9人目『守った男』
ある朝、一人の男が目を覚ました。
「そうだ・・・いかなくては・・・」
男はみんなが寝静まっている間に支度をし、足早に家を出た。
男は駅員になにか訪ねている。
そして指示された電車に乗った。
男は電車に揺られながら思い出していた。
ずっと昔のことを。
今でも色褪せることなく残っている思い出を。
「おかあさん。おじいちゃんがいないよ」
「え?おとうさんが?そういえば・・・・いないわね。ねえお母さん。お父さんしらない?」
「さあねえぇ。起きたときには、もういなかったからねえぇ」
「えっ!!うそっ!!それって大変なことじゃないの!?」
「おじいちゃんたいへんのなの?たいへんのなの?」
「心配することないよおぉ。おじいちゃんはねえぇ。約束を守りにいったんだよぉ」
「やくそく?」
「そう。約束」
その頃、年老いた一人の男は雲の上にいた。
小さい窓から眼下に広がる一面の雲の草原を見て、何を思っているのか。
その顔はすこし微笑んでいる。
「おかあさん。約束ってどういうこと?」
「あの人はねえ。若かったころは、世界中を飛び回ってたんだよぉ」
「へ〜。そんなの初めて聞いた」
「出会った頃に良く話してくれました。・・・その時、あの人は言ってたねえ。約束したって」
「それって……どんな?」
「男と、男の、約束だ。ってね」
一人の年老いた男はタクシーから降りていた。
そして近くの人に話しかける。
話しかけられた人は指を刺し、ある方向を示した。
男はその方向へと歩いていった。
すると、エメラルドブルーの空と、蒼く澄んだ海を、イスに腰掛け静かに眺めている人物が一人。
その遠い昔の記憶と一切変わることのない光景。
男はゆっくりとイスに座っている男に近づいていった。
ふと、イスに座っている男が振り返った。
しわくちゃの顔が次の瞬間よりいっそうしわくちゃになって男を見つめた。
男もしわくちゃの顔をしわくちゃにして男を見つめ、近づいていった。
イスに座っていた男は杖を使ってヨロヨロと立ち上がり一歩一歩確実に近づいていった。
二人はゆっくりとだが着実に近づいていった。
一歩、また一歩足を踏み出すたびに記憶が滝のように押し寄せる。
そして二人は力強く抱きしめあった。
昔、別れのときに抱きしめあった時より、体は小さくなっていた。
しかし、その友情は
―その時の数倍の大きさになっていた―