11人目『笑ってた男』
「また泣いてんのかよ」
彼は決まって僕が泣いてるときにあわられる。
「泣いてなんかないよ」
僕は決まって彼にそう言って、涙をぬぐうんだ。
すると彼は決まって僕に言うんだ。
なら
―笑えよ―
ボクには怖ろしい力がある。
ボクには大きすぎる力が。
野良犬がボクを噛もうとした時だ。
ボクは初めてボクの力を見た。
それがボクはとても怖くてこの場所で泣いてたんだ。
その時だ。
彼が現れたのは。
それからいろいろ彼と話をした。
彼は言ったんだ。
「その力を使いたいときが必ず来る。だけど、絶対に使っちゃいけない。絶対だ。」
「なぜ?」
ボクは質問した。
―笑えない一生を過ごすつもりか―
―力を使いたい―
何回も何回も思った。
だけど、ボクは使わなかった。
ボクは力を使う代わりに涙を流した。
それでいいと思った。
―笑えよ―
その言葉が聞ければ笑えるから。
「また泣いてんのかよ」
現れたのは、彼じゃなかった。
「いつもどこで泣いてんのかと思ったらこんな所で泣くてるとはなあ」
助けて。
「おい。こっちだこっち。こんなところにいたぜ」
たすけて。
「今度は逃がさないぞ」
―タスケテ―
ボクは力を使わない。
力を使う変わりに、涙を流すんだ。
だけど。
ボクの涙は
―枯れちゃった―
ボクはヤツを直視した。
一生消えないんじゃないかと思うくらいに網膜に焼き付けた。
だけど、ヤツは一瞬のうちに消えていた。
その代わりに
―彼がいた―
気づいたら
すでに彼はこの世から存在しなくなっていた。
ボクは泣いた。
枯れてたはずなのに。
絶え間なく頬をつたった。
彼は
―笑ってた―
ニッコリと。
今まで見たことない満面の笑みで。
人生最良の時みたいに。
ボクには聞こえた。
―笑えよ―