40人目『広げた男』
俺の不注意だった。
疲れてたんだ。大学が終わってすぐにバイトへ行って、帰ってきたらすぐに飯を食べて風呂に入って。
もうフラフラしながら部屋に入ってエサをやって、窓を開けて月を見て。
その日は夜風が気持ちくて、綺麗な三日月だった。俺はうとうとし始めて、そのまま眠ってしまった。エサをやって、鍵をかけ忘れていたことに気づかないまま。
翌朝、いつものように鳴き声が聞こえないことに気づいて目が覚めたときには遅かった。すでにカゴの中にはいなかったんだ。
俺とキミとをつないでいた子鳥が。
弱々しい子鳥の鳴き声がしてたっけ。俺が見つけたんだけど、どうしていいか分からなくなってたときにキミが現れて、すぐに家へ連れて行ったっけ。
キミは一人じゃ育てられないからって無理矢理俺にも手伝わせて、結局二人で世話をしたっけ。
小鳥が元気になったから大空に逃がしてあげたっけ。それで俺とキミとの関係も終わるはずだった。だけど、小鳥は僕とキミの家を行ったり来たりしてたことに気づいたんだ。
そんなある日、いつものように小鳥が窓を叩いたから開けると、足に紙がくくり付けられてて、それは、キミからの手紙で、俺もキミに手紙を書いて足に付けたっけ。
いつしか小鳥は、俺とキミとをつなぐ架け橋になってたんだ。
その日、キミは遠くへ行ってしまうと俺に告げた。
キミはまだ何か言いたげだったけど、俺はもう、何がなんだかわかんなくなってその場から逃げ出した。
そして、キミからの最後の手紙を持って小鳥がやってきた。
―俺は返事を書けなかった―
そしてキミは遠くへ行ってしまった。
そんな俺とキミとをつないでいた小鳥を逃がしてしまった。
これで二度目だ。
大事なモノが遠くへ行ってしまって泣いたのは。
トントン
あれから数日が経っていた。俺は急いで窓を開ける。
そこには足に手紙を付けた小鳥が。
手紙は、最後にもらった手紙と一字一句、涙のシミまで一緒だった。
俺は、たった3文字の言葉だけを書いて、小鳥の足に付けた。
小鳥は大空へと飛び立った。
山を越え、海を越え、小鳥は俺の思いを乗せていく。
トントン
ガラガラガラ
ポタポタと涙が落ちる音がする。
ピンポーン
涙をぬぐい、鼻をすする音がする。
ガチャ
そこには
―男が立っていた―
しばらく沈黙したのあと
―男が女を抱きしめた―
小鳥が二人をつなぎとめるのはもうおしまい。
男はすでに
―大きな大きな翼を広げたのだから―