13話 遠隔操縦大決戦 2/2
「負けないよ☆じゃないわよ、この馬鹿!」
リンファムの怒声。
「何嬉しそうに言ってんのよ! あんた本当にわかってるの? 次は無いのよ!」
「ちょ、いや、あのですね……」
真っ青なクナイシィの顔。
「大丈夫だよ」
カランディが割って入る。
「クナイシィなら、きっとやってくれる。クナイシィが嬉しそうに言う時は、相当深く考えて決めた時だから、大丈夫だよ」
カランディの言葉にホッとするクナイシィ。
警報が鳴った。間が開いたという知らせだ。大佐たち3機が谷から階段状にした昇降機を昇って来ているということを示している。じき目前に現れるだろう状況に、クナイシィは武者震いした。
「上から撃てよ」
スリィードがクナイシィの操縦席に来て、座席に手をかけながら言う。
「必要とされている施設を破壊するようなことはしたくない」
反逆者では無いのだから、国益に反することをするつもりはないのだ。
「3機あるんだから、俺たちが受け持ってもいいんだぞ」
「あ、ごめん。俺がやりたい」
スリィードの言葉に、申し訳ないと思いつつ答えた。
ガイサもクナイシィの操縦席に来た。
「本当にやれるんだな? 軽い気持ちで言うなよ。俺はカランディの本気に共感したからこそ、今ここにいるんだ。失敗しましたじゃ困る」
強めの語気で問う。
「大丈夫、軽くなんて考えていないよ。浄化の技術は必要だ。絶対にやり遂げる」
目をつむりながらゆっくりとハッキリ言い切って、見開いた。
「おしゃべりは終わりだ」
クナイシィは、そう叫ぶと、大佐たちを迎え撃つべく操縦を再開する。
谷の端の前に立膝で銃を構える機体、端から離れた場所で同様に立膝で構える機体。更に端から離れた奥側で、立ったまま構える機体。クナイシィはそう配置して待った。
谷から同時に交差して躍り出る大佐たちのタルート2機。視線を乱す常套だ。遅れてもう1機が低く跳び上がると即座に移動して構える。
クナイシィは惑いを絶ち、冷静に間近のタルートを狙い撃つ。その射撃に反応して最初に出た2機が応射した。クナイシィのタルートが防御波弾を撃ち出して防ぐ刹那、クナイシィは切り替えて端から離れた場所のタルートから、2機のタルートに交互に連射する。2機は防御波弾で防ぎつつ、驚いたように振り向いて反撃してきた。
当然、すかさずクナイシィも谷の端のタルートに切り替えて、振り向いているタルートを撃つ。間髪入れない応酬だ。
防御波弾は、球状防御波を形成するための炉から発生している粒子の余剰分に、指向性を与えて放つもので、放たれた余剰分は一定の距離で円形の防御波板を形成する。その形成が維持される時間はほんの一瞬ではあるが、防御波としての性能は変わらない。防御波と接触すると接触した部分が消滅するということも同じだ。形成された板は球状防御波と同様に、炉の移動に追随して動く。アクスリアは2連射、トルアーリは単発で発射後、一定の時間を経ないと余剰分が溜まらず次弾を撃てない。それがこの技術の理だった。
最後に現れたタルートが大佐のタルートだと判る。もう1機のクナイシィ―のタルートを攻撃している。すかさずそのタルートに切り替え移動と反撃に転じた。
クナイシィは右手側の画面に指を走らせて連打。タルートの動作を細かく項目として並べてある文字列、それを選択して組み合わせ、可否の確認をして実行を入力する。技術的にも安全性的にも長い動作は入力出来ないが、動作を先行入力出来るのだ。それを利用して、防御波弾で耐えられる時間を考慮し対応するという戦いを、クナイシィが選択したということだった。
「忙しいなおい」
スリィードの声。クナイシィは無言で操縦に専念する。
防御波弾と先行入力による行動に対して、大佐たちの対応が上回り始めていると感じるクナイシィ。距離の取り方が上手く、切り替えながらの戦いが苦しくなっている。3機のタルートもまだ戦えるが、かなりの損傷になってきていた。
「よし」
意を決して挑むクナイシィ1機のタルートを銃撃して即、切り替えた別のタルートを突進させて銃撃をする。相手の二発目の防御波弾も消失して、そこへ頭部横から噴進弾を発射、相手の銃の破壊に成功するが、大佐からの銃撃でクナイシィのタルートの銃も、右手首ごと吹き飛ばされた。それでも左腕で短剣を太もも裏から取り出し、銃を失った相手機体に体当たりして転倒させると、ひざ裏に短剣を突き立てた。
即座に切り替え、跳躍と同時に更に別の機体に切り替える。どちらの機体も画面には黄色の警告文字が並び警報が鳴るが、まだ動くことも銃を使うことも可能だった。攻撃を避けつつ、短剣を突き立てた機体に追い撃ちをかけ両足を破壊する。これでようやく1機を行動不能にしたということだ。
切り替えて大佐機ともう1機を攻撃する。防御波弾の消滅を超えて撃ち込む時間が取れない。1機がやられたことで三角の陣を張れないことが、予想以上に苦戦を招いていた。
「大佐は後回しだ」
思わず声が出る。もう1機に絞り、2機を素早く切り替えて動かし追い込みをかけることにした。速い動きに大佐からの攻撃も当たらず地を撃つ。
2機を円を描くように駆り、1機を追いつめる攻撃をする。反撃が2機のうちの1機に集中され、その判断の確かさに驚くが、臆せず畳みかける。
相手機の頭部が砕けるのと、クナイシィの駆るタルートの銃が吹き飛ぶのはほぼ同時だった。即座に撃てる機体に切り替え、頭部を破壊され戸惑っている機体に銃撃して銃を破壊。その機体に走り寄って、大佐機からの銃撃を避けつつ機体の後ろへ回り、両ひざ裏を撃ち込んで破壊した。
移動してきた大佐機からの銃撃。防御波弾で防ぎつつ機体を移動し避ける。
遂に大佐との一騎討ちになった。画面には黄色の文字が溢れかえり、警報も鳴り響く。
「殺さぬ戦いとは舐められたもんだな。遠隔操縦機を使っていようが本気で来い! 本気で来ないのならば、俺はお前を認めない!」
大佐からの通信。
にやけ顔を抑えられないクナイシィ。距離を測りながら機体を移動する。銃の残弾も多くは無い。予備弾倉が左足にあるが、遮蔽物の無い場で1対1のやり取りの中、交換することが大佐相手に間に合うのか確信が持てない。
大佐機からの銃撃。避けながら、どうすべきか画面の情報に目を走らせて、頭に血を回して思考する。
クナイシィの眼が光った。
大佐機に向けて、頭部にある擲弾発射機を連射する。擲弾の威力は高くなく、タルートの前面装甲には意味を成さない。それを知ったうえで連射するクナイシィ。
「あいにくだが、保護布内の気密確認用の気体が漏れることで、警告が出るようになっている」
「ばれてるぞ、おい」
スリィードの声。
宇宙用のタルートには関節部に防護布が装着されていたるアスサイルの砂は、アスシアの地上の砂とは違い、驚くほど細かく尖っていた。大気が無い為、小隕石の衝突が多く、その際に細かく砕けた砂が降り積もり続けたためだ。驚くほど細かなその砂が駆動部に噛み込み故障するということが、宇宙開発の初期に何度も起こって問題になっていたことをクナイシィは知っていた。
「関節の防護布を焼いて、アスサイルの砂塵を噛み込ませての動作不良でも狙っているのか。博打過ぎて感心せんな。砂地へなど誘導されるつもりもないぞ……はっ!」
突然、右後ろ側を振り返る大佐の機体。その先には、破壊されて転倒しているクナイシィのタルート2番機がある。その操縦室は開いていて、中に詰められていた爆弾が路面に転がっていた。
閃光と共に爆発が起きる。タルートの部品と路面の破片、そして薄い路面の下にある砂塵が巻き上がった。
大佐の機体は姿勢を低くして、防御波弾で破片を遮り、即座に跳躍で移動するが、クナイシィからの銃撃に備えて短距離しか移動できないようだった。機体は弱い重力下で長く広範囲に漂う砂塵に包まれる。
大佐の機体の銃を狙うクナイシィの攻撃。大佐は避けるように左後方へ低く跳躍した。
「3へ」
クナイシィは破壊され転倒している、3番目の機体に切り替えた。機体はうつ伏せで、両足のひざ裏を撃たれて離断しているため動けない。腕の銃と頭部も破壊されている。しかし噴射機は無傷で、両腕も動かせるのだ。
腕を縮めてばねのように使って押し出すと、噴射機を最大で噴射することで加速した。空気抵抗がなく、弱い重力下を低く飛んでいく。防御波が形成されないギリギリの速度だ。
着地する大佐の機体の足元に激突した。
「ぬあっ」
大佐の叫び声。機体は足元をすくわれて仰向けに浮いて転倒しする。それでも銃を構えて動こうとするが、クナイシィが見逃すはずも無く、動ける機体に切り替え防御波弾の消滅まで連射。大佐機の銃は四散した。
「今日は俺の勝ちです、大佐」
大佐に聞こえないのを知っていても、思わず口をついて出る。
起き上がろうとする大佐の機体を乱暴に蹴り飛ばして裏返しにして踏みつけると、両ひざ裏に連撃して離断させた。大佐も諦めたようで動きが止まる。
決着。
スリィードとガイサの歓声。
「すげえなおい、大佐に勝ったぞ」
スリィートがそう言いながら、クナイシィの肩を揺する。
「ありがとう、クナイシィ。俺じゃ勝てるわけが無い相手だ、助かったよ」
ホッとした声のガイサ。
「ここまで考えてて、一人でやることにしたのか」
スリィードが聞く。
「いや、やられたタルートの状態と位置関係を見て、とっさに考えただけだよ。砂塵の噛み込みによる作動不良も少しは期待してのことだけど、大佐の言った通り博打過ぎる。当てて転倒させられなければ、勝てなかったと思うよ」
一息ついて更に続ける。
「大佐程の人に考える時間を与えたら、場を掌握されて絶対に勝てなくなるからね。噛み込みとか考えさせて、一気に畳み込むしかなかった。勝てて良かったよ」
ため息を吐くクナイシィ。
「まったく、たいしたもんだ」
軽く首を振り感心するスリィード。
「スリィードのおかげでもあるよ。最初に撃ち抜かれて派手に爆発したろ。破片は防御波弾で防げるとはいえ、いくつも大爆発されちゃかなわない。その後俺たちに殺意が無いことがわかって、大佐たちもこっちを無力化するだけにした。銃と頭部、そして足の破壊だけが目的になって、誘爆を恐れて推進器も破壊しなかった。だから出来たのさ」
少し驚くスリィードに笑みが漏れた。
警報が鳴る。
「なっ」
驚くクナイシィ。攻撃を告げる警報だ。
防御波弾が2発自動で放たれる。そして真っ赤な警告文字と警報、3発目がタルートの左足ひざ裏に命中したのだ。辛うじて動けそうだが、大きな損傷だった。
「何だこれ!?」
絶叫しつつ画面の情報に目を走らせるクナイシィ。
「体は動かすなよ、頭だけ動かして状況を理解しろ。動けばもう一度撃つ。この距離なら外さない、完全に破壊出来るぞ」
ジャウル大佐からの通信。
「な」
撃ってきたのは大佐と、倒したタルートの操縦者だった。倒された機体の横から携帯型噴進弾発射機を肩に構えている。三人による攻撃で防御波弾破りを成立させたのだ。
「あんなものまで持って来てるのか。殺さない戦いを逆手に取られたな」
スリィードが驚く。
「開戦初期は機を降りての戦いもあったみたいだからな、初期からいた大佐には当たり前の装備なのかもしれん」
ガイサが顔をしかめて言った。
「おいこら、聞こえているんだろう、答えろ。確かにお前は頭がいい、私としたことがしてやられた。だがまだ決着はついていないぞ」
大佐の声。さらに続く。
「目的は投射機の破壊か、なぜそんなことをしようとする。理由を言え。この通信は記録されない、それでも言う気が無いか」
大佐の問いに、ため息を吐くクナイシィ。通信に切り替えようとする。
「おい」
スリィードが声を上げるが、ガイサが制した。
「大佐なら理解してくれるかもしれない。ただ記録されていない保証は無いぞクナイシィ、それでもいいのか」
「ああ、いいよ」
そう言ってクナイシィは大佐と言葉を交わした。何故、投射機の破壊が必要なのか、その全てを話した。
しばしの沈黙。
大佐の笑い声。
「きさまは、敵国のそんな言い分を受け入れようというのか! そんな魔法のような技術があると信じるのか。前言撤回だ、愚かな馬鹿者め」
「……愚かなのは大佐でしょう。トルアーリはアクスリアのように国を捨てて宇宙へ行かないんだ。いかに地下で汚染を遮断しようと、アスシアの汚染を減らさなければ苦しくなる。だから嘘をつく理由など何もない。国を捨てて、星を捨てて、宇宙へ逃げたあんた達に何を言う資格がある! 俺は可能性を信じる! だからここにいるんだ!」
怒鳴るクナイシィの声が響き渡った。
静寂。
クナイシィはタルートの左腕をわずかに動かす。
「動くな」
大佐の声。
わずかに動かすクナイシィ。
「動くな」
わずかに動かすクナイシィ。
「動くなと言っている!」
わずかに動かすクナイシィ。
「動くな!」
わずかに動かすクナイシィ。
「動くと撃つぞ!」
わずかに動かすクナイシィ。
「動くなと言っている!」
「……いつ撃つんですか!?」
「撃たせたいのか馬鹿野郎!」
クナイシィの顔がひくつく。
「あーーーー、もう! 大佐と遊んでる暇はありません!」
そう叫んで、クナイシィはタルートの左掌を頭部横にあてて、明後日の方向へ擲弾を連射する。
擲弾の空薬莢が大量に排出され、あてた左掌に跳ね返って、直下へ雪崩のように落ち続けた。
「くそっ」
大佐のいる場所へ薬莢が降りかかる。大佐は後方へもんどりうって転んだ。
クナィシィは損傷で動きにくいタルートを、なんとか動かして移動する。
「撃て!」
大佐の声と共に放たれる噴進弾2発。
防御波弾が弾く。
3発目、大佐の撃った噴進弾は、あらぬ方向へ飛んで消えた。
クナイシィは機を走らせる。
「ありがとうございます、大佐」
そう呟いて、投射機基部へ向かう。
「元、大佐だよ」
大佐はそう言って通信を切った。
クナイシィは投射機基部へ入り、操縦席を開けると、全爆弾の起爆を入力する。
画面が消え、真っ黒になった。
「これでいいのか?」
クナイシィが誰と無く問う。
「ああ、終わりだ。本当にありがとうクナイシィ」
ガイサが真面目な顔で答えながら、右手を差し出した。
「アスサイルにはトルアーリの衛星が回っていて、アクスリアも意図して壊さないでいる。その映像で投射機の破壊は証明されるよ。本当にありがとうクナイシィ」
カランディが声をあげた。
カランディを見つめて微笑むクナイシィ。
「どうなるかと思ったが、本当に助かった。私からも礼を言うよ。ありがとう」
博士の声。続く。
「ここから先は私とカランディ君でやる、浄化の技術は嘘では無く、確実に手に入ると私が保証しよう。まかせてくれたまえ」
「本当にありがとうクナイシィ、……僕はいつまでも君の友達だ」
「ああ、いつまでもな」
カランディを見つめるクナイシィ。
「アッー―! もう、さっさと帰るわよ!」
リンファムの声が、通信機の共振現象を起こしながら響く。
クナイシィ、スリィード、リンファムの三人は博士たちと別れ、駐機所へ戻ることにした。
「外の無人機に攻撃されないか不安だな」
スリィードの声。
「ああ、外の無人機は私の支配下にある物だ。私の支配下に無い無人機は国境線の領土防衛の無人機だけじゃよ。内部まで支配下に無い無人機を置くと色々面倒じゃからな」
博士が答えた。
通路を歩く三人。
「じゃあ、とっとと、の……」
「誰が逃れ者よ!」
クナイシィの言葉に反応するリンファム。
「いや、言ってない、言ってないですよ」
慌てるクナイシィ。
「あんた、私のこと、お、つけて呼んだらチョン切るからね」
「ちょ、いや、あのですね……」
慌てるクナイシィ。
「お前らイチャイチャするんじゃねーよ! 壁に穴開けるぞ!」
スリィードが怒鳴る。
「してないわよ!」
三人は無事に駐機所へ戻った。
前話アクセス5人とか死にたい
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次で完結です




