50人目『叫ぶ男』
長い長い螺旋階段を猛スピードで駆け上る。
「はあ、はあ、はあっ」
「あっ」
ドテッ
男は躓いてしまった彼女に手を伸ばす。
もう1人の男は近くにあったタルを階段の下にめがけて放り投げながら言う。
「急げ!!追いつかれる!!」
つないだ手を離すことなく階段を駆け上がり、ドアを勢いよく開けた。
そこは、高い高い塔の最上部分。
空に浮かぶ雲がすぐ近くまで迫っていた。
「ダメだ。道がない!!」
ドアを急いで閉め、背中を押し付けた男に向かい、振り返りながら言った。
階段を駆け上る音が、すぐそこまで迫っていた。
ドアを押し付けながら叫ぶ。
「行け!!たとえそこに道が見えなくても!!」
ドン
「踏み出せ!!」
ドン!
「そうすればっ!!」
ドン!!
「足元に道が現れる!!!」
ドン!!!
「いや、もともとそこに道がなくても!!」
ドンッ!!
「存在しなくてもっ!!」
バキッ!!
「その踏み出した足がぁっ!!」
バキバキッ!!
「道を創る!!!」
力強く地面を押し、全力で駆け始めた。
その足は一歩一歩確実に地面を蹴っていく。
そして、次に踏み出した足の着地地点には、その地面は存在しない。
「行けええええぇぇぇぇぇ!!!!」
その瞬間ドアが破られ、何人もの人が押し寄せた。
押し寄せた人達は地面の端まで行き、立ち止まる。
ドアの下敷きになりながら言った。
「追いかけたいなら追いかけろ。お前らに踏み出す勇気があるならな」
追いかけてきた人達は、ただ黙って見つめることしか出来なかった。
空を駆ける、二人の姿を。