38人目『雨男』
降水確率0%の蒸し暑い夏の日。雲ひとつない青空でも、この男には関係ない。
この男が一歩外に出ればどこからともなく積乱雲がもくもくと立ちこめ、ギンギンの太陽を覆い隠し、薄暗い世界にしてしまう。
そして、まるでジャングルのスコールのごとく豪雨を降らすのだ。
今日もまた、男が外へ出かけようとしている。もちろん傘を忘れることはない。男も自分の性格?を十分承知している。
ガチャ
ゴロゴロゴロ
案の定、雷雲が現れてセミのミンミンという音に変わってザーザーという音があたりを包む。
晴天から一変しての大雨。
洗濯物を出したまま出かけていった人のことを考えれば少し胸が痛むが、男は言う。
「まあ、そんな日もあるさ」
自分はちゃんとふとんや洗濯物を家に入れているが、そんなことは気にしない。人生何があるかわからないもんだ。
男は大雨の中を傘を差して歩く。しかし、他の人は傘なんて持ってないからビショビショになりながら走っていたり、雨宿りをして困っている。そんな人たちを見ると少し胸が痛むが、男は言う。
「雨に打たれるのもいいもんさ」
自分は傘を差しているが、そんなことは関係ない。人生晴天ばかりじゃないもんだ。雨には打たれておいたほうがいい。そして、それを楽しむのも一つの手だ。
そうこうしているうちに男は買い物を済ませ家へと帰る。しかし、さっき来た道ではなく、見晴らしのいい公園へとやってきた。
なぜなら男は十分に自分の特性?に気づいているから、どのくらいで雨が上がるのか十分承知しているというわけだ。
ほら、雨脚が一気に遅くなって雨が止んだみたいだ。するとどうだろう。目の前に広がっていた薄暗い雲の隙間から、太陽光が我先にと飛び出して来た。
ゆっくりと動く空模様をじっくりと見ながら男は言う。
「いきなりの大雨が降ったっていいじゃないか。こんな景色が見れるんだから」
実際この景色を見ている人がどのくらいいるかわからないが、そんな事この際どうでもいい。
一生続くような晴天が、突如として大雨に変わる。大雨は一生続くんじゃないかと思ってしまうほど激しく降る。しかし、一生晴天が続くことがないように、一生大雨が続くこともない。
大抵、身震いするような光景ってのは、そんな大雨の後に待ってるもんだ。