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5話 通いの軍隊

 クナイシィはようやく自分のタルートのある場所に辿り着いた。端末機と番号の表示が無ければ、見つけられないほどのタルートが並んでいた。

機体でん部の突起部品に、床から伸びた鋼鉄製の柱が接続されている。放射線吸収剤の取り換えも既に終わっているようで機械は動いていなかった。

 誰の機体も破損はなく、続けて搬入したので小隊5機分が固まっている。奥に立つ大砲をつけたタルートは、スリィードの機体であろうとクナイシィは思った。


 隣のタルートの搭乗口が開く。、

「ああ、先輩、間に合いましたか。もう大丈夫ですか?」

 身を乗り出して話しかけてきたのはミルグだった。

「おう、迷惑かけたな。助かったよ。ありがとう」


 奥に立つ大砲をつけたタルートの搭乗口も開いた。降りてくるのは、やはりスリィードだった。

「おう、ミルグに聞いたぞ、薬のこと。俺もあの時いたのに気付かなかったわ、悪い悪い」

「いや、俺が悪いんだから、いいよそんなことは。それより大砲付けると格好いいな」

「まあ、見た目は嫌いじゃないけどなあ。とにかく重たくて動きが鈍くなるのが、どうにも好きになれんな。地味な支援担当になるしよ」

挿絵(By みてみん)

「よし、スリィード、ミルグ、クナイシィ、来てるな」

 目の前に現れた、ルグリール小隊長が、そう言って携帯端末を操作する。それから自分の機体に搭乗した。隊長も今来たばかりのようで、機体の確認をするのだろう。

クナイシィも自分の機体に乗り込むことにする。


 タルートの足にある扉を開けて中の突起を操作すると、タルートの胴体上部がわずかに上に動き、背中を軸に後ろへ傾く。その傾きに合わせるように股関節を軸に、

でん部の接続箇所も合わせて可動させながら、胴体下部が前方へ傾く。すると開いた上半身の内側から、取っ手の付いた細い鋼鉄縄が下がってくるので、

それを掴み操作して引き上げられながら機体に足をかけ乗り込んだ。


 薄暗い操縦室。素早くあちこちを操作して、各部分の温度や電圧に異常がないか確認する。いつもと同じで問題は無かった。ここへ搬入してからの作業履歴も見る。

「げ、こんなものまで使うのか」

 驚くクナイシィ。

 放射線吸収剤の取り換え以外にも、水となんとかという材料を混ぜた、少し粘性のある液体の入った耐圧容器が取り付けられていた。放射線対策の液体だ。

外の足元を映すと、ミルグとスリィードがなにやら話をしている。クナイシィも話をしたいと思い外へ降りた。


「なあ、核を使われるかもしれないって話、本当なのか?」

「ん、ああ、今話してたとこだ」

 スリィードが答える。


「今、確認したけど、あの液体まで使うだなんて、相当なことだな」

「あー、あれ嫌ですねぇ、あれ気持ち悪いんですよね。手が滑るし、接触入力の反応も悪くなるし」

 クナイシィにミルグが答える。


 クナイシィは深呼吸して続ける。

「本当に核が使われるとして、なんで今更使うんだろう?」

「防御波で都市も宇宙港も守られていて、核は通用しないですけど、汚染物質が、風に舞う程度の速度だと防御波では遮れませんからね、それで汚染させることが目的かもしれません。ちょうどこちらへ風が吹くようになる季節ですし」

「人が減ってるから、汚染物質の除去は大変になるぞ。あっ、俺たちがやらされる羽目になって、いつまでも上に行けなくなるんじゃねーか? くそっ!」

 右拳で左手のひらを打つスリィード。


「しかし、わからないな、核を使うだなんて。こっちを怒らせるようなことしたら、投射機を使う口実を与えてしまうだろ?」

 クナイシィが思い出して聞く。

「投射機は効かないという噂もありますよ やつらは地下深くにいるし、防御波の完全硬化も可能にしたとか、速度に関係なく通過させないって。さすがに短時間だけらしいですけど」

「本当かよ」

 驚くクナイシィ。


「いや、あくまで噂なんで、いいかげんな話だと思いますけど。そうじゃないなら確かに無茶し過ぎですよね、使わないって決めたことを破るんですから」

「そういえば、なんで防御波に対して、投射機からの攻撃が通用するのかしないのか情報が出てこないんだろうな? 科学者なら割り出せるんじゃないの?」

 リンファムと話したことを思い出して聞く。

「隠してるんですかね。ただ防御波に関しては、ありえないくらいおかしな性質のもので、本当に全てを解析されてるのか怪しいみたいですよ。 

最初の頃は、科学の常識がひっくり返るくらいのおかしな現象と言われてましたから」

「そうなんだ」


「まあ、俺達が行く鉱山地域では使わないだろ。向こうだって汚染物質で困ることになるんだし」

 スリィードが言う。貴重な鉱石の採掘をしている場所へ、汚染物質を撒くとは思えないことにクナイシィも同意だった。

「境界線とかの地上で使って、大きな窪地を作るってのあるかしれませんよ。進撃してくる相手を上から撃てるようになりますから」


「核を使われたら使うかな? 投射機」

「使わないだろ。上の連中は、今更下がどうなろうとたいして関心ないんじゃねーか。上の住み心地が良くて、もう帰る気すら無いのかもしれねぇし」 

「まあ30年以上は戻れないですからね。上の暮らしが安定したら戻りたがる人がいなくなるかもしれませんね」


 クナイシィは、ミルグのその言葉に思わず拳を強く握り、自分の尻を叩く。


「あれ、まだリナルガが来てないぞ」

 クナイシィは、もうそろそろ集合してなければならない時間なのに、リナルガがいないことに気づいた。


「あの馬鹿、あの薬全部呑んで、ひっくり返ってんじゃねーか?」

「俺も危なかったんだけど、なんでそんな引っ掛けやるんだ? 任務に支障が出たら困るだろう」

「一応、間に合わないっていうだけの引っかけだし、予備もいるだろ。上手いこと乗船権をはく奪して、ここへ軍人を残したいってことなんじゃねーの」


「私語はそこまでにしろ。伝達の時間だ スリィードは後方支援をリナルガの分もやれ」

 ルグリール小隊長が制す。

「ええ~」

「はは、さすが隊長、リナルガさんの不在を見越して、スリィードさんに大砲装備させたんですね」


「気をつけぇ! 敬礼!」

 隊長の声。あちこちからも同じ言葉が飛ぶ。

 全機のタルートの前に立ち、敬礼の姿勢をとる操縦者。そして、前方上部の演壇に現れた、連隊長からの引き継ぎ指示を聞くことになる。


「ただいまより、引き継ぎと命令を伝達する。休め」

 演壇に現れ、敬礼をしてから話を始める連隊長。

 全員が「休め」の姿勢をとる。左足を開いて前に出し、両手を尻で軽く握る姿勢だ。


「現在、状況に特に変化はない。ただし今交代勤務時間より、かねてから準備されてきた、無人機配備の第一試打を実行する。タルート各機には、各地域、

境界線ギリギリまで前へ出てもらい制圧してもらう。その後に無人機の大量投入配備を敢行する。無人機のみによる防衛は可能と結論されているが、

現実の大量投入は初となる。各自気を抜かず、不測の事態に対応出来るように行動せよ」

 無人機による本土防衛に関してはいろいろな意見や噂があったが、いよいよ現実となった。


「また知ってのとおり、アルガスリ鉱山地域は、球状防御波という革新的技術の核となる鉱石を産出する地域だ。領土境界線をまたいでいるため 

敵国と鉱石の争奪になっているが、この地域への無人機の大量配置に対して、過剰な反応をされる懸念がある。地域担当大隊はくれぐれも注意するように」

 クナイシィたちが向かう地域だ。食堂でリンファムに戦闘は無いと思うなどと言ったが、自分たちの向かう鉱山ではそうはいかない可能性が高いことを理解し

リンファムが別の地域ならいいがと心配になる。


「既に聞いていると思うが、こちらの情報として、敵軍が核を使う可能性が高いというとことが判明している。防御波があるとはいえ、近接では決して安全ではない。油断せず速やかに退避出来るよう心構えを持つように」

 ため息をつくクナイシィ。


「以上。アクスリアの為に!」

「アクスリアの為に!」

 敬礼して叫ぶ連隊長に、全員が敬礼し応える。

 

「搭乗!」

 連隊長が下がるのを見届け、隊長の掛け声とともに全員が動き出した。搭乗口が開き、乗降姿勢になったタルートに、全員が素早く乗り込んだ。


 搭乗口を閉めるクナイシィ。薄暗い操縦席に、画面や点灯菅がいろいろな色を放つ。

 「よしっ!」

 クナイシィは起きてから、いろいろと失敗を重ねたことを思い出し、両手で頬を叩き、気合を入れた。


「遮蔽液、注入開始!」

 隊長の言葉を受け、注入の操作をする。

 操縦席背部から、少し粘性のある無色透明の液体が流れ込んでくる。タルート背部に取り付けられた、耐圧容器に入っていた液体だ。

 狭い操縦室は短時間で液体に包まれた。

 クナイシィの顔が歪む。ミルグが言っていたように、どうにも気持ちが悪い。操縦棒を握る手も滑りやすくなる。身を守るためとはいえ嫌な気持ちになった。


 機内の画面に映される指示に従い、出口に近いタルートから、5機の小隊単位 その3つの小隊と中隊長機の16機の中隊で、二重の扉を順々に抜けて外へ出ることになる。


「さあて、通いの軍隊、お昼の部。出撃しますかね」

 ミルグがおどけて言う。


 クナイシィは、通いの軍隊という言葉に吹いてしまった。それは戦局が落ち着いて、交代制で出撃することが決まった時に揶揄された言葉だった。決まった時間だけ戦地に出る。何かあれば全員召集で対応する。それで回っていく程に戦局は安定していた。どちらの国も、敵国を攻め込むような余裕が無くなるほどに汚染が広がり、生き延びる策に国力を労するようになったのだ。


 核の使用をやめることもその時にようやく正式に締結された。誰も異を唱えなかった。それ程までに、汚染に苦しみ疲弊していたのだ。敵国は地下都市に、アクスリアは宇宙居住地に活路を見出した。そういった生きねばという考えがありつつも、殺し殺された恨みを収めることが出来ない。第三者の国が存在せず、仲介されることのない中で、この戦争が正式に終わる気配は微塵も無かった。憎しみの連鎖に果てはないのか、クナイシィはうつむいて首を振った。


 照明のまぶしい庫内から、薄暗い灰色の世界へ出陣する。

 薄暗いタルートの操縦席で、クナイシィは深く息を吸い、吐いた。


 屋外の広い平地には、大量の随伴無人機が待機していた。信号を送って連携を確定させる。各タルート1機につき2機の無人機を連れていくことになる。

 1年ほど前に採用されたもので、大きさは、タルートの半分ほど。タルートがクナイシィの身長の3人分とちょっとの高さなので、たいした大きさではない。逆関節の2足歩行で、形状は敵の機体「紫に」似た感じだ。

 戦闘補助の攻撃型と、予備弾倉や予備武装の運搬を主目的として、装備された武装の噴進弾による攻撃を担う支援型の2種類を従える。


 心強いと言うよりも、真っ先に破壊される足手まといな存在で、必要ないという評判がすぐに立ち、操縦者の評判は良くなかった。

 その後、改良が重ねられて、それなりに使えるものになってきているようだったが、実戦の数が減っているので正直よくわからない。それがクナイシィの評価だった。

 今回配備されるという無人機も原則同じ機体で、装備が異なるだけだ。上の判断で防衛可能と判断されているのなら、問題はないのだろうとクナイシィは思う。


 隊列を組んで歩んでいくタルートと無人機の群れ。いつもと同じ薄暗い灰色の世界に、暖かく鮮やかな色は一つも無かった。






たぶんだだだ大丈夫……

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