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男達  作者: N澤巧T郎
20/52

24人目『風になった男』

大勢の人々は物音一つさせず、中央のコートを見ていた。


初めはあれほど熱く盛り上がっていたのに、今では誰もが息を飲み込んでいた。


人々は


―1人の男を見つめていた―




バスケットボールインターハイ決勝


第4クォーター。


残り3分。


コート上に


―風が現れた―




第4クォーター


残り8分。


突如として彼の動きが鈍くなった。


彼は序盤から他を圧倒した動きを見せていた。


そんな彼を動かしていた何かが切れたようだった。


攻撃の要、彼が止まれば、チームが止まる。


監督は迷った。


代えの選手はいる。


だが、荷が重過ぎる。


勝つには彼しかいない。


監督は続行を決意。


残り7分


しかし、彼の動きはなおも遅くなる。


残り6分


体中から汗が滝のように流れている。


残り5分


ゼエゼエとアゴをあげ、肩で息をする。


残り4分


こちらのシュートがはずれ、リバウンドを許した。


ディフェンスに戻る途中、彼は


―止まった―



コートの中央で前を向いたまま立ち尽くす。


ゼエゼエという呼吸がこちらまで聞こえてくる。



案の定、簡単にシュートを入れられた。


肩を上下におおきく揺らすだけで、他の部分は石造のように動かない。


彼に、チームメイトの一人が近づいた。


「おーい、聞こえてるかあ?」


目だけが動きチームメイトを見る。


「おまえは今なにを考えてんだ?もう疲れて動きたくないとかか?なんでここにいるんだとかか?あ?ったくよ。このままじゃどうなる?わかるだろ?おい。


―負けちまうんだよ―


わかってんのか?それが、どういうことか」


男は、ボールを奪われ、再びシュートを決められそうになっているチームを見る。


そして、今までの道のりが頭をよぎる。




初めてボールのボツボツを触ったときの感触。


たった一人で手作りのゴールにシュートを決めていた夏の日。


島を出て、この学校にやってきた。


そこには、自分と同じ人間がたくさんいた。


どんなに苦しくても、どんなに辛くても、上手くなるためなら、勝つためなら乗り越えられる。




―バスケが好きだから―




それに


―もう一人じゃない―





たたずむ男に放物線を描きボールが近づく。


男がボールを見据えた。


次の瞬間。


―ボールは風に乗った―


疾風がコートの中に吹き荒れる。


風を止めようと5枚の壁が立ちふさがる。


しかし、風はいとも簡単にすり抜ける。


風はふわりとボールを持ち上げる。


そして、


―ゴールへ稲妻が落ちた―




会場は沸点に到達した。


観客は、その暴風に喚起の声をあげた。


しかし、徐々に観客は異変に気づき始めた。


息をしているのかしていないのかわからないほど風は静かに呼吸をし、大量に流れていた汗も一滴も見えない。


賛辞を送った観客も、今ではその風を恐れていた。


残り8秒


1点ビハインド


敵チームの攻撃。


敵チームはボールをとられなければ勝ち。


すなわち、ボールを奪わなければこちらの負け。


相手はボールを回す。


確実なボール回し。


―負ける―


残り2秒


どこからともなく





―神風が吹いた―






残り一秒


ボールは神風に乗り、放物線を描く。










ダンッ







ダンッ




ダンッ



ダンッ

ダンッ

ダンダンダンダン




ボールは、ネットに触れることなく地面に転がった。


大勢の人々は物音一つさせず、中央のコートを見ていた。


初めはあれほど熱く盛り上がっていたのに、今は誰もが息を飲み込んでいた。


人々は


―1人の男を見つめていた―


楽しい、おもしろい、好き、風を吹かせていたそれらの原動力を使い果たし、


センターサークルの中で、子供のように眠る男を。



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