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105 次の街へ

 その後、昼頃に本隊に追いついた。

 まぁ、こちらは時速30~40キロで、本隊は半日で進めるのがそれくらいだ。色々と荷物を積んだ馬車が随伴しているから、荷馬車に毛が生えた程度の速度しか出せないので仕方ない。私達と違って、休憩も頻繁に取らなきゃならないし。

 まぁ、この進み具合だと、頑張っている方だと思う。


 丁度昼食のために道から外れて停止したところだったらしく、食事に誘われたのでお受けした。

 本隊がダリスソン王国の王都マスリカを出発してから、既に6日半。救援部隊が積んでいた食料を少し分けて貰ったとはいえ、既に生鮮食料品はあらかた終わり、日保ちする一部の野菜や根菜類以外は、干し肉や乾燥食品の出番となりつつあった。そしてそれを知っているサビーネちゃんとコレットちゃんは顔をしかめたが、さすがに文句を言うことはなかった。うん、前回の商人さんとの件で、ちゃんと学習してくれたようだ。

 普通であれば、途中の町で宿泊したり、村に立ち寄って食材を仕入れたりするのであろうが、どうやら3日間のロスを気にして、本隊は村に立ち寄ることすらしなかったらしい。


 まぁ、食材を仕入れるだけとは言っても、村人と交渉して現物を確認して、となると、1時間やそこら立ち寄っただけで済むものでもないだろう。向こうは、ボロ儲けのチャンスとばかりに売り込み合戦を始めるだろうし、値段の吊り上げ、粗悪品の押し付け等、後腐れのない他国の貴族相手に、遠慮なくやらかす可能性がある。下手に村長とかが出てきたりすれば、話がややこしくなるかも知れないし。

 なので、小さな村はスルーして、少し大きな街まで進んだ方が良いのであろう。


「ヤマノ子爵、どうだね、これからは私達と一緒に行動しては……」

 食事をしながら、伯爵様と団長補佐のクラルジュ様がそう勧めてくるが、それだと私達が自由に行動できなくなる。転移もできないし、宿泊する街でも、使節団の一員としてずっと一緒に行動するのは、気が詰まる。どうせ、私達に色々と働きかけようとするに決まっているし……。


「でも、あまりゆっくりだと、ビッグ・ローリーの調子が悪くなっちゃうんですよ。何日もの間、馬車を普通の10分の1の速度でのろのろ走らせ続ければ、馬がイライラして様子がおかしくなっちゃうでしょう? それと同じですよ」

 本当に馬がイライラするかどうかは知らない。もしかすると、「楽ができて、ラッキー!」とか、考えるかも。でも、まぁ、私が言わんとすることは伝わったようだ。渋々と納得した様子の、伯爵様達。


 まぁ、別に低速でもそんなに影響はないだろうとは思う。でも、どうしても許容できない大問題があるのだ。……それは、「私が、イライラに耐えられない」ということだ!

 誰が、時速10キロそこそこのノロノロ運転に耐えられるというのか!

 うん、絶対に一緒には行動しない! それに、そんなことで無駄にする時間があるなら、他国の街を見物したり、サビーネちゃんやコレットちゃんと遊ぶ方が、ずっと建設的だ。領地や地球での用事を片付ける時間も必要だし。

 さすがに、自宅を何カ月も留守にしていたら、お世話になっている交番のお巡りさんや近所の人達に心配されて、下手をすると捜索願が出される可能性もある。時々は戻って、元気ですアピールをしなくちゃ。


 と、まぁ、食い下がる伯爵様達を何とか説得して、逃げ切った。

 私達が危険だから、という説得手段が使えなかったのは、伯爵様達にとっては痛手だっただろうな。何しろ、今回は、助けられたのは自分達の方なんだから。さすがに、「自分達を守るために、同行してくれ」とは言い出せなかったらしい。うん、貴族の、そして男としてのプライド、というものがあるよね、やっぱり。


 あとは、次の国のことで、打ち合わせ。

 本隊の、概略の王都到着予定を聞いて、その数日前には無線で連絡することを約束。一度呼び出して連絡がつかなかった場合は、王宮経由で伝言することにした。あそこは、ソーラー発電で電気容量にはかなり余裕があるから、日中は常に誰かがモニターしているだろうからね。下手したら、夜通しモニターしているかも。いや、深夜に連絡したりしないよ、余程の緊急事態ででもない限りは……、って、その「緊急事態」に備えているわけか。なら、仕方ないや。


 実務的なお話が終わった後は、伯爵様、補佐役のクラルジュ様を始め、色々な人達から世間話にかこつけた情報収集や様々な打診、取引の申し込みや、提案などが……。

 そして、皆が他の者達からの持ち掛けを阻止し、自分からの提案を受け入れて貰おうと、物腰は上品で丁寧な言葉遣いなのに、ドロドロとしたものが透けて見える、何とも言えない状況に……。


 中には、うちの領地にとってかなり有利な申し出もあった。でもそれは、私の歓心を得るための、儲け度外視のサービスだ。つまり、私がいなくなるか、利用価値がなくなった時点で終わる、というわけだ。こっちが羽振りがいい時には擦り寄ってきて、一番大変な時に手の平返し。一番お付き合いしたくないタイプだよ。

 でも、一部の「本当に、双方の利益になる申し込み」は、一考の価値がある。そういうのは、後で返事する、と言って、メモメモ……。私はともかく、どうせ向こうは帰国するまでは何もできないんだし。


 この国の王都を出発した時のように、そのうちまた同じ馬車に乗る機会があるであろう伯爵様とクラルジュ様はともかく、他の人達にとっては、それこそ滅多にない私達との接触の機会だからか、みんな、かなりしつこい。伯爵様も露骨に嫌な顔をされているけど、みんな、それぞれのお家の利益のために頑張っているのだ。自分も同様のことをしているため、伯爵様にも文句を言うことはできない様子。でも、まぁ、私達には、そんなの関係ねぇ!

 あまり食欲をそそらない食事を終えて、食休みをすることなく、さっさと出発。

 いや、ここにいたら、全然休まらないよ、心が!

「両舷前進半速ぅ、ミツハ、発進します!」




 そして、やってきました、次の国の王都!

 早い?

 いやいや、このあたりの田舎町は、どこも大差ないよ。だから、いくつかの町には泊まって見物したけど、詳細は省略。いくら何でも、そういつもいつも美少女誘拐犯に攫われたり、チンピラに絡まれたりするわけじゃない。それも、子供3人連れとなれば。

 本当に、そういうのは誘拐犯くらいしかいないだろうし、それならば、3人連れを狙って騒がれるような危険は冒さないだろう。狙うなら、ひとりの女の子だ。だから、私はいつもサビーネちゃんとコレットちゃんから離れないんだよ。


 まぁ、そういうわけで、2番目訪問国、クールソス王国の王都、サクオンに到着。

 そして、遠くに王都が見える場所で、いつものように汚水タンクの中身を転送処理して、飲料水タンクに残っている水を排水。その後、ビッグ・ローリーを日本の自宅に置いてから、みんなで傭兵団ウルフファングの本拠地ホームベースに転移。

 そう、本隊を充分に引き離した今のうちに、地球での用事を片付けておくのだ。

 サビーネちゃんとコレットちゃんを残していくはずもなく、勿論、みんな一緒。

 地球に連れていくと若干の危険はあるかも知れないけれど、それでも、この世界に、私の眼が届かない状態で置いておくよりはずっとマシだろうからね。


「「「来たよ~」」」

「お、おぅ……」

 いつものように、唐突に現れる私達に少し引く隊長さん。

 いや、実はサビーネちゃんとコレットちゃんには、日本語だけでなく、英語も教えているのだ。

 考えてみたら、もしふたりが地球に移住せざるを得なくなった時、日本語しか喋れないと困る、ということに気が付いたのである。そう、今更、である。


 しかし、日本のDVDとかを観るために、ふたりは既に日本語をかなり覚えてしまっている。なので、仕方なく、日本語と英語の両方を教えることにしたのである。いや、ごめん。

 そういうわけで、吸収の早いふたりは、既に片言の英語を喋れるようになっている。ディズニーとかの、原語のままのDVDを大量に与えたのが良かったのかな。くそ、私は学生時代に、英語には苦労したのに!


 今回ここに来たのは、久し振りに、各国の代表者達と懇談会を行うためであった。

 各国の代表者といっても、別に指導者達が来るわけじゃない。実務レベルの担当者達。そして、会議というような改まったものではなく、非公式な情報交換、互いの意思疎通の場に過ぎないので、懇談会、と称する。交わした約束には拘束力があるけれど、別に、条約とかを結ぼうなどという大それたものではない。


「準備の方は大丈夫?」

「ああ、出席者達は全員、既に町のホテルに到着している。怪しい動きや、不審人物等は確認されていない。警備は、馴染みの傭兵団を雇って増強してある。どこかの国の特殊部隊が襲ってきても、多少の人数であれば撃退できるだろう」

 そう、自信たっぷりに答える隊長さん。

 うん、まぁ、各国の代表が集まる場所で、そんな行動に出る馬鹿はいるまい。しかも、お目当てである私は、捕まえるのは難しい。素人が素手でウナギを捕まえるより難しいだろう、多分。


 懇談会は、明日である。なので。

「じゃ、町のスイーツ専門店に行くよ!」

「「お~~っ!!」」


 そしてその後、3人共、お腹を壊した。

 みんな、食べ過ぎィ!

 そして、学習効果がなさ過ぎィィ!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 18になっても堂々と子供のふりできるのは楽しいのだろうなぁ(笑) 木を隠すなら森の中ならぬ、見た目子供(18)を隠すなら本物子供の中ですね。
[一言] なるほど!食べすぎたら胃袋の中身を捨ててしまえばいいのか。 望まぬ処に脂肪が貯まるのは残念だけど、そこは自己実験を続けるしかあるまい。人生常に修行
[一言] お腹ゴロっても最悪中身を転移で捨ててくれば(乙女のピンチ
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