6人目『くやしがった男』
6人目『くやしがった男』
スピードスケート500m決勝二日目
「さあいよいよ金メダルが見えてきましたね」
「そうですねえ。一日目で自分の持っていた世界記録を大幅に更新しましたからね」
「彼は一体何者なんでしょうかねえ」
「そりゃもう天才の一言に尽きると思いますよ」
「ですよねえ。なんせスケートをはじめてまだほんの少しですからねえ」
「まさに天才ですよ。初めて出場した公式レースでいきなり世界記録ですから」
「史上最強のスピードスケーターと言ってもいいんじゃないですか?」
「そうですね。彼は最強ですよ」
「それと彼の発言にも毎回驚かされますよね」
「そうですねえ。彼のその無謀とも呼べる発言。しかし、それを軽く実行してのけてしまう実行力。まさに天才です」
「今回も一日目、二日目ともに世界記録で金メダルを取ると言っていますが」
「すでに昨日も世界記録を出していますからね。やってくれるでしょう」
「さあ、いよいよ最終組、彼の出番ですが、どうですか?表情というか見たところの体調といいますと」
「いいんじゃないですか?いつもどおりですよ」
「そうですねえ。現在2位のタイムを見る限り、メダル圏外になることはないと思うのですが」
「そうですねえ。たとえ世界記録でなくても、七割くらいの力で走っても金メダルですよ」
「そうですか。さあ、二人とも位置につきました」
パン
「さあスタート!!最初の100メートルはどうだ!?」
「いいですよ。ちゃんと氷を掴んでます」
「おおっとこのタイムは昨日より速いぞ!!」
「世界記録ペースですね」
「さあ、バックストレート。ここで内側のレーンへと移ります」
「いいですよ。乗れてます。内へ入って」
「さあ!まもなく最後の直っと転倒だああああ!!!!」
「あああああ!!」
「これはどうしたことかっ!!??壁に激突!!!」
「うわあ!!これはっ、ああああ!!!」
「ここで抜かれます。ああっとでもすぐに起き上がる!!が、なにかフラついています!!」
「頭から激突しましたからね。気を失わなかったのが不思議です」
「ここで先にゴール。ああ、いま懸命にゴールへ走っています」
「最後まで、最後まで滑って貰いたいです」
「こ、こ、で、ゴールです」
「いやあ、よく最後まで走りました。あっ」
「ん?おっと、これは。なんと、2位です!!転倒したのにもかかわらず2位です!!すごい!!すごすぎる!!」
「…彼、泣いてませんか……?」
「ん?ホントです。泣いています。これは嬉し涙か?」
「見る限り……違うみたいですよ」
「そうですねえ。しゃがみながら首を横に振っています」
「しかし、よくやりましたよ」
「そうです。よくやりました!!銀メダルです!!おおっと?いま立ち上がって実況席にも聞こえるくらいの声で“ちくしょう”と叫びましたねえ」
「ええ。こんな姿、初めてみますよ」
「そうですねえ。どんな大きな大会で勝っても涙は見せませんでしたからね」
「いえ、そういうわけじゃなくて」
「はい?」
―こんなにくやしがっている人間は、見たことがありません―