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男達  作者: N澤巧T郎
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54人目『勇者になった男』

旅路の果て


「奴はどこに居る」


一人の勇者が剣を地面に突きたて、体重を預けながらヨロヨロと歩く。


ふいに体から力が抜けた。


地面に膝をつき、荒い呼吸を繰り返す。


思い起こすのは、遠い記憶の果て。





希望を知らなかったあの日


貧困の村。苦しい生活。一日中働いても、その空腹を満たす食料はない。その疲れた体を癒す、やわらかい布団はない。


人々は、たった一つの気持ちしかない。


―死にたくない―


そのために、そのためだけに生きていた。


ある日


少年は父に言った。


「こんな生活、もうやめたい」


父は働く手を止め、息子の目を見ていた。ふいに目線をはずすと、再び働き始めた。見つめていた父の顔は、何かを押しつぶしている表情に思えた。


真実を知ったその夜


少年は一人の青年に起こされた。


「ついてきて。静かに」


2人は誰にも気づかれないように村を出ると、近くの林の中を分け入るのだった。


「教えてあげる。真実を」


突然青年が止まる。顔だけ振り向き、少年を見る。少年は、青年の前へ歩み出る。


そこには無数に突き立てられた剣という剣。


その一つ一つに名前が刻まれた剣という剣。


「それは、すべてを闇から解き放つ剣。すべてに光を照らす剣」


月の光を反射し、光り輝く剣の森へ迷い込んだ一人の少年。


希望を知ったその時


青年は少年に真実を告げる。


―誰だって、勇者の剣を持っているんだよ―


煌めく剣の中から、見つけ出した父の名前。


その隣にあった、少年の名前が刻まれた煌めく剣。


押し殺そうにも、涙を止めることが出来ない青年が言う。


「僕達には……ただ……勇者の剣を抜く……勇気がないんだ……」


歯を食いしばりながら、悔しそうに青年が言う。


「ただ、剣を抜くってだけの……勇気がないんだっ」


膝を地面につけ、拳を地面に振り下ろして青年が言う。


―勇気を持つ者……勇者が……いないんだ―


ただでさえ傷だらけで、少し触れただけでも崩れてしまいそうな青年の手。


強く打ちつけられた手から血が流れた。


ただでさえ小さく、少し強く握っただけでも壊れてしまいそうな少年の手。


強く突き立てられた剣を力強く握った。


勇者となったその日




みんなを苦しめているのは誰だ。


こんなも辛い世界を造ったのは誰だ。


未来から希望を奪ったのは誰だ。


明日から夢を奪ったのは誰だ。


あんなに生きるのに必死な人達から、


―勇者から勇気を奪ったのは誰だ―




世界の果て


「奴はどこにもいない」


世界をくまなく探し歩いたが、奴はいない。


世界をくまなく捜し歩いたが、いたのは苦しみ傷つく人たちだけ。


奴はどこにもいない。


突然の風


一つの答えを勇者に導く。


奴を見つけたのだ。


しかし、奴を倒すには、今までにない勇気が必要になった。


始める勇気よりも、止める勇気よりも。


どんな勇気よりも大きく強く、自信と信念に満ち溢れた勇気が必要になった。


自分を信じる勇気が。





今まで歩いてきた道。


自分の意思に従った判断。


今まで生きてきた日々。


自分の意思に従ったあの日。


数限りない涙。


数限りない嘆き。


数限りない餓え。


数限りない怒り。


数限りない諦め。


そのすべてが、勇者の勇気となる。





勇者の剣が天をさす。


太陽が反射し、空の雲を一段と白くする。


そして




―自分の胸を貫いた―




そうなのだ。


自分を苦しめていたのも、自分を追い詰めていたのも、自分を信じることが出来なかったのも、踏み出す勇気を奪ったのも


そいつは




―自分のなかにいたのだ―




一人の少年の名が刻まれた剣から、光が解き放たれた。


それはまるで、小さなカゴの中に入れられた小鳥達が、一斉に飛び出すようだ。


そして、闇に支配されていたすべてのものに、光が注がれる。





砂漠に水を


大地に緑を


山に潤いを


風に安らぎを


自然に感謝を


時間にゆとりを


出会いに奇跡を


明日に光を




―あなたに勇気を―








どこにでもあるような、のどかな村。


いつものように、村人たちは幸せな時間を過ごしている。


遠い昔、勇者になった男と共に。



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