59人目『溺れる男』 60人目『訪れる男』
1話600字以下のため、2話同時掲載
59人目『溺れる男』
海で出会ったあの日。勇者気取りで出発し、帰ることができずにもがきくるしむ。
消え行く意識に浮かぶ君。
続く日照り、大地は乾き、人はもがき。50度目前、熱くなった道路上、僕の目前、焼かれるあなた。
僕は驚き、かすかな響き、慌てふためき、水を差し出し、アナタは飲み干し、よろけながら立ち上がり、去り行くあなたの姿は遠い。
海で拾ったあの日。勇者気取りで持ち帰り、開けることができずにそのまま眠る。
消え行く記憶に浮かぶ君。
降り続く雨、大地に溢れ、人は溺れ。2階目前、川となった道路上、僕の目前、流れるあなた。
僕は驚き、かすかな勇気、もがき苦しみ、右手指し出し、アナタも指し出し、おぼれながらつながりあい、近づくあなたの体は熱い。
ポケットからこぼれる思い出、あなたはその手でしっかり受けとめ、光り輝き姿をかえて。
再び出会ったこの日。勇者気取りで飛び込み、助けることができずに助けられる。
消え行く意識に浮かぶ君。
眠り続ける僕、大地は静まる、人は働く。2日目前、ベッドとなった道路上、僕の目前、見守るあなた。
僕は驚き、かすかな意識、力ふりしぼり、右手指し出し、アナタは握り返し、眠りながらつながりあい、伝わるあなたの想いは熱い。
60人目『訪れる男』
がんばっているあなたへ。
とても楽に目的地まで行ける車をあげようか。
それとも、すぐにでも欲しいものが手に入るお金をあげようか。
あなたは静かに首を振る。
ならば、小さな幸せをあげましょう。
するとあなたは泣くでしょう。
なぜならそれは、この世に溢れているのだから。
知らずに生き、いま初めて気づいたのでしょう。
こんなにたくさんの幸せに囲まれて、
あなたは嬉しくて泣くのでしょう。
そして、私は行くでしょう。
回りも見ずに、シャカリキにがんばる
あなたのもとへ。