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7話 街へ

 暗闇。

 目を開けたままのクナイシィ。呼吸も浅く、夢うつつでいろいろなことを考えていた。 

 あの後、急遽、予備兵の招集が行われ、早々にクナイシィ達と任務交代となり、身体の検査を受けさせられた。地下での核爆発であったことと、万全を期していたこともあり、誰一人問題なくその日を終えた。

 その後の軍の発表は、当然、敵軍が無人機への攻撃として、地下で核を使い穴へ落とし破壊したとされた。鵜呑みにする兵士もいたようだが、多くはアクスリア軍が、残った鉱脈を消滅するために使用したと理解している。だからといって抗議する意味も無く、皆、沈黙していた。


 今日は休暇日だ。クナイシイは跳び起きると、うがいをして湯浴びをし、着替えて室外に出た。またここへ戻るので無駄な荷物は置いていく。拳銃は持っていくことにした。使う気はないが、持っていくことにする。側面に派手な装飾が施された、一目で軍人だと示すことが出来る拳銃だ。今まで実戦で使うことは無かった。

 食事はする気にならない。建物の出入り口付近にある機械を操作して現金を引き出すと、下の衣服の小物入れにねじ込み、防護服を着て屋外へ出る。銃は防護服の小物入れにすっぽり入った。目的地は出入りの禁止された都市にある街だ。距離はあるが歩いて行く。

 灰色の世界を歩くクナイシィ。目はうつろで彷徨う亡者の風体だった。


 都市は巨大な球状防御波に守られ、何隻もの防御波を搭載した無人飛行船にも守られている。遠方からの攻撃はほぼ確実に防げるが、速度の遅い、風に舞う程度の速度の汚染物質、その侵入は防げない。建物は様々な技術を駆使して、全て気密化された。それは敵国との開戦以前に、世界の半分が焦土と化し、汚染物質が世界中を舞う中、早急に進めねばならないことであったのだ。それが出来ていなければとうに死滅していたであろう、厳しい現実だった。

 都市への道は多くない。瓦礫が凄まじく、歩いて行けるのは整備された大きな舗装路がいくつかあるだけだ。瓦礫の中には、防護服では防げない汚染物質が集めてある場所もあり、この広い舗装路を行くしかなかった。

 都市へ近づくと、屋根のない小型車がこちらへ来た。防護服を着た三人が乗っている。助手席と後席の二人は、自動小銃を誇示していた。

 クナイシイの前に車が停まる。


「おい、何してる?」

 後席の男が話しかけてきた。

「え、街へ行こうかと」

 答えるクナイシイ。

「向こうから来たってことは、軍人か?」

「えー、はい……」

 仕方なく答える。

 

「軍人は、都市へ行くことを禁止されているだろ」

「あ、そうなんですか?」

 とぼけるクナイシィ。

「軍人の立ち入りは禁止されている。帰りな」


「ああ、残留市民の暴動の噂がありましたっけ。だから立ち入り禁止なんですかね。そんなの本当にあるんですか?」

「……さあな、そうならないように俺たちが朝から晩までいるんだよ」

「えー、どうやって防ぐんですか?」

「残留の軍人を隔離して、外から入ってくるものを徹底的に調べている。暴動なんか出来るわけない。いいから帰りな」

 運転手が落ち着いた声で言った。

 クナイシィはしぶしぶ引き返すことにする。

 

 クナイシィは考えた。それほど厳重な警戒ではない。所詮ただの噂だ。あまり大げさに警備すれば、かえって市民の反発を買う。武器の流入や、一番の懸念になる軍人の隔離さえ出来れば、大げさに考える必要も無いのだろう。宇宙港の警備は元々厳しいので、都市の警備はこれくらいで充分なのだ。


 戻る途中、何台もの貨物車両とすれ違う。街で作られた食糧や水などを、軍やクナイシイたちが使うことにした建物などへ運ぶ。

 クナイシィは閃いた。逆立ちしなくとも。

 最後尾の大型貨物車の前に、両手を振って立つ。右手に銃を持って。

 クナイシィの前で停車する大型貨物車。窓が下り、防護服の男が話しかける。

「何ですか? こんなとこで」

「ああ、ちょっと車両を調べろって、緊急の命令が出てね」

「貨物庫は、こんな所では開けられませんよ」

「ん、ああ、車両を調べろって言われてさ。君は降りなくていいよ、俺がすぐ調べるから」

 そう言って、貨物車の後ろへ行くクナイシィ。


 ほんの少しの時間調べるフリをして、後方から大声で運転者に声を投げる。

「よーし、問題ない。行っていいぞ!」

 窓から運転者の手が振られ、貨物車が動き出す。

 クナイシィは貨物庫に飛び乗った。素早く身をこなし、貨物庫の上に乗る。貨物庫は汚染物質が溜まらないように、凸凹が少ない曲面で、つかみどころが少ないが、四隅に吊るための取っ手がある。前方へ進み、前部のそれを掴んで速度と振動に耐えた。

 遠くから見ればすぐにバレるかもしれないが、そこはもう諦めていた。完全に賭けだ。ダメならダメで仕方ない、出来れば街へ行きたかったのだ。


 思いのほかすんなりと都市へ入れた。貨物車が集まる場所に来た。恐る恐る身を起して周りを見ると、外に人はいない。距離を置いて、何台もの貨物車が動いている。

 貨物車は、向きを変え後進して貨物庫を外す。貨物庫は機械で運ばれ、洗浄場所へ送られる。洗浄を済ませて検査された後で、建物内へ運ばれるのだ。

 クナイシィは、後進を始めた貨物車の後部へ身を動かし、助手席側へ飛び降りると、素早く小走りして、貨物車の前を平然と歩き出す。

誰も気にしないようだ。クナイシィはその建物区域から離れた。


 都市では、近い建物と建物の間に低めに曲面の屋根を張り、道の出入り口も構造材で閉じて、建物の集まりごとに外界から閉じた区域を成立させている所も多いのだが、クナイシィが目指す街と呼ばれる場所は、元々屋根のある広大な商店街として有名だった所で、気密化も短期間で成立させ、人々の憩いの場所になっていた。防護服無しで歩ける広い場所は、街や地下街など限られている。

 そしてその街は、残留市民が暮らす場所と指定され、様々なことを賄えるように整備されていた。


 ほどなくして街へ入るクナイシィ。防護服を脱ぎ、銃も左脇の拳銃嚢に収納した。髪をかきあげる。

 街は久しぶりだった 以前はよく来たが 人が減って残留者のみになり、寂れていくのを見るのがどうにも嫌だったため、行かなくなっていたのだ。

 中の空気は柔らかく感じられた。多くの人がいる、土のある場所もある空間だ。あちこちに検知器と、緊急用の防護服も設置されている。そしてやはり、あちこちの建物の店は戸を下げ閉められていた。以前来た時のような活況は全くない。多くの人が既に宇宙へ上がっているのだから当然か。


「おー、そこの若い人、この蓋を開けてくれんかね」

 小さな人工池の低い囲いに座っている、声をかけてきた老人に瓶を渡される。なにか飲み物が入ってるようだ。

「うちのばあさんが、おかしな道具使って、思い切り締めるもんじゃから、開けられんわい。外へ行くんじゃないんだから、そんなに締めんでもええのにのぉ」

「しっかり締める癖が付いちゃったんでしょう。俺もそうですよ、何か入り込んだら嫌ですからね。おばあさんは?」

 ふたを開けて渡す。

「ん、ばあさんは腰を痛めてて家におる。あんまり一緒におると喧嘩になるんで、昼間は外で散歩しとるんよ」

「そうですか……宇宙へは行くんですか?」

「はは、まさか。宇宙船なんか乗ったら、ばあさん泡吹いて倒れるわい」


 囲いに腰を下ろしながら、お年寄りが宇宙へ行くことは、やはり無理があるんだなと思う。

「兄ちゃんは、抽選に外れたんか」

「え、ええ、まあ」

「残念やったのぅ。まあ、時間はかかるが希望者は皆、上へ上がれる言われてるから、しばしの辛抱やな」

「あ、そうですね」


「良かったのう、わしが若かった頃は、スペースコロニーなんてデブリからどうやって守るんだとか、作れるわけないと言われててな。それがバリアーで防げるようになったおかけで、一気に建造ラッシュ。おかげでこの国の人たちが救われたんじゃ、本当に良かったのう」

「いや、あの……宇宙居住地、高速飛来宇宙ごみ、球状防御波なんで……」

「なにが9条やねん! バリアーじゃろ! いや、わしが子供の頃に観とったアニメのDCTフィールドじゃ、いや、核にも耐えられるから、オーロラバリアの方がええかな」

「いや、あのですね……」


「まあ、とにかく兄ちゃんは、時間はかかるかもしれんが、宇宙へ上がれるから心配せんでもええねん。その日まで仲良うしようや」

 屈託なく大口を開けて笑う。


「それはわからんぞ」

 傍にいた老人。小さな円筒硝子容器に入った透明の液体を一口呑んだ、赤ら顔の老人が割り込んでくる。呑んでいるのは酒だろう。

「それはわからんぞ。なんや、昨日、核が使われたらしいで」

「はぁ? 今更、核使ってどうするんや」

「知らんがな。噂じゃ使ったのは、うちらアクスリアらいしで」

「んなアホな。使わん決め取ったのに、使うたら、敵が激怒して攻めてくるかもしれんやろ」

「どうやろね。まあ今は、ようけ軍人さんらおるで大丈夫やろ。しかしおらんようになったら、どーなるかな」

「ほんまか。こりゃあかん、こんなとこ、ひとたまりもないで」


「大丈夫ですよ。無人機が守ってくれますし。核を使ったのは敵国ですよ。軍はそう言ってます」

 慌てるクナイシィ。

「はは、そんなん誰が信じるかいな」

「敵が来たら、どうやって逃げるか、ばあさんと相談せんと」

 慌てて走り去る。

「兄ちゃんも覚悟しとった方がええで。何が起こるかわからんきに。あんまええことは起こりそうもないで」

 クナイシィは苛立ちつつ、その場を立った。


 しばらく歩き、クナイシィはホッとした。その店は、まだ閉まっていなかった。今までは目の端に映すだけで、入ったことも買ったことも無かったが、今日はどうしても来たかったのだ。小さな店の入り口に、色とりどりの花がある、花屋だ。どうにも気恥ずかしいが、意を決して近づこうとした。

 ハッとするクナイシィ。その店から出てきたのはリンファムだった。


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