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男達  作者: N澤巧T郎
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49人目『放火男』

「本日も7件にも及ぶ放火が行われました。その手口や証言により、犯人は同一人物だと思われます」


今、ちまたをにぎわせている事件といえばこの連続放火魔のことだろう。


次々と放火していくその手口は実に巧妙で、隙がない。


現在得られている情報は性別が男だということだけだ。


「放火された本人に証言を聞くことに成功しました。独占インタビューです」


プライバシー保護のため音声は変えております。


『今まで生きて来た人生の中でもっとも衝撃的な出来事でした。一生忘れない、忘れることの出来ない出来事になったことは間違いないですね。一刻も早く放火男を見つけて欲しいです』


そんな放火された人の気持ちもむなしく、男は姿をくらましながら次々と火をつけていく。


今日もまた、放火男により、火が付けられようとしていた。




真昼時、公園のベンチに背広姿の若い男が座っていた。


Yシャツのソデを炊くしあげた腕で缶コーヒーを掴みながら、深いため息をついている。


「はあー……」


コーヒーのラベルに書いてある成分表を、意味などわかるはずもないのに読み。


「はあー……」


そんな若い男の隣に、何食わぬ顔で1人の男が腰を下ろした。


男はしばらく周りの景色を見回すと、さもそれが当然の如く自然体でしゃべりだした。


「頑張りたいのに頑張れない。全力を出したいのに手を抜いてしまう。あきらめたくないのにあきらめてしまう。向き合いたいのに目をそむけてしまう」


若い男は丸めた背中をそのままに隣の男を見た。


男はまるで独り言のように話し続ける。


「だから自分はダメ人間だ。どうしようもない人間だ。一生こんな感じで、何事に対しても本気になれず、中途半端に終わるんだ。そんな自分は最低だ」


男は先ほどと変わらず、何食わぬ顔で話し続ける。


「それは間違っている。決して自分だけが本気になれないんじゃない。人間っていう生き物は


―誰もが100%の力を発揮する事を自分で押さえつけてしまっているんだ―


これは奇麗事とか理屈じゃない。


―ちゃんと心理学で証明されている事だ―


だからそんなに深く考えることではないんだ」




確かにその時、若い男の見る目が変わった。





「この事を知ってどうするかは人それぞれだ。しかし、何か1つ言えることがあるとするならば、何かを知るということは


―生まれ変わるのと同じ事なんだ―」








若い男はすっと立ち上がった。








その背中は、まっすぐに空に向けられ、胸はピンッと張っていた。


若い男はベンチから離れていく。


男は先ほどとなんら変わらずにしゃべり続ける。


「―誰にだって火種はある―


あとはそれをどう爆発させるかなんだ」



放火男によって付けられた火は、いつまでも激しく燃え続ける。


その火を消す手だては、いまだ存在しない。




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