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104 約 束

 途中で野営で1泊。翌日、陽が落ちる前に王都に到着。

 レミア王女殿下は、往路で私達から巻き上げたお菓子の半分近くを失っていた。

 そう、「遊びは、本気でやらないと面白くありません。あなた達、わざと負けようとしたりすると、怒りますよ?」と、全然笑っていない眼でそう言われた女官さんやメイドさん達が、本気で勝負に出たのである。

 王女殿下の気質をよく理解している彼女達は、それが正解であるということをよく知っていたのであった。

 そして、王女付きになる女官やメイド達が、馬鹿であるはずがなかった。女官どころか、メイド達ですら、かなり上位の貴族の娘達であり、家柄だけでなく、優れた才能と、高度な教育を受けた者達なのであった。そう、万一の時には、自分達だけで王女殿下をお護りしつつ友好国まで脱出するくらいは簡単にできる。そういう連中であった。

 そして、ゲームは頭の良し悪しだけで強さが決まるものでもない。

 度胸、ハッタリ、汚さ、そして運。

 そう、王女殿下には、彼女達に及ばぬ部分があったのである。


「ぐぬぬぬぬぬぬ……」

 悔しそうな王女殿下であるが、自分が一番強くていつも勝ち続けていては、面白くないだろう。ここは、好敵手に恵まれたことを喜ぶべきだ。

 そう言ってあげると、すぐに機嫌が直った。

「確かに、その通りですわね……」

 さすが、レミア王女殿下である。理解が早い。


 そして、捕らえた者達は人目に触れぬよう王宮の地下牢へと運び、襲撃を行った小隊は、掃除が終わるまで、同じく王宮のとある場所に隔離された。事情を知っている者の眼に触れて、不審を抱かれないようにとの配慮である。

 後は、襲撃現場と途中での野営、そして帰投中の馬車の中で行われた事情聴取ごうもんによって吐かせた一味の関係者を一網打尽にすべく、皆が迅速に動いた。

 同行した軍務大臣や一部の高官達の姿が見えないことは、すぐに知られるであろう。なので、すぐに近衛や警備兵、そして絶対に信頼の置ける軍の高官達を緊急かつ密かに呼び集め、それらの者達に事情を説明し、一斉に一味に対する捕縛を行ったのである。


 頭を潰せば、あとは烏合の衆。

 一味の高官達の部下のうち、王女に弓引く行為であるという事情を知っていて従っていた者達も、全て捕縛。中にはやむなく従っていた者もいるかも知れないが、それはまた後の話である。とりあえずは、危険分子は全て確保、である。


 実際には、捕縛者はそれほどの人数ではなかった。

 そんなに多くの謀反者がいたのでは、それこそ大変である。

 少数派による、美味しいところの丸かじり。それが目当てだったのであろう。

 それに、「謀反」と言っても、別に王女殿下を殺して、とか、武力蜂起とかを考えていたわけではないだろう。そんなことをすれば、貴族や軍部、そして国民の大半が敵に回り、とても国を我が物に、などということができるはずがない。また、そんなに大勢の謀反者を確保できるはずもない。

 せいぜいが、自分達が甘い汁を吸うのに少々邪魔である王女殿下の発言権を弱め、まだ幼いため国政には関与されていない王子殿下に取り入って、国王陛下が崩御された後は国王に即位される王子殿下の後ろ盾になって、等と考えていたのであろう。


 しかし、今のままでは、国王陛下が崩御されても、り手の王女殿下が摂政として采配を取られるため、自分達の自由にはできない。だから、王女殿下の大きな失点を作り、なおかつ自分達の手に新兵器の製法と隣国の王女と姫巫女を、とか考えたのであろう。

 あの小隊が新兵器と捕虜を確保した後、軍務大臣の手の者がそこを襲って犯人達を皆殺しにして口を塞ぎ、姫巫女達を救った手柄は自分達のもの、新兵器は行方不明として、自分の所領で密かに量産、とか……。

 まぁ、そんなことで作れるようなものではないが、知らないものは仕方ない。


 そして、裏でこそこそとされていてはどうしようもないが、はっきりとした行動に出たところを完全に押さえ、大量の証拠と証人を手に入れて、他国に対する宣戦布告にも匹敵する暴挙と王家に対する反乱行為、すなわち謀反の現行犯、と決めつけられては、言い逃れのしようもない。レミア王女とその支持者達にとっては、千載一遇のチャンスであったわけである。


 いや、本当であれば、他国にとんでもない負い目ができて、国としては政治的に大変な窮地に立たされる事態であった。これが、使節団が元々王女一派の立場を固めるという目的を持っていたことと、使節団長が自分の野心ではなく両国の関係を重視するコーブメイン伯爵であったこと、そして私の影響力が非常に大きかったこと等が、ダリスソン王国にとっては幸いした。

 本当に、考えられないくらいの幸運であったと言えるだろう。



 捕縛の指示を出し終えた時点で、王女殿下が急いでやるべき用事は一段落した。取り調べとかは、あとでゆっくりやればいい。

 私達は、長居は無用。王女殿下のお部屋とベランダ、そして屋根の様子を少し確認させて貰って、すぐにおいとまを……。

「まぁまぁ、そう言わずに!」

 そして、王女殿下に引き留められた。


 まぁ、もう暗くなっているから、ビッグ・ローリーのことを知らない王女殿下が引き留めるのも無理はない。私も、真っ暗な未舗装路を夜間走行するのはあまり気が進まないから、1泊だけお世話になることにした。

 さすがに王女殿下も、3泊4日の旅の疲れと、部下達が捕縛作業で深夜まで駆け回っている時に遊興にふけるのはマズいと思ったのか、私達と一緒の夕食の時も比較的真面目な話で、その後も早く休むこととなった。多分翌日は、各部からの報告等で忙しくなるのだろう。




「では、私達はこれにてお暇を……」

 翌日、王女殿下と一緒に朝食を摂った後、今度こそはと、辞去の意を告げた。

「まぁまぁ、そう言わずに!」

 しかしまわりこまれてしまった!

「あと数日くらい滞在されても良いではないですか。色々とお話ししたいこともありますし……。

 ゲッゲッゲッ!」

 嘘だあああぁ~~!




 そして数時間後、私達は無事、ビッグ・ローリーで次の目的地に向かって旅をしていた。私達が王都に着くまでの2日間も本隊は先に進んでいるため、まだ本隊を追い抜くには至っていないが。

 あの後、しばらく滞在するようにとのレミア王女殿下からの強い、あまりにも強い要求をかわすため、必死で抵抗したのである。

 何が悲しゅーて、失敗した政変もどきの後始末に立ち会わにゃならんねん! それも、利用しようとして襲われた他国の王女一行が!


 そして、やむなく最後の手段を使った。

「頼んだよ、サビーネちゃん!」

「任せて、姉さま!」

 そう、アレである。

「では、私達がすぐに出発するか、しばらく滞在するかの決定権を賭けて、オセロ1本勝負、開始!」


 往路では、カードばかりやっていた。

 復路では将棋とオセロもやったけれど、いくら王女殿下専用馬車とはいえ、走りながらのボードゲームは無理であり、それらは停止している時だけであった。

 と言っても、短い休憩時間では将棋はできず、将棋ができるのは野営の時だけであった。だが、一日中馬車で揺られるというのは結構疲れるものであり、結局、将棋はルールを覚える程度で終わった。


 オセロはルールが一瞬で覚えられる上、短時間の休憩時であっても一戦くらいは可能であるため、ある程度はやり込んだ。しかし、将棋とオセロでは圧倒的な強さを誇るサビーネちゃんは、それらには参加しなかった。……自重した、というわけである。初心者がワイワイと楽しそうにやっているところにプロが参加するのは、はしたない。そういうことであった。

 なので、オセロでは、王女殿下、女官さんのひとり、そしてメイドさんひとりが圧倒的な強さを誇り、他の女官さんやメイドさん達、そして私とコレットちゃんがカモになっていた。


 だから、王女殿下は、私とコレットちゃんはカモ、サビーネちゃんはオセロは好きではない、と思っていた。そこに私が「オセロで勝った方の言う通りにしよう」と持ち掛けたものだから、ふたつ返事で飛びついたのであった。

 なので、いざ勝負、という時になって、こちらからはサビーネちゃんが出る、と知って、少し驚いていた。

 そしてしばらく後に、真っ白に燃え尽きたレミア王女殿下の姿があった。

 殿下の前のオセロ盤の盤面も、真っ白であった。別に燃え尽きているわけではないが。




「しかし、レミア王女、可哀想だったね~」

 サビーネちゃん、あんたが言うか……。

 しかし、勝負の世界は非情である。レミア王女殿下も、それを思い知ったのは良い勉強になったことだろう。……主に、サビーネちゃんに気を許してはならない、という方面において。

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― 新着の感想 ―
十五歳くらいのちょっと幼さの残るハーフツインの王女イイ!と思って、コミックの続きを思い出すために読み返しましたが、そういえばこんなキャラだったなぁ…。
[一言] 99話『会談2』より >「お姉様は、もう、大勢いるもの。私に足りないのは、お友達なの!」 サビーネ王女殿下にご注進いたします オセロ 大富豪 モノポリー ゲートボール そしてマリオブラザ…
[一言] 結果的に政治上でサビーネちゃんが侮れないって知れた事の方がレミア女王にとって大きな収穫になってないか。 それが使節団?の一泊権で足元掬われる可能性減らせられたのだから
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