31人目『賭けた男』
俺はギャンブラー。
賭け事ならなんでもしてきた。
パチンコにスロット、競馬に競輪、そして競艇。
そんなどこにでもいるお父さん方がやってることなんて10代の頃にすでに卒業してたさ。
もっと大きな、そして危険な賭けをして来たんだ。
金だけじゃない。
物だって人だって賭けてきた。
だが俺は
―命だけは賭けなかった―
自分の命。
これだけは賭けなかった。
そこが俺の悪いところかもしれない。
だから俺は、食いっぱぐれもしないけど一生遊んでもいけない微妙な位置にいるんだろうな。
「さあ、あなたはどれに賭けますか」
俺の番か……ここは無難に賭けとくか。
「これで、よろしいですね」
勝てば当分は好きに暮らせるな。
負けても命をとられることはないんだ。
またイチからやり直し、いや、賭け直せばいい。
「さあみなさん。今回は特別サービスタイムになります」
ん?
なんだそれ。
「勝てば今までの倍率の100倍になります」
マジかよ。
やばいな……。
「しかし……負ければ同じように賭けた100倍没収します」
しまったな……。
「もちろん。支払えないのであれば、あなた自身で支払ってもらう事になるでしょう」
「ちょ、ちょっと!!それ、一体どういうことよ!?」
ほう、抗議するやつがいたか。
無駄なことだ。
俺らギャンブラーは、ホスト側の遊び道具でしかないんだからな。
「もちろん。アナタの命……ということです」
「そ、そんなのダメダメ!!ナシナシ!!降ります!!」
「それは出来ません。それでは初めます」
当たり前だ。
賭けてから降りるなんてタブー中のタブーだ。
そんなのも知らないのかこの女は。
そんなことより……頼むぜ!!
「お願いお願いお願いお願い」
「やったよ……やったよ……ついにやったぜ……」
―やっちまったぜ―
終わっちまうのか……。
「うそ……そんな……」
あの女もダメだったか……。
やっぱり
―命なんて賭けるもんじゃねえな―
「さあ、敗者の皆さん。こちらへ」
「嫌よ……」
ん?
「こんなの絶対イヤ!!」
「いいからこっちへ来い!!」
「まだ死にたくない!!死んでられるか!!」
……たしかに……そうだな……。
―死なないために、命賭けますか―
「うっ!!うええええ!!」
「なんだ?そんなに死ぬのが怖いか?それとも悪いもんでも食ったか?ケッケッケ」
「……正解」
「なっ手榴だっ」
カチッ
ドガーン!!
「逃げるぞ!!走れ!!」
「えっ!?あっ!!ちょ!!」
数年後
もう賭け事なんてコリゴリだ。
そう思ってた。
だけど……。
やっぱりこれが俺の性なのかもしれないな。
―この子の幸せのために、俺の命を賭けよう―
我が子を抱きあげながら言った。