それでも生きよう
医者の口から出た言葉は、
「手術は成功しましたが、脳を強く打った衝撃で目が覚めたら記憶喪失になっている可能性が高いです」
と言ってお辞儀をして去って行った。
「え……?」
俺も妹もご両親も同じ顔をして居た。信じられないという顔。
「いや……いやぁああぁあぁっ!」
妹はもう大混乱。俺は泣き叫んで座り込む妹を両手で支えるしかなかった。自分も苦しい、泣きたい、だけどそれよりも先に妹を優先した。あの時もうちょっと長くうちに居ればこんな目には遭わなかっ……
いや、ダメだ。こんなこと考えて居たら晴に怒られる。俺は強くなる。もし晴が記憶喪失でも晴を支え続ける。
「弓子、落ち着きなさい。俺は、晴を信じる」
「で、でも……もし記憶喪失になっていたら……」
それは、両親のことも家族も俺たちのことも忘れているに違いない。それは覚悟の上だが俺らが信じなくてどうする。ご両親も泣きそうなのを堪えている。
「俺、毎日お見舞いに来ます。またずっと一緒に居させてください」
お願いします!と晴の両親に頭を下げた。
「もちろんよ、晴もその方が喜ぶわ。私たちなんかより」
「お言葉ですが…それは違うと思いますよ。1番に側に居て欲しいのは両親だと思います。毎日来てあげてください」
俺は怒鳴らずに言えた。俺、偉い!
ーー晴の病室は401号室
広々とした1人部屋だった。綺麗で過ごしやすい部屋。両親が共働きでお金には余裕がある家だったため、1人部屋にしたらしい。案の定、晴の両親は明日も仕事のため早くうちへ帰って行った。
「晴……」
俺と妹は今夜は一緒に居ようと思った。妹はすぐに眠りについたが、俺は頑張って起きて居た。
「生きてくれて本当によかった……」
また親友を無くす所だった俺。もしかすると神様は俺には友達を作らせないようにしてるんじゃないか?お前はアニヲタだから気持ち悪い、友達は作るなと言う知らせなのか?俺は決意した。皆のためにも今居る友達とおさらばする。もう親友を失くすのは嫌なんだ。無くすではなくて、失くす。
誰かに触られた気がした。俺の顔に太陽の光が当たる。
「ん……」
晴の目が覚めていて、俺の頭に手を置いていた。俺は寝てしまったのか。起きてようと決心していたのに。
「晴っ!?」
「ん……?」
俺の大きな声で妹も目が覚めたようだ。
「晴くんっ……」
「ずっと、居てくれてたんですか?」
晴が珍しく敬語を使っている。やはり記憶は無いのか?どう接したら良いか分からない。
「晴……」
「僕の名前、晴って言うんですか?」
晴はベッドの上に書いてある自分の名前を見た。漢字が読めていないようだ。
「なんて書いてあるのか分からない…ここはどこ?なんでここにいるの?あなた達は誰?」
俺たちも混乱しているが、1番混乱しているのは晴なんだろう。しっかりしろ、自分。
「貴方の名前は亜矢先晴哉って言うんだ。俺の名前は戸根澤海弥といいます。こっちは俺の妹で……」
「弓子って言うの」
「よろしく……」
何も覚えてないの…?晴くん……
先生の言うとおりだった。
記憶が無いんだな。
「生きていてくれて本当よかった……」
記憶なんて無くたって良い。生きていてくれればそれは嬉しいんだから。