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男達  作者: N澤巧T郎
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44人目『山男』

「イタタタタ」


「おいどうした」


「靴擦れしちゃった」


ハイヒールで山登りに来るやつがあるか。


靴擦れして当たり前だ。


「じゃあもう帰るか。残念だけど」


どこが残念だ。


むしろ幸運だったのに気づかないのか。


そんな軽装で進んでいたら山が怒る。


靴擦れで済んでよかったと思うべきだ。


万が一が起こるのが人生だ。


自分には訪れないと決め付けるのがどれほど愚かなことか。


そこのところをしっかりと理解してから登って欲しい。




次はもう少し上へ登ったところを見てみるとしよう。


おじさんやおばさん達のグループが登っている。


話に花が咲いていて楽しそうだな。


……しかし、見ていると山に登りに来ているのか話に来ているのかわからなくなるなあ。


周りの景色なんてまったく見ずに中間地点で昼食を取っているが、やはりその間もぺちゃくちゃとしゃべってばかりだ。


そろそろ出発しないと山頂にはつけないと思うんだがなあ。


しかし一向に腰を持ち上げようとはしない。


話は盛り上がる一方みたいだ。


別に悪いことではない。


しかしだ。


山に来たのなら、そこでしか出来ないことをするべきだ。


この前家族で来ていた登山客がいたが、子供はずっと携帯ゲームの画面を眺めていた。


自分の周りの景色や風景に、興味や魅力を感じなくなってしまって、どうやって生きていくというのだろうか。


結局おじさんおばさんグループはそこで散々しゃべったあげく、下山した。




山の天気はよく変わる。


ポツポツと雨が降り始める。


そんな中、かばんを降ろし、中から合羽を取り出して着る男がいた。


男はゆっくりと、杖を突きながら、時々止まり、先ほどとは違った一面を見せる山の風景を眺めながら。


男は着実に上へ上へと足を運ぶ。


そして、頂上へたどり着いた。


が。


天気は雨、あたり一面薄暗い雲で覆われている。


しかしだ。


ここまで登ってきたんだ。


その努力を認め、今日もまた至高の景色を見せてやろう。




雨が上がる。


男は右手でフードを取る。


雲が勢いよく流れ始める。


広大に横たわる灰色の雲河。


形を変えながら壮大に流れるその姿に男は恐怖すら抱いてしまう。


地球上で最も大きな河から太陽がその姿をさらす。


灰色だった雲河が真っ白に輝きだす。


男は、当たり一面に流れる雄大かつ壮大な雲河に目を、魂を奪われた。





―我は山の神―




山に敬意を払い、自然を愛で、時に休んだがあきらめることはせず、ただひたすらに上を目指した者よ。


覚えておくがいい。


この世に、


―報われない努力など存在しないということを―




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