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132 岩窟王女改め、ポンコツ王女 2

 そして、延々と続く、子供同士の会話。

 ワンパターンの褒め言葉と、少しでも私の情報を得ようとする質問と、自分の家の売り込み。

 皆、私と仲良くするよう親に言い含められている上、ちらちらと私の胸元に視線を向ける。

 嫌だよ、子供同士なのに、こんな人間関係は!

 これならまだ、大人達と情報合戦をやっている方が、ずっとマシだ。

 そう思って、みっちゃんを囮にして、そっと子供達の輪から抜け出そうとしたら。

 がしっ!

 みっちゃんに、腕を掴まれた。

 そして、私を見るみっちゃんの怒ったような眼が、雄弁に物語っていた。

(私を置いて、逃がしませんわよ!)

 そりゃそーか……。

 そして、更に暫くの間、苦痛の時間が続くのであった。


 みっちゃん、という呼び名は、幼馴染みの酒屋のみっちゃんと被っている。

 でも、みっちゃんと会った時、何だか初めて『初代みっちゃん』に出会った小学校1年の時を思い出しちゃって、名前のミシュリーヌと家名のミッチェルの両方に「ミ」があるのと合わせて、思わずそう決めちゃったんだ。

 多分、向こうのみっちゃんとは、もうあまり会う機会もないだろうし、こっちのみっちゃんが日本に行くこともない。だから、何と言えばいいかよく分からないけど、『もう一度、みっちゃんと過ごした楽しい子供時代の日々が……』とか何とか思っちゃったんだろうな、私。日本のみっちゃんには、ちょっと申し訳ないけど……。


 で、さすがに、そろそろ潮時か。

 私は、別に子供達と親睦を深めるために来たわけじゃない。なので、はっきりと切り出した。

「ごめんなさい、『ヤマノ子爵』として、お仕事をしなきゃならないので……」

 そう言われれば、子供達も私を引き留めるわけにはいかない。いくら子供とはいっても、他家の誕生パーティーに出る年齢の貴族の子弟である。爵位持ちの貴族にとって、パーティーは仕事の場であることくらいは弁えている。

 子供達の輪から抜け出る私に、みっちゃんもしっかりとついてきた。そりゃ、この脱出のチャンスを見逃したら、今度は自分ひとりが集中砲火を受けることになるのだから、当たり前か。

 みっちゃんは素早く両親の方へと駆け戻り、そして私は……。


「ヤマノ子爵、お国のお話をお聞かせ戴けませんかな」

「おお、そうですな。これからのためにも、是非お話を伺いたい!」

 子供達から離脱した私に、一斉に群がってくる貴族達。

 そりゃそうだ。私は今の今まで、自国に関する情報を一切漏らしていない。

 私がどこの国の者なのか。裕福なのは、ヤマノ家だけなのか、それとも国全体がそうなのか。

 宝石が大量に産出するのか。それとも他のことで得たお金で買い集めたものなのか。

 とにかく、どこの国なのかを確認しないことには、話が始まらない。


 そして、彼らは私の国がこの大陸のどこかの国、それもここからそう遠くない国だと思っていることだろう。何しろ、私がここの言葉を流暢りゅうちょうに話しているし、家族や供の者も連れずにひとりでやってきたのである。そう遠い国のはずがない、と考えるに決まっている。

 私の外見はこのあたりの者らしくないけれど、政略結婚で他国から貴族や王族の娘をめとるとか、異国情緒のある遠国の娘を妾や愛人にして産ませた子だとか、考え得るパターンはいくらでもある。だから、そう不審に思われることもないだろう。

 というか、おそらく銀行の頭取さんから流れたであろう情報とさっきのネックレス連発で、少なくとも父親から溺愛されていることだけは間違いない、と認識されたはずだ。そのための撒き餌なのだから。……ここの人達にとっては、少しばかり餌が高価過ぎたみたいだけどね。

 でも、さすがに少しは説明しないと、完全にだんまりを続けるのは無理があるか。

 しかし、具体的なことを教えるのも、あまりにもあからさまな嘘を吐くのも、気が進まない。なにせ、場合によっては、この国とも後々友好関係を結ぶことになるかも知れないんだからね。

 う~む……。


「あの、私、正式な国の代表というわけではありませんので……。好き勝手なことを言って、自由に振る舞うには、『知らない国の、普通の女の子』のままの方が、色々と都合がよいのです。

 我が国につきましては、また家族や国の正式な代表が参りました時に。それまでは、私がこの国について勉強させて戴きます。後で皆に説明しますために……」

「う、うむ、なる程、そういうことであれば、無理にお聞きするのも不作法かも知れぬな……」


 本当に納得したのかどうかは分からないが、ここで私の意思を否定して不興を買うのは得策ではないと考えたのか、私の言ったことを肯定してくれた、空気の読めるおじさん。確か、何とかいう伯爵様だったと思う。

 今の私の言葉と、先程主催者の伯爵様から紹介された、『祖国の物産を我が国に紹介し交流を進めようという崇高な目的を』、『中心街にそれらの物産を紹介するための店を構えられたとか』という言葉から、今現在はこの国とは本格的な貿易は行われていない国、しかしこれからそれを求めている国からの、非公式の先遣使節もどきとでも思ってくれれば万々歳だ。


 それに、『どうせ少し調べれば、どこの国の者かなど、すぐに分かる』とでも考えているだろう。私がうっかり母国語を喋ったり、私と接触する母国からの使いの者の跡をつけたり、お店にある品物を調べたりして。

 そして、私の母国を知っていても、知らない振りをして相手をしてくれる。私に、自分達に都合の良い情報を提供しながら……。

 ということを知っていても、知らない振りをして相手をしてあげる、私であった。

 いやいや、どう調べても、私の母国がどこなのかは分かるまい。

 彼らは当然、一応国交はあるものの、この国とはまだあまり交流のない小国、と考えるだろう。そして、多くの宝石を産出するか、裕福な国であろう、と。……少なくとも、貴族や王族は。


 そして、あからさまに私の母国や身元を探るような質問はしづらくなったであろう大人達と、御歓談。向こうは私がどんなことに興味を持っているかを知りたがっているから、自然と話題の選択は私が主導する形となり、色々な話を聞くことができた。この国が誇る海軍の力、版図を広げるための調査船団、船による貿易……。

 勿論、話の流れから、それぞれにおいて強い影響力を持つ貴族や、高級軍人の名前もチェック。

 覚えきれない? いや、勿論、こんなこともあろうかと、ドレスに付けてある小さなポケットにICレコーダーが仕込んであるのだ。


 そして、程良く交流を深めたところで、再びここの次女さんのところへ行き、一緒に子供達のところへ。

 いや、今日は次女さんの誕生パーティーなのに、このままじゃ私のせいで影が薄いまま終わっちゃいそうで、それはあまりにも申し訳ない。なので、ちょいとサービスを。

 さすがに、本日の主役が一緒だと、子供達も私にばかり話を振るわけにはいくまい。人、これを『弾避け』、もしくは『バリアー』と呼ぶ!




 そろそろいい時間となり、引き揚げ。子供だと思われているから、少し早めに帰っても問題ない。

 私は夜遅くなっても眠くなるわけじゃないから平気だけど、最後まで残っていると馬車の順番待ちで待たされるらしいから、遠慮なく子供特権を行使するのだ。子供に見られるデメリットを甘受しているのだから、メリットの方も受けさせて貰うよ、当然。

 勿論、夜中に貴族の娘がパーティー会場からひとりで歩いて帰ったりはしない。……昼間でもだけど。なので、使用人に馬車を呼んでもらう。

 チャーターした馬車をずっと待機場所で待たせていたので、別にタクシーのように辻馬車を停めて貰うわけじゃない。……けど、何時間分ものチャーター料が……。歩きはともかく、私としては辻馬車拾えば充分なんだけど、さすがにそういうわけにはいかないか。


 お店に戻った後、すぐに倉庫から瓶が入ったケースを取り出して、お隣へ。瓶は、みっちゃん(日本の方)の実家で買ったブランデーを、この国で買った200ccくらいの瓶に詰め替えたやつ。それが、12本。ブランデーの瓶、3本分。

「こんばんは~! いつも、御苦労様です!」

 中にいた人は、ちょっと驚いた様子……、って、着替えていないから、ドレスのままだった! そりゃ、引かれるわ~。


「仕事着のままで、すみません。これ、夜勤明けにでも、おうちで……。私の母国のお酒なんで、勤務中に呑んじゃ駄目ですよ、絶対!」

「い、いつもすみません、ありがたいです。でも、本当にいいんですか、こんな高価そうなものを……」

 恐縮そうに頭を下げる、6人の男性達。

 うん、ここは、うちのお隣さん。つまり、警備隊詰所だ。

 本部や支所ではなく、単なる詰所、つまりちょっと大きめの交番のようなものなので、夜勤は6人。交代で見廻りもするけれど、今はたまたま全員いる時間帯だったらしい。


 そう、私は、実家近くの交番のお巡りさんとは昔から仲がいい。幼稚園の頃から、配置換えで人が替わっても、いつも挨拶をして、良好な関係を築いている。だから、家族が亡くなって、家や遺産を狙った叔父一家や不良共に押し掛けられた時も、本当に親身になって助けて貰えた。あの恩は、忘れない。

 だから、たまたま、というか、詰所があるからここを選んだのではあるけれど、お隣になった警備隊の人達には、少しサービスしてあげようと思うのだ。無料の警備員代わりに利用させて貰っているという負い目を感じているし。

 それに、毎回といっても、別に毎日持ってきているわけじゃないし、いつも高価なものというわけでもない。たまに、油不要の熱風調理器で作った焼き芋とか、饅頭とかの夜食を差し入れしている程度だ。日本だと賄賂になったりして問題かも知れないけれど、ここではそんなことを言う者はいないので、安心だ。


 こんな一等地で店を構えているのだから、金持ちの娘だとは思われていただろうけど、このドレス姿を見せちゃったから、完全に貴族だと思われただろうなぁ。いや、事実、そうなんだけど。

 貴族にとってパーティーへの出席は『仕事』だから、ちょっとふざけて『仕事着』とか言っちゃったけど、完全スルーされたし。

 でも、ま、万一の時のことを考えれば、これで良かったか。国際問題になるのを怖れて、必死で護って貰えそうな気がする。

 さて、家に帰るか。日本の家に。

 そして明日の朝イチで、ドレスをクリーニングに出さなくちゃ。

 ここの上級貴族の皆さんのように、一度袖を通したドレスは二度と着ない、なんて贅沢はできないから、きちんと手入れしなきゃね。まだまだ働いて貰うよ、ドレスちゃん!

 ……って、最初のドレスは血塗れで駄目にしちゃったから、今、これ1着しかないじゃん! あ、イセコンの時に貢ぎ物として貰ったドレスがあるけど、あれはちょっとね~。店長みたいに、現地のドレスを確認して作ったわけじゃないから、あの国では浮いちゃいそうなんだよね。

 私が『背伸びしている子供』に見えて、大人っぽいデザインを喜ぶと思われたのか、ちょっと露出が大き過ぎ。胸元を強調、って、嫌がらせかよ、ゴルァ!!

 あ、いかん、腐女子店長に、何着か発注しとかなきゃ! これからはドレスの出番が増えるだろうから、さすがに1着は無理がある……。

 店長は、腐女子だけど役に立ってくれるから、ちょっと脳内呼称をグレードアップさせてあげようかな。

 うん、『貴腐人』とかいうのはどうだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] BL界隈では最終形態で『お超腐人』というのが存在しているらしいです。
[一言] バリアジャケット (笑) ・・・ 復活ですな! ある意味 "雷の姫巫女" の "デビュタント ドレス" 象徴的な意味が付加されています! あの装束に身を包んだ時の姫巫女様は 本気であり…
[気になる点] 転移でドレスを血抜きしよう。 紋章にもなった姫御子の戦闘衣装なのにもったいない。
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