7人目『泣いた男』 8人目『変わった男』
1話が600字以内だったため2話同時掲載
7人目『泣いた男』
家に帰ったら、誰もいなかった。
いつもなら母がいるはずなのに。
ま、買い物にでも行ってるんだろ。
電話が鳴った。
電話を取ると、それは近所のスーパーからだった。
「なにやってんだっ!!」
電話を切って叫んだ。
スーパーについて、奥の事務所まで通された。
そこに母はいた。
首を下げ、うずくまるように縮んでいた。
母と一切しゃべることもなく、店長にお詫びを言って帰った。
帰り道
なにをしゃべっていいのか分からない。
すると、母が口を開いた。
「あんたらが悪いんだ」
いきなりの言葉に俺は戸惑った。
「な、なんでだよ」
「あんたもお父さんも、私を邪魔者みたいに扱って・・・一体誰が面倒を見てると思ってるの」
母は怒ってるんだか泣いているのかわからない顔だった。
確かにそうだった。
母は寂しかったのだろう。
母はつらかったのだろう。
母は一人だったのだろう。
俺は立ち止まった。
「ごめん」
「今まで・・・ありがとう」
母の目から涙が零れ落ちた。
初めて抱きしめあった。
母がなきながら言った。
「遅いんだよ・・・」
「ごめん・・・ごめんなさい・・・」
俺の目からも涙が零れ落ちた。
家に帰ると、母はいつものように夕飯の準備に取り掛かった。
俺はいつものようにテレビを見てくつろいでいた。
いつものように二人に会話はなかった。
だが
―二人の心は通い合っていた―
8人目『変わった男』
目に涙を溜めて道を早足で歩いてゆく。
今のままじゃダメだってことぐらいわかってる。
だけど、そんな簡単に変わることなんて出来ない
涙を流して誓っても、次に日にはまたいつもの自分がいる
何でこんなに変わることが難しいんだ
頭の中で理想の自分を考えるのは簡単だ
だけど、それを実行するのが何でこんなに難しいんだ
こんなにもなりたいと願っているのに
どうしても踏み出すことが出来ない
本気になれない
向こうに待っているものが今までにない最高の場所だってわかってる
わかってるけど目の前にある苦痛を見るだけで足が止まってしまう
目をそむけてしまう
―俺って弱い―
弱すぎる
認めたくないけど
―俺って弱い―
―最低だ―
だけど
―あきらめたくない―
自分を
―あきらめたくない―
立ち上がりたい
這い上がりたい
どんなことしてだって前に進みたい
目の前の壁がなんだってんだ
夢のためにはその壁を何枚も何枚も乗り越えないとダメなんだ
ぶっ壊さなきゃいけないんだ
それなのに何してんだ!?
―俺―
何してんだ!?
行け!!
進め!!
さあ
今からだ!!
―明日じゃない―
―今度じゃない―
―今からなんだ―
やってやる!!
なってやる!!
―絶対に!!―
この瞬間
―男は変わった―