17人目『ぶつかる男』
目の前になにやらパントマイムをしている人がいる。
それにしてもうまいなあ、ホントにそこに壁があるみたいだ。
そう思いながらすれ違おうとしたその瞬間。
ドウン!!
「アイタ!!!タタタタ……」
いきなりなにかにぶつかった。
「ええ?うそ〜ん!?」
確かになにかある。
目の前の人もおでこを赤くしている。
「なんなんだこの壁は!!」
ドンドン!!
ゲシゲシ!!
「これじゃあ会社に間に合わないじゃないか!!」
ドンドン!!
ゲシゲシ!!
すると子供がやってきた。
「おじちゃんたちなにやってんの?」
「いや〜、ここに見えない壁があるんだ」
壁の向こうの人もうんうんと首を縦に降る。
「え〜、うっそだ〜」
ヒョイ
「あぶっ、な、い……」
「なんにもないじゃ〜ん」
「え?うそ?あれ?飛ぶのか?」
ヒョイ
バコチーン!!
「アイター!!これ痛いっ!!ベリー痛いっ!!ベター痛いっ!!ベスト痛いっ!!」
向こうの人も同じようにおでこに両手を当てて地面をゴロゴロしている。
「あはは、おっかしいの〜」
そう言って子供は走って行ってしまった。
ようやく痛みも引き、立ち上がると壁の向こうの方から犬とネコが現れた。
ネコを犬が追う。
猛スピードでやってくる。
「あぶなっ!!」
ダッダッダッダッ
犬とネコが猛スピードで横を通り抜けていった。
ネコから目線を前にもっていく。
壁の向こうにいる人と目が合い、深く一回うなずいた。
後ろを向き距離を置く。
振り返る。
おおきく一つ深呼吸。
ダッダッダッダッダッ
ダッダッダッダッダッ
ダダダダダダダ
ダダダダダダダ
ダダダダダイーン!!!!!
「ムヘハッ!!ムキョー!!ウキー!!ヒー!!フイー!!ホエー!!ああああああ!!!」
「あれ?ここはどこ?私は私……ここは?ああそうか、壁があったんだっけ。あ〜。記憶が……」
ふらふらしながら立ち上がって考える。
いったこれは何なんだ。
こうなったら力ずくだ。
急いで家に帰って週末にデパートに行くときしか乗らない車に乗り込んだ。
ブルルルルルン!!
すごいエンジン音と共に壁へと一直線。
これで壁も木っ端微塵だろう。
「はっ、待てよ。もし壊れなかったら……こっちが木っ端微塵!!」
バッ
勢いよくドアから外に飛び出した。
ドウーーン!!!
汚れた背広で、黒い煙を上げながら勢いよく燃える車を見つめた。
警察に電話をし救助を求めた。
拳銃で撃ったがダメだった。
ダイナマイトで爆破した。
地面がえぐれるだけだった。
戦車で突撃した。
ひっくり返った。
どんな手段を使っても壁を壊すことは出来なかった。
結局、この男が壁の向こう側へいくことはなかった。
この男だけじゃない。
世界各地で突如として壁が出現したのだ。
ほとんどのものが壁の向こうへ行くことはなかった。
しかし、なかには向こうへ行くことが出来た人もいた。
何年だろう。
何十年。
何百年。
とにかく遠い未来のこと、とうとう壁を取り除く方法がわかってきた。
壁をなくすことが出来た人たちが集まりひとつの本にしたのだ。
最後にその中から抜粋した一部を載せて終わりにしよう。
壁をなくす方法
頭ごなしに否定してはいけない。
分かり合おうしなければならない。
くだらない理由で突き放してはいけない。
自分の地位や欲望に執着してはいけない。
周りの目に気をとらわれすぎてはいけない。
努力しなければならない。
真剣にならなければならない。
決意し、決断し、決行しなければならない。
世界は自分以外で出来ているんだと自覚しなければならない。
頭ではなく心で判断しなければならない。
最終的に自分でなんとかしなくてはならない。
壁があることに気づかなくてはならない。
―すべては気づくことからはじまる―