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男達  作者: N澤巧T郎
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26人目『わかり合う男』

何でボクがこんなところにいるかって?


それはね、パパとママがとってもアウトドア派なんだよ。


週末には山に海にボクをつれてくんだ。


ボクはね、別に嫌いなわけじゃないよ。


だけどさ、こういうのは時々いくのが良くってさ、そんなちょくちょく行かれてもボクは飽きちゃったんだよね。


って、ボクが言っちゃったんだよ。


それがいけないかった。


「それなら、初めて行く所に行こう!!」


って、張り切っちゃったんだ。


こうして、今ボクはジャングルにいるわけ。


それにしても……。


ガクンッ


「道でこぼこすぎ!!尻痛いから!!アザ出来ちゃうって!!」


「あっはっはっは、この揺れがいいじゃないか。日本じゃこの揺れは体験できないぞ?」


にこやかにお父さんが言った。


「揺れなんてどこも一緒だって!!」


「でもよかったじゃない。まだ蒙古斑があるからアザが出来てもわからないわよ」


にこやかにお母さんが言った。


「見分けがつかなくてもアザだったら痛いでしょうが!!そこが問題なんだから!!見た目の問題じゃないし。ってか誰かに見せるわけないだろ!!」


ボクはプンスカ怒っていた。


「ヘイ、ボーイ!!」


鉄砲を持ったガイドの人が話しかけてきた。


「ルックルック!!」


指をさしてるところからすると、見ろってことかな?


「ビッグバード」


「いや、どうみても飛行機ですから!!子供だからって騙されませーん!!どうせならもっと気の利いたこと言って」


ボクが言ったことをお父さんが訳してガイドに伝える。


ガイドがなにやら言って遠い目で外を見る。


お父さんがいう。


「今のが彼の……ベストだ」


その後、揺れるジープの中で言葉が交わされることはなかった。




本日のキャンプ地に到着。


「いや〜やっぱり空気が違うなあ空気が」


「それ何回目?そんなにころころ空気が違ってたら困るでしょうよ」


そう言ってジープから降りる。


どこからともなく鳥の声が聞こえてくる。


今まで見たこともないくらい深い緑色の世界が広がっている。


お父さんにはああ言ったけど、確かに空気が濃い感じがした。


深くて濃い、地上なのに深海みたいだ。


「ここが今日泊まる家ねえ。やっぱり小さいわねえ」


お母さんが見ていた木のドアには“W.C”と書いてあった。


レストランで見たことがある。


トイレって意味だ。


屋根もないし寝っころがれないほど小さい。


ボクは何も言わずに上を見る。


「……まぶしいな……」


緑の空には星が輝いている。




さてと、今日泊まるのは木で出来た丸太小屋だ。


まだ夕食まで時間があるから荷物を置いてみんなで近くを散策することにした。


あらためて歩いてわかったことは、全然静かじゃないってこと。


騒がしいって言ったほうがいいかもしれない。


猿もウキーウキー言ってるし相変わらずトリもピーピー言ってるし虫もブーンって飛んでるし。


「やっぱり空気が違うなあ。ほら、胸いっぱいに空気を吸い込んでみろ」


フーー


「ん゛ぐっ!!ブフッ!!ンー!!鼻に!!虫が!!」


相変わらずお父さんは暑苦しいし。


「大丈夫?気をつけなくちゃ。ハナには虫が寄ってくるものだから」


「植物の花には寄って来るけど人間の鼻には寄ってこないって。鼻に入っちゃったのはお父さんの吸引力が強かっただけ!!」


お母さんも相変わらずだし……。


「ヘイ、ボーイッ」


「はい?」


すごい笑顔で採った虫を見せてきた。


「ビードル」


「へえ、カナブンってここの言葉だとビードルっていうんだ〜」


するとお父さんがすかさず会話に入ってきた。


「いや、ビードルとはカブトムシのことだぞ」


「え?でもこれはカナブンじゃ……あ、そうか。カブトのメスと間違えたのか!?」


父がそれはカナブンですよと話すと、さっきまでの笑顔が一気になくなり、どこか寂しげな表情でカナブンをもといた木に戻していた。


「ハア……もう……帰りたい……」


肩を落として森の奥を見ていたら、何かがすーって動いたんだ。


サルかな?


ボクはそう思って奥のほうへ行ったんだ。


そこで僕が見たのは、サルなんかじゃなかった。


ヒトだった。




「こうして、今ボクはジャングルにいるわけ。それにしても……」


彼はさっきから何も言わないでボクの話を聞いている。


彼は一言もしゃべらない。


本当にボクの言ってる言葉を理解してるのかなあ。


だけど、彼の目を見たらボクのそんな心配は吹き飛んだ。


「お父さんはボクの事を何にもわかってないんだ。僕の気持ちくらい理解してほしいよね。それにお母さんはお母さんで何考えてるのかさっぱりわかんない。それにガイドさんの言葉もよくわかんなくてその上なんかいろいろ間違えるかしさあホントに大丈夫?って心配しちゃうよねえ。だからさ、誰もボクのことなんてわかってくれないんじゃないかなって思ってるんだ」



―誰かと理解しあうことなんて、出来ないんじゃないのかな―



そう言うと、今まで隣に座って聞いていた彼が静かに立った前へ歩いていった。


薄暗い森の中でその場所だけ光が射していた。


まるで、森が創ってくれた彼だけの場所みたいだ。


そこまで行くと、彼は左腕を肩の高さまで持ち上げた。


すると、どこからともなくカラフルな鳥達が腕に止まって美しい歌を囀り、大きな蝶がゆらゆらと飛んできた。


隣の木から小さなサル達がやってくると体を登って追いかけっこ。


足元から芽が生えて、綺麗な花を咲かす。


茂みからヒョウが出てきて、ゴロゴロと喉を鳴らしてネコみたいに首をこすりつける。


そして、生い茂る葉っぱで出来たカーテンの向こうから大きな体のゾウがのっそりと現れて、彼は右手でやさしく鼻をさすりながら、ボクのほうを優しい瞳で見ながら言ったんだ。




僕達はね


―わかりあえないことなんてないんだよ―



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