29人目『発明した男』
「……出来た……とうとう出来たぞ!!これで俺は、億万長者だあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
その後、高笑いを延々1時間ほどしたのち、隣の家から苦情が来てペコペコ謝っているこの男。
いわゆる一つの発明家という職種の人だ。
特に彼は薬の分野が強いようで、今までにもいくつか発明しているらしい。
しかし、最近は一つも新しい薬を発表していなかった。
それはなぜかというと、ある一つの薬を黙々と作り続けていたからだ。
そして、それがやっとこさ完成を見たというわけだ。
男はすぐに知り合いの製薬会社に電話をした。
会社側はその薬の効能を聞くとすぐに大量生産を開始した。
こんな画期的な薬が売れないわけがないと踏んだわけだ。
そして、その薬は大々的に宣伝される事になったが、この薬には一つの問題点があった。
それは、「どんな副作用があるのか判明していない」と、いうことである。
それでも大量生産したのはそれ以上に効能が魅力的だったからだ。
効能
―勇気が持てる―
この薬を服用すればたちまち勇気が沸いて来るのだ。
これほど便利な薬はない。
人生で一番必要なものは勇気なのだ。
一歩踏み出す勇気。
これがあるのとないのとでは天と地ほどの差がある。
誰もがこの薬を欲しがるに違いない。
しかし、発売からしばらくたっても、薬はさっぱり売れなかった。
当たり前だ。
勇気を持っている人は買わないし、勇気がない人は副作用が怖くて飲めないのだ。
結局、勇気というものは
―他から得られるものではないということだ―