墓荒らし
僕は故あって15年ぶりに、自分の母校である市立第三小学校に来ている。
夜の闇に紛れるように、全身黒ずくめ。まあ、ばれると困ることだからね。
「ああ、ここだここだ」
懐中電灯で照らした先には、「2013.2 6年3組開封予定」と書かれた看板。
鶏小屋の奥、空き地のスペースに置かれたその木製の看板は、何を隠そう、タイムカプセルがそこの下にあることを示している。
手に持ったスコップを使って、看板のすぐ下を掘っていく。
数分ほどかかって、土の感触とは違う、カツンという音。
…本当はこんなことやっちゃいけないんだろうけど、これは僕の名誉の為なのだ。
僕は小学生の頃、随分とマセガキを演じていた。
先生には「どうして人間は生きていかなければならないか」なんてくだらない質問を毎日のようにしたし、
勉強なんて必要ないとか、友達なんて必要ないとか、今となっては非常に恥ずかしい思想も持っていた。
当然、タイムカプセルを埋める日も、無関心を装って休んでしまった。
中学生、高校生、大学生、社会人と経て、そのことが後悔に変わったのは、何も不自然ではないはずだ。
そして現在、同窓会の幹事を担当するまでに至ったわけである。
至ったのはよかったものの、幹事とあろう者がタイムカプセルに何も入れていなかった…なんてあまりにも虚しいと感じたため、緊急策としてこのような外法を取らせてもらった。
しかし、実際来てみると、随分異様な空間だというのがわかる。
開封予定日の看板は、等間隔で並べられており、僕らのタイムカプセルの右隣には、「2014.2 6年3組開封予定」、その右には「2015.2 6年3組開封予定」の看板が置かれている。今日の昼に、今年分のタイムカプセルも埋めたと聞いたため、おそらく「2028.2 6年3組開封予定」の看板もあるのだろう。
更に言うならば、左隣には「2012.2 6年3組開封予定」の看板がある。すでに掘られていて、タイムカプセル自体は取り出されてはいるものの、看板だけはそのまま残してあるらしい。
当然、その左には…説明する必要もないだろう。
前には、「2013.2 6年2組開封予定」の看板、後には「2013.2 6年4組開封予定」の看板。
このように、市立第三小学校にはタイムカプセルの看板がぎっしり立っている。
さて、いよいよタイムカプセルを開封する。ガムテープが厳重に貼られており、非常に苦労する。
バリバリバリバリ
で、肝心のタイムカプセルは非常に軽い。マセガキの僕と、クラスのいじめられっ子で終盤不登校だった奴を除いても30個くらいのグッズは入っているはずだ。そこそこ重くないとおかしいのだが。
タイムカプセルの中身を確認する。
…白い棒状のものに、マジックペンで落書きが書かれている。
落書きの中には油性マジックで「チクリ魔」「最低野郎」などの暴言が含まれており、書いた人の名前が殴り書きにされている。
背中に嫌な汗が流れていく。そしてその予感は、白い棒についている赤いシミを見て確証に変わった。
「これって、ほ…骨…」
他のタイムカプセルも掘り進めていく。出てくるのは大小様々な骨。しかも埋めた年が最近になればなるほど、臭いもひどいものになっていく。
(そういえば今日の昼に、今年の分も埋めたって言ってたな…)
…となれば、確かめるしかない。推測が正しければ、おそらく生々しい死体が埋まっているはずである。
墓荒らしの罪に気が重くなりつつも、発掘作業を開始する。
しかし、今年分のタイムカプセルには、ガムテープが貼られていなかった。
中身を開けても、何も入っていない。どういうことなんだ…?
「これから入れるんだよ」
後ろから、小学生の声を聞いた。
翌日。幹事抜きで、予定通り同窓会は行われた。