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男達  作者: N澤巧T郎
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35人目『越える男』

「もう、やめようと思ってるんだ」

「はあっ!?」

 こいつが突拍子もない事を言うもんだから必要以上のリアクションをしちまったじゃなねえか。

「やめるって何をやめんだよ」

 まあいつものように禁酒でも宣言すんのか? そんで2分後にはグイッと飲んでんだろうな。

「引退しようと思う」

「はあっ!? なにを言ってんだおめえは!?」

 こいつの考えてることはわかった試しがないが今回ほど理解しがたいことも初めてだ。

「なんでだ? 理由を言わんことには何も言えんぞ」

 “やめようと思ってる”って俺に相談したってことは、まだこいつは迷ってるってことだよな。まずは一体こいつが何を考えてるかわからんことにはどうもこうもしようがあるめえ。

 「なんていうか……こう決められて……いろいろさ……好きに指して……まあ、だから……かな」

 まったくもって理解不能だ。世界最高のスーパーコンピュータを持ってしてもこいつの言った事を解読することは出来ないだろう。ってか俺に意見を求めてる時点でこいつは本当は引退なんてしたくないはずなんだ。

 本当にやめたいんだったらさっさとやめてるっての。こいつは昔からそうなんだ。人の意見なんて聞くヤツじゃない。ったく世話が焼ける。ようはこいつ。やめる理由じゃなくて、


―続ける理由がわかってないんじゃねえのか?―


 それじゃあなんだ? 俺はなんて言えばいいんだ? う〜ん。こいつは俺に何て言って欲しいんだ? ああもう。なんで俺はこいつのことでいつも悩まなきゃならねえんだ。考えさせられっぱなしじゃねえかよ。まったく


―こいつはいつも俺の想像を超えていく―


 その度に俺は悩んでは考える。だけど、


―追いつけたことなんて一度もなかった―


 よし、もう考えるのはよそう。こいつに考えなんてモノ通じねえんだから。口から出てくる素直な言葉を信じよう。


「……例えばだ。お前の指したその一手。対戦相手含めその対局を見ていた全ての人々がお前の敗北を確信したとする。対戦相手は悠々と対局を進めていく。お前も当たり前のように駒を指す。すると、次の一手を置こうと差し出した対戦相手の手が突如震えだす。平然と指したお前の一手が、


―その場にいた全員の想像を超越したんだ―


お前は別に驚かない。なぜなら、全員が敗北を確信したときから、お前は


―勝利を確信していたから―


どうだ?


―人の想像を超える以上の喜びなんてこの世に存在しねえんだよ―」





 ……う〜ん。はっきり言って自分でも何言ってるかよくわからんかったなあ……。でもまあ、大丈夫みたいだな。


パチンッ


 あいつの目が、早く次の一手を指せと俺に訴えかける。いいだろう。やってやろうじゃないか。お前の想像なんて、


―軽く飛び越えてやる―


パチンッ


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