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1人目『強くなった男』
交差点を渡るとき、おばあちゃんを助けてあげた。
いつもは絶対にしないこと。
人に優しくなんかしたことない。
何で今日に限って……。
多分、それは自分が弱くなっていたから。
大切な人が去って行ったから。
なんだか足元がおぼつかないおばあちゃんを見て、自分を見ているみたいだった。
自分が弱くならなくちゃ、相手の弱さはわからないんだな。
そんなことを思いながら、俺はおばあちゃんの手を引いて交差点を渡りきった。
しわくちゃの顔をもっとしわくちゃにしておばあちゃんは言った。
「ありがとうございました」
生まれて初めて言われたかもしれないその言葉。
―このおばあちゃんは弱くない―
自然と俺は大切な人のもとへと走っていた。
『ゴメン』
初めて言ったかもしれないその言葉。
その時、俺は弱さを知った強い男になった。