初見からドMに『sKill』を実況プレイ!part1
「はい、始まりました」
「始まってしまいました」
「『初見からドMに『sKill』を実況プレイ』。今回はパート1です」
最初からテンションの高い男女の声。主に喋っているのは男の方で、女の方は合いの手と言った方がしっくり来そうだ。
画面は相変わらず『sKill』と書かれたゲームのスタート画面が表示されている。第一回目の動画と言うことで、前置きなどのやり取りが暫く続きそうだ。
「実況者兼プレイヤーは、俺様ことオータムと」
「え? 一人称そのまんまでいくのかよ」
「うるせーやい」
「あ、えっと、俺こと蜂が進行していきます」
「お前もそのまんまじゃねぇか」
「うるせぇうるせぇ」
きゃっきゃと楽しそうな二人の声。そこにもうひとつ、男の声が混じった。
「お前等二人で楽しそうだけど、僕の存在忘れないで?」
「あー……はいはい、もう一人、ガヤとして熊君が参加してまーす。はい、話が進まなくなるからガヤは黙っててな」
「僕の扱い!」
ガヤとして扱われた哀れな熊の叫びは無視されて、進行役のオータムはこの実況動画についてのルールを説明し始めた。
「このゲーム、『sKill』について俺様と蜂は完全に初見でプレイしていきます。熊に至ってはゲームジャンルまで知らないレベルです」
「もう本当になんで熊いんの」
「寂しかったからだろ。んで、俺様と蜂は交代制でプレイしていきます。死んだら交代、章が変わったら交代。あとは?」
「詰んだら交代で良いんじゃねーの?」
「じゃあ、それで。ドMプレイを基本にしていきたいので、とりあえず回復アイテムっぽいのは全部禁止します。あとはゲームやりながら、『これ便利だなー』と思ったものを禁止していきます」
「その内絶対進まなくなるやつだってそれ」
「だからこそのドMプレイなんだろ。プレイ時間、コンテ回数等々のカンスト目指していきまーす」
「お願いだから徹夜は勘弁な!」
そう言って画面はようやく動き出し、画面中央の小さな四角の中にあった『start』が選択され次の画面に進んだ。
「『外は灰色の雲に覆われていた筈だった』。お、早速主人公の語りだな」
オータムが黒字の画面に白文字で表示された文章を読み上げていく。どうやら、ゲームのプロローグが始まったようだ。
「『けど、気がついたら違った。窓の外は赤紫色に染まっていた』。あー、異世界に飛ばされちゃった的なやつね?」
「この場合辺りの明るさってどうなってんのかな」
「いや多分ゲームにそこまで求めちゃいけねーと思うぜ? 停電イベントは別としてな。
えーっと? 『どういうわけか、どの窓から見てもこの国で一番大きい山が同じように見える』。訳わかんねーな、これ」
「 窓だと思ったら画面でした的なオチじゃね?」
「いや、だから異世界なんだろ……」
「おっ、熊君突っ込み入りましたーッ!」
「なんだよそのテンション! いいから先進めろよ!」
プロローグを笑いながら読み上げて、おかしな突っ込みをいれるオータムと蜂に、堪えきれずにガヤ担当の熊が突っ込みをいれた。恐らく、この突っ込みがなければ暫くプロローグが終わらなかっただろう。
このゲームの世界観に入り込みやすくするために、『この場所が異世界になってしまった』という事実を主人公の目線で語るだけのプロローグだったのだが、それだけのためにどれだけ時間を取るつもりだったのだろうか。
「さて、とりあえず動けるようになったからキャラの装備チェックだな」
オータムが言うと、画面は持ち物や主人公のスペックなどを表示した。
主人公は男で、高校生ほどの年齢で描かれている。真っ黒な髪の毛に伏し目がちな黒目が特徴の地味なキャラだ。真面目な性格なのか制服のブレザーを着崩しておらず、ネクタイまでしっかりしていた。
「くそ真面目! アクションゲーなのにこの堅苦しさ! そして帰宅部という絶望的三文字! もう主人公のスペックからして縛りプレイじゃね?」
「いやほら、もしかしたら隠れた特殊能力が有るかもしれないじゃん?」
そんなものあるわけ無い、とオータムは笑いながらステータス画面を弄る。すると画面が切り替わり、固有スキル等を示す画面が現れた。
「はい、ありましたー!」
「まあな、ゲームだし流石になんもないことは無いよな」
笑いながら二人は言う。どこかテンションがおかしいのは、録画している時間が遅いからなのだろうか。投稿された動画では、それは判別つかない。
「えーっと? 『【特殊スキル:記録】使用されているスキルを記録することができる』」
「これはちょっと強そうじゃね?」
「その内覚醒しそうだな。あー、これ使用禁止縛りつきそうだよなー」
なんてフラグを立てながら、オータムはスキル画面を閉じた。その他に表示されるスキルがなかったからだ。恐らく、今後増えていくのだろう。
「とりあえず進めていこうぜ。まずこれ何してくゲームなのかも未だ分かってないしな」
「それな。まだここが異世界になったのと、主人公が地味すぎるのと、なんか能力持ってることしかわかんねぇしな」
「ん。そんじゃあ、トップバッターは俺様、オータムが操作していきまーっす」
オータムが宣言すると、主人公が動き出した。
現在のマップは教室のような場所で、主人公は窓際に立っていた。それをオータムが操作して、一先ず教室の出口へ向かう。
すると、イベントが開始された。
教室に金髪の女が入ってくる。髪はショートカットで、巨乳だ。
「案内人なんだろうけど無駄に力いれてんな。服飾とか滅茶苦茶凝ってんじゃん」
「主人公との差よ……」
「えっと? 『貴方達の学校は閉鎖され異空間となりました。貴方にはこれからこの学校を脱出していただきます。脱出の鍵は自力で見つけ出してください。また、脱出できるのは一人だけです。誰かを攻撃して鍵を奪うことは可能です』なるほどな? 出てくるキャラクターを手当たり次第に攻撃して脱出すればいいんだな?」
「え、でも主人公のスペックじゃ無理じゃね?」
「確かに」
最初から漂う無理感に笑いながらオータムは先に進めた。
「『貴方達は戦うためのスキルを付与されているので、それを有効活用してください。また、その辺にあるものを武器として利用するのは可能です』おっ? ちょっと希望が見えてきたか?」
舞台が学校なのであれば、物が沢山あるのは容易に想像できる。武器として使えるものは多いだろう。持てるのならば、この教室にある椅子だって武器になるはずだ。
「『また、何者かの手によって殺された場合、その方は一定時間【復讐権】を得られます。ただし、【復讐権】によって復讐された方は【復讐権】を得ることはできません』ってことは、手当たり次第ぶっ殺しても敵が減る訳じゃねえのな」
「もう殺すこと前提の時点でこの脱出ゲーム怖いわ」
「『それでは、よい脱出を』えっちょっ、説明それで終わりかよ!」
最後のセリフが終わると、金髪の女は何処かへ消えていってしまい、主人公は再び自由に動けるようになった。戸惑ったオータムの操作により、主人公が同じところでクルクルと回転する。
ほんの少しの静寂。
それを破ったのはオータムだった。
「……とりあえずわかったのは、全員ぶっ殺せってことでいいよな?」
「じゃあ殺さないって言う縛りで」
「本末転倒! ガヤがゲーム難度跳ね上げるの勘弁な!」
「じゃあ僕なんのためにいるんだよ!?」
「こっちがききてぇわ!」
蜂に突っ込まれると、傷ついたのかガヤ担当の熊は再び黙ってしまった。本当に何のためにここにいるのだろうか。
「まあ行ってみて誰かをちょろっと殺してから考えようぜ。はい、第一犠牲者発見です!」
カラカラと笑って、オータムは主人公を教室の外へ出した。すると、短髪の男の背中が見えたので、その背中に容赦なく特攻を仕掛ける。途中で一つ気付いた。
「あれ? こいつこのスキルでどうやって戦うんだ?」
「なんで武器探すの先にしなかったのお前!?」
「あ、でもなんか装備してる。これは……【よくあるノート】だ! うおおこれでぶっ叩け!!」
オータムに操作されるがままに主人公は動き、短髪の男の頭目掛けて思いきり【よくあるノート】を降り下ろした。
すると、ぺしんと軽い音がして男子生徒が振り向く。彼は金属バットを持っていた。
そしてお約束だと言わんばかりに、主人公の攻撃は全くダメージを与えることが出来ておらず、お返しに金属バットの重い一撃を食らって主人公はその場に倒れた。
そして表示される、『game over』の無情な文字。
「よし、蜂。交代だ!」
オータムは何事もなかったかのような爽やかさで言った。
こうして彼らの伝説は始まったのである。