、当然だよねぇ。貴族同士の揉め事とかにも介入する権限が与えられているし、そのあたりの貴族の脅しや圧力が通用する相手じゃない。

 平民街の警備兵ならばまだしも、貴族街で警備兵に手出しすれば、上司の上司の上司あたり、つまり、チンケな下級貴族如きは鼻息で吹き飛ばせるようなお方が出張(でば)ってきてくれるらしいのだ。だから警備兵達は、貴族相手でも強気でいけるらしい。差し入れに来た時の世間話で、そう言って『だから、安心して俺達を頼りなよ!』って言ってくれた。


「だから、今後、あの子爵家がちょっかいを掛けてきた時は、この話を出せば何も言えなくなるはずだ。ちゃんと報告記録が王宮に残っているし、ここにも勤務記録があるからな。それに、証人には事欠かない。貴族街担当の警備兵6人の証言を疑うような奴はいないさ」


 え~と、それって、もし私がこのことをどこかのパーティーとかで喋ったりしたら、その子爵家、相当困ったことになるのでは?

 いったい、どうしてそんな馬鹿なことをしたんだろう……。

 あ、『馬鹿だから』、ですか、そうですか……。

 まぁ、貴族になった初代は立派な人でも、跡継ぎが馬鹿やボンクラでないとは限らないし、近くに親や親族のいない子供ひとり、どうとでもできるとでも思ったのか……。

 何百人もの貴族がいれば、そりゃ、限度を超えた馬鹿のひとりやふたりくらいいるだろう。

 いや、ひとりだけで済んだのは、少なかった方かな?


 でも、そこまで考えて、以後は私の考えひとつ、という状況にしてくれたの? 書類仕事とか上への報告とかの面倒な手間を惜しまずに?

 うわ、こりゃありがたい!

「ちょっと待ってて!」

 とりあえず、お店に戻って、日本へ転移!



「お待たせしました!」

 そして、私の腕の中には、6本のブランデーが入った箱が。

 1本4000円くらいするやつで、なかなか美味しい……、らしいよ、うん!

 この前、こっちの200ミリリットルくらいの瓶に詰め替えてあげたのより、ずっと高級品。そして、今回は720ミリリットルの、買ったままの状態のやつだ。

「これ、お手間をかけさせちゃったお詫びと、お礼に……」

「い、いいのか!」

 前回のが、余程美味しかったのかな?

「うん、前のよりかなり高いやつだから。2ランクくらい上だよ。多分、凄く美味しい、……と思う。私は飲んだことないけど」

「「「「「「マジかっっっ!!」」」」」」


 私は、人に贈り物をする時には、日本式の『つまらない物ですが……』という奥ゆかしいのではなく、欧米式の、『これ、凄く素敵なんだよ! 是非あなたに、と思って!』という方を採用している。

 だって、その方が、楽しくて嬉しいじゃん! 誰も、つまらない物なんか欲しくないよ。私への贈り物は、安物のつまらない物でいいや、と思われたのかと考えると、何か、イヤ~ンな感じだよ。


 あ、そうだ。

「勿論、これのことは秘密ね。正式に交易品として発表するまでは、『輸出先での極秘市場調査』という名目で少しだけ持ち込んでるんだから。もし正式発表前に漏れて、偉い人とかに先行販売を強要されたりしたら、もう二度と持ち込めなくなるからね。

 それと、飲み終わったら、空き瓶は回収するからね。捨てたり、人に見せたりしちゃ駄目。分かった?」

「「「「「「イエス、ユア・ハイネス!」」」」」」


 何か、外国の王宮モノに出てきそうな言葉が頭の中に流れたけど、どうして日本語じゃなくて、外国語? まぁ、ちょっとふざけて冗談半分での『殿下』呼び、という微妙なニュアンスを表すのに、脳内に転写された翻訳部分がそういう言葉を選択したのだろう。深くは考えるまい……。

 しかし、4000円のが6本で、2万4000円。ここの金貨1枚を地球でドルに換えて、その後、円に替えれば、交換レートが悪い時なら、丁度それくらいだ。

 いやいや、面倒そうな子爵家の首根っこを押さえられた代償としては、タダ同然だよ。今後、差し入れのグレードを上げよう。今回のお礼も、後でまた、ちゃんとしたものを用意しようかな。

 とにかく、この場所で店を借りたのは、大正解だったよ!

「あ、ミツハ嬢ちゃん、何人か貴族の使いが来てたみたいだよ。そのうちの何人かは、うちに『ミツハ様はどちらに?』とか、『いつ頃お戻りになられますか』とか聞いてきたけど、知らんって答えておいたからね。

 いや、本当に知らなかったし、たとえ知っていたとしても、そんなの教えないからね。いちいち取り合ってたら、うちの詰所が嬢ちゃんとこの門衛扱いになっちゃうからねぇ……」

 ごめん、それ狙って、店をここにした!


     *     *


「旦那様、玄関に、怪しい客が……」

「何? アポイントメントも取っていない怪しい者など、いちいち取り次がず、追い返せばよいだろう。なぜそのようなことをわざわざ私に報告するのだ?」

 門衛のひとりから報告を受けたミッチェル侯爵は、夕食後の、大切な家族との団らんの時間を邪魔されて、少し不愉快そうな口調で門衛を叱った。

 しかし、この門衛は、別に新人だというわけではない。それくらいの判断はできるし、事実、今まではそうしていた。なのでミッチェル侯爵は、何か判断に困ることがあったのだな、と察した。

「……どんな客だ?」

 このような時間に、アポイントメントも取らずに貴族家を訪問するなど、常識のない者としか思えない。

「はい、年の頃は12~13歳、異国風の顔立ちで、派手ではないものの高価そうな身なりをしています。そして、ミシュリーヌお嬢様に伝言を、と……」

 もう、それだけで充分であった。侯爵にも、侯爵の向かいに座っている、娘のミシュリーヌにも。

 予想通り、確かに『常識のない者』であった。

 そしてミシュリーヌは、両手の中指で、ぐりぐりとコメカミを揉んでいた。


「……で、伝言の内容は何だ?」

「はい、『みっちゃん、あそびにきたヨ!』、以上です」

「「「「「「…………」」」」」」

 侯爵夫妻、3人の息子達、そして娘のミシュリーヌ。ミッチェル侯爵家、家族6人。その全員が、がっくりと項垂(うなだ)れていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >『みっちゃん、あそびにきたヨ!』 どこの猫耳異星人だw(勘ぐりすぎ) みっちゃん呼びは。まあ、改めるの諦めてそうだね。
[気になる点] こういう時は『今からお前ん家ァ行くからきっちり準備しとけよォ』って内容をほんわか構文にしたお手紙書いて送るのが公営ヤクザであるブルーブラッド族的マナーな気がする 文面がほんわかしていな…
[良い点] 今回は特にオモシロイですね。 思わず吹き出す所が何ヶ所も有って、とても楽しめました。 イエス・ユア・ハイネス(笑) みっちゃん遊びに来たよ(笑)(笑) 最高デス。 [一言] お疲れ…
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