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120 魔物討伐 2

 というわけで、やってきました、ボーゼス伯爵領コレット村。

「だから、この村はそんな名前じゃないよ! いいかげんにしてよ、ミツハ!」

 コレットちゃんからクレームがついた。

 ま、私も、住んでる町が『ミツハ町』とか呼ばれたら恥ずかしいか……。

 よし、そのうち伯爵様に手を回して、本当に村の名前を『コレット村』に改名させよう。


 今回は、領主としての仕事じゃないから、コレットちゃんは『お友達モード』。なので、私のことは『ミツハ』と呼んでいる。逆に、サビーネちゃんはお姫様と臣下モードではなくお友達モードだから、『ミツハ』ではなく『姉さま』と呼んでいる。……色々と複雑だなぁ。


 今、この場にいるのは、私、コレットちゃん、サビーネちゃん、ウルフファングの隊長さんと団員さんふたり、そして……。

「……で、どうして居るのですか、伯爵様、イリス様、アレクシス様、そしてテオドール様……」 ベアトリスちゃんがいないのは、良かったような、後が怖いような……。

「言っただろう、案内人と護衛をつけると」

 そして伯爵様の後ろにいる、私も知っている村の猟師さんひとりと、30人の兵士達。

「多過ぎです! そして、護衛対象を4人も増やしてどうするんですか!」

 いや、いくら相手が伯爵様でも、怒る時には怒るよ、私だって。


「私、言いましたよね! 私の母国の神器担当兵士が魔物狩りを体験したいといってやってきたから許可を下さい、って! こんな大人数で森に乗り込んだら、魔物がみんな逃げちゃうでしょう!」

 私、激おこである。

 そう、伯爵様には、ちゃんと説明しておいたのだ。

 あの王都絶対防衛戦の時には遠くから神器の力を使っただけなので、もっと近くでの交戦を体験して、魔物との戦闘方法について確認したい、という母国の国王陛下の希望で、3人の兵士がやってきた、という設定を。

 ちなみに、母国やその周辺諸国では魔物なんか大昔に退治し尽くした、ということになっている。


 そして伯爵様には、彼らは小型高速船で来たことにしてある。

 ウルフファングの3人には、私の転移能力の輸送量制限は各国の代表達に告げたものよりかなり緩いということはバレバレである。……というか、自分で少し話した。でないと、いざという時に援軍を頼んだり、武器や物資の大量輸送を必要とした時とかに止められたりして揉めると困る。軽装甲機動車とかを借りる時が来るかも知れないし。

 運転? できるよ! 座席の調整で、足がペダルに届くようにさえできれば……。

 でも、5.56ミリ機関銃じゃあ、ちょっと武装が貧弱だよねぇ。人間相手なら充分でも、魔物相手となると。ここはひとつ、25ミリ機関砲と7.62ミリ機関銃が付いている偵察警戒車とか、35ミリ機関砲が付いている装甲戦闘車とか……、って、何と戦うんだよ、ヤマノ領(うち)は!


 いや、まぁ、そういうわけで、護衛の人数を減らして貰った。

 私達は、ウルフファングの3人だけでも充分なのに、私とサビーネちゃん、コレットちゃんも勿論拳銃を装備しているから、護衛の必要はない。ボーゼス家一同のための護衛がゼロというのはマズいけれど、いざという時は転移で脱出するから、最低限、不意の襲撃を一瞬持ち堪えられるだけの戦力があればいい。なので、ボーゼス家の人達にひとりずつ張り付いて貰うとして、護衛は4人で充分だ。後の人達は、村で待機していて貰おう

 そもそも、このあたりにいるのは、精々オーガまでだ。人間のテリトリーに、そうそうドラゴンやマンティコアとかがいてたまるもんか。もしそんなのがいたら、今頃この村は無人になっているか、国の討伐軍や一攫千金を狙った連中の前線基地として大賑わいかのどちらかだ。


 護衛を減らすことに対し伯爵様は大反対したけれど、『王命によりはるばるやってきた兵士達に、「護衛の兵士が多過ぎたために魔物が寄りつかず、任務に失敗しました」と帰国後に国王陛下に報告させるおつもりですか』と聞いたところ、ようやく納得してくれた。

 そりゃ、自分がそんな報告をする場面を想像したら、何も言えんわな……。


 実は、あの『王都絶対防衛戦』の時の銃器による攻撃は、伯爵様達は誰も見ていない。伯爵様は領軍を率いて王都へ向かう途中だったし、アレクシス様は地球の病院、イリス様達はボーゼス領だったから。軍議の時の暗殺者を倒した時は、アレクシス様は倒れ込んでいて私の射撃は見ていなかった。勿論、射撃音は聞こえただろうけどね。

 だから、『神器』の力を見たい、というのが伯爵様達の目的なんだろう。あの黒船、ヴァネル王国の軍艦に積んであった銃は試射とかをしているけれど、『神器』はそれとは比較にならない性能だということは聞いているだろうからね。

 M1ガーランドの試射?

 いや、この国ではやってないよ。わざわざやってみせる必要がなかったから。

 今更、この国で銃の威力を見せつけて信用させる必要なんかないでしょ?

 そういうわけで、伯爵様御一家は、物見遊山……ではなく、情報収集が目的だろうね、今回の強引な割り込みは……。まぁ、それくらいは別に構わないけど。


 そして、いよいよ出発。

 コレット村(仮称)の猟師さんを先頭に、ウルフファングの3人、私達3人、ボーゼス家御一同、護衛4人の、計15人。……充分、多過ぎだよ!

 この中で、非戦闘員はイリス様、アレクシス様、テオドール様の3人か……。

 猟師さんは、当然戦えるはず。私達も、ワルサーがあるから、充分戦力になる。ワルサーでわるさーをする……、って、うるさいわ!

「僕も兄さんも戦えるよ! 貴族の男子を、何だと思ってるんだよ!」

 テオドール様から文句が……、って、え?

「……口に出てました?」

「思いっきり喋ってたよ!」

 やべぇ……。


「……イリスは、私より強いぞ?」

 ……え?

 伯爵様、今、何て言った? 何て言ったああああぁっ!




 獣道のような山道を歩くこと、数時間。

「そろそろ出る頃です」

 猟師さんの言葉を、ウルフファングの3人に伝える。隊長さん達は猟師さんの言葉が分からないからね。

 今までは、魔物があまり出ないところを選んで移動していたらしい。そりゃそうか、村の近くで派手な銃声を響かせて撃ちまくられたんじゃあ、猟師さん達の普段の獲物が逃げちゃうよね。オークとかも大事な獲物なんだから、バンバン狩られちゃ困るだろうし。だから、充分離れたところに案内したらしい。ここなら、周りの獲物が逃げ出しても、その一部が村の方へ移動するかも知れない。面倒事も、自分達のメリットに変える。さすがだなぁ。

 ……でも、村の人達が襲われたりはしないよね? 逃げて移動した魔物とかに……。


 ウルフファングの団員さん達の今日の主武器メイン・ウェポンは、アサルトライフル。口径は7.62ミリ。今の主流は、小口径高速弾の5.56ミリだけど、草木の多い森や山の中で、しかも相手が人間より大きく肉の厚いオークやオーガなので、大質量の7.62ミリ弾を使う旧式の銃をあえて選択したらしい。

 但し、隊長さんは5.56ミリのを選択。これは、7.62ミリのものとの違いを確認するためだ。今後のために、検証しておきたいらしい。弾も、普通弾の他に、徹甲弾、その他色々を試すらしい。また私からの依頼があるかも、ということで、それに備えての研究なのだろう、多分。

 ……まさか、依頼がないのにまた魔物討伐を、とか考えてないよね?

 まぁ、どこかの領地が魔物の被害が多くて困っている、とかいうなら、仲介しないでも……って、『渡りの秘術は生命力を……』って設定はどうした!

 いかんいかん、情に流されて、ついうっかりとやらかすとこだったよ……。


「出ました!」

 おっと、猟師さんが獲物を見つけたらしい。

 言葉は分からなくとも、その語感で察知したのか、ウルフファングの3人がアサルトライフルを構えた。勿論、馬鹿でも素人でもないので、対象を確認もせずに『草むらが動いた』とか『気配がした』とかで発砲するようなことはない。仲間をよく撃つ日本の素人ハンターとは違い、彼らはプロなのだから。


 そして、木陰から現れた5~6匹の魔物。

エネミー! ゴブリンです、攻撃許可!」

 そう、ウルフファングの3人には、余裕のない緊急時を除いて、私の許可なく攻撃しないように言ってあるのだ。うっかりエルフやドワーフを撃たれちゃかなわない。

 ……このあたりに、いや、この世界のどこかにそんなものがいるかどうかは知らないけどね。


 タァン、タァン、タァン……

 半自動セミオートでの発射音が続いた。


「ゴブリンは、5.56ミリでも問題ないか。人間と同じ……、いや、人間より小柄で痩せ細っている分、更に脆いか。防具も着けていないしな」

 隊長さんは、前回もゴブリンやオーク、オーガ等の死体を見ているから、平然としている。でも、異世界初体験のふたりは……、


「歯応えがぇ!」

「もっと強いの! もっとデカいのはいないのかよ!」

 ……全然満足していなかった。

 くそ、今度はウサギ(角付き)でも狩らせちゃる!

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― 新着の感想 ―
[一言] まさか、イリス様が学生時代にブイブイ言わせてたってそういうこと……?
[一言] 期待してたのに張り合いないよね(笑)
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