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第139話:沈黙期間(ブラックアウト・ルール)! 投資家の苦悩と、親友アナリストの最終助言!

1. 09:00:狂乱の終焉と「沈黙期間ブラックアウト」の始まり


「……いいか高坂、よく聞け。いや、今日はもう大声で叫ぶ必要はないな」


日曜日の朝。

六日間にわたる六大資本からの「血みどろのクリスマス・プレゼン(IR)」をすべて受け切り、自室のベッドで屍のように横たわっている俺、高坂優人のスマホから、親友・佐藤の静かな声が流れてきた。


「アリス、ひまり、くるみ、ミア、カレン、オリビア。彼女たちが持てるすべての資本と感情を叩きつけた『ピッチ・シーズン(投資勧誘期間)』は、昨夜のオリビアのフライトをもって完全に終了した」


佐藤の声には、いつもの狂騒的なアナリストとしての熱狂はなく、嵐が過ぎ去った後の海のように凪いでいた。


「今日から12月24日のクリスマス・イブ当日まで。市場は『沈黙期間ブラックアウト・ルール』へと突入する。……企業(彼女たち)が、決算発表(お前の最終決断)を前に、これ以上の直接的なアピールやプロモーションを行うことは固く禁じられる期間だ」


「……ブラック、アウト」


俺はひび割れた声で呟き、重い身体を起こして窓の外を見た。

灰色の冬空から、粉雪がちらちらと舞い落ちている。


「そうだ。もう、誰も奇襲をかけてこないし、誰もリムジンで迎えに来ない。誰も密室で……お前に『前借り決済キス』を迫ることもない。……ここから先は、お前自身が誰の市場に上場(同行)するのか、己の心と静かに向き合うための『熟考期間』だ」


佐藤の言葉が、冷たい雪のように俺の胸に降り積もる。

怒涛のプレゼン攻勢から解放されたというのに、俺の心は少しも晴れていなかった。むしろ、すべてのカードが出揃ってしまったからこそ、逃げ場のない「決断の重圧」が、俺の首を真綿のように締め付けていた。


2. 13:00:六つの「先行決済ぬくもり」と、分散投資の限界


昼過ぎ。

俺はこたつに入り、温かいお茶を両手で包み込みながら、この一週間の出来事を振り返っていた。


アリスが試着室で見せた、不器用な涙と真面目な純情。

ひまりがこたつの中で訴えた、17年間の日常を手放す恐怖。

くるみが観覧車でこぼした、後輩としての圧倒的な不安。

ミアが仮想空間から現実へと逃げ込んできた、システム外の素顔。

カレンが豪華客船のデッキでさらけ出した、資本の無力さと純粋な愛情。

オリビアがオーロラの下で見せた、スケールの大きさに隠された繊細な願い。


六人の美少女たちが、プライドも何もかも投げ打って、俺のシェアを奪いに来た。

そして、その六人全員から受け取った、嘘偽りのない「先行決済キス」の感触が、俺の唇と脳髄に、今も鮮明に焼き付いている。


(……俺は、この中から『たった一人』を、選ばなきゃいけないのか)


株式市場であれば、すべての優良銘柄を少しずつ保有する「分散投資」が最も賢い選択リスクヘッジだろう。

だが、これは恋愛だ。人生だ。

誰か一人を選ぶということは、他の五人を明確に「切り捨てる(上場廃止にする)」ということに他ならない。彼女たちが俺に向けてくれた莫大な投資(愛)を、紙くずにしてしまうということだ。


「……無理だろ、そんなの……」


俺は頭を抱え、机に突っ伏した。

誰かを泣かせるくらいなら、俺自身が破産(誰とも付き合わない)した方がマシなんじゃないか。そんな弱気な逃げデリバティブばかりが、頭の中をぐるぐると回り続けていた。


3. 15:00:親友アナリストの訪問と、安物の缶コーヒー


ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。

ひまりの合鍵による襲撃か、と一瞬身構えたが、ブラックアウト期間中の彼女たちが来るはずがない。


重い足取りでドアを開けると、そこには、マフラーに顔を埋めた佐藤が立っていた。彼が直接俺のアパートを訪ねてくるのは、本当に久しぶりだった。


「……よお、高坂。生きてるか」


「佐藤……。お前、わざわざウチまで……」


「これでも親友だからな。世紀の大決断を前に、脳みそがメルトダウンしてるお前の顔くらい、直接見ておこうと思ってな」


佐藤は苦笑しながら部屋に上がり込み、俺のこたつに向かい合わせで座った。

そして、コンビニの袋から、二本の安い缶コーヒーを取り出し、一つを俺に差し出した。


「カレンの淹れる最高級の紅茶や、ひまりの特製ココアに比べたら泥水みたいなもんだろうが……まあ、飲め」


「……ありがとう」


プシュッ、と缶を開け、微糖のコーヒーを喉に流し込む。

冷え切った身体に、安っぽいカフェインの熱がじんわりと染み渡った。なんだか、狂乱の相場から「ただの男子高校生の日常」に引き戻されたような気がして、少しだけ肩の力が抜けた。


4. 15:30:リスクを取る覚悟(集中投資への道)


「……高坂。お前、今『誰か一人を選んだら、他の五人を傷つける』って、自己嫌悪に陥ってるだろ」


佐藤が、缶コーヒーを見つめたまま、静かに切り出した。

図星を突かれ、俺は言葉に詰まる。


「……ああ。俺なんかのために、あいつら全員、本当に一生懸命やってくれたんだ。それなのに、俺が誰か一人を選んで、他の五人を悲しませるなんて……そんな権利、俺にあるのかよ」


俺の弱音を聞いた佐藤は、ふっと息を吐き、そして、いつになく真剣な、鋭い瞳で俺を見据えた。


「……投資の世界に、『誰も損をしない完璧な取引』なんて存在しないんだよ、高坂」


佐藤の言葉が、静かな部屋に響く。


「お前はここまで、六人全員の好意(ストップ高)を受け入れ続けてきた。それはお前の優しさでもあり、同時に『決断を先送りにしてきた結果』でもある。……だが、市場(人生)はいつか必ず決済の時を迎える」


佐藤は、机の上に置かれた自分の缶コーヒーを、トンッと指で叩いた。


「傷つけたくないから誰とも付き合わない? それこそが最悪の『塩漬け(機会損失)』だ。あいつらはお前がそんな逃げを打つために、プライドを捨ててプレゼンしたんじゃない。……お前に選ばれない『リスク』を承知の上で、お前の心を奪うために全額オール・イン突っ込んできたんだぞ」


「……っ」


「傷つける覚悟を持て、高坂。五人の想いを背負い、五人を泣かせるだけの『責任(負債)』を抱え込んででも……『絶対に幸せにしたい』と思える、たった一人の銘柄(女の子)を選び抜け。……それが、あいつらの莫大な投資に対する、男としての唯一の『誠実なリターン』だろ」


親友からの、アナリストとしての客観的な分析ではなく、一人の男としての、厳しくも温かい最終助言。

その言葉は、優しさという名目で逃げようとしていた俺の甘さを、根本から粉砕してくれた。


5. 16:30:ポートフォリオの解体と、たった一つの「コア・バリュー」


佐藤が帰った後。

俺は再びこたつに座り、一人で静かに目を閉じた。


(……五人を泣かせる覚悟。五人の想いを無駄にする覚悟)


痛い。苦しい。

アリスの論理も、ひまりの温もりも、くるみの笑顔も、ミアの涙も、カレンの素顔も、オリビアの情熱も、すべてが俺にとってかけがえのない宝物だ。

全員が愛おしい。全員を幸せにしたい。


だが、佐藤の言う通りだ。

彼女たちは「全員で仲良く」なんて望んでいない。ただ一人、俺の隣に立つためだけに、血を吐くような努力をして、俺にぶつかってきてくれたのだ。


俺はゆっくりと目を開け、スマホのカレンダーアプリを開いた。

画面に表示された、12月24日の日付。


目を閉じて、自分の胸の奥底に問いかける。

打算も、資本も、同情も、過去のしがらみも、すべてを取り払った時に。

俺のポートフォリオのど真ん中に、一番深く、一番強い光を放って居座っている「絶対的なコア・バリュー(本命)」は、一体誰なのか。


「…………ああ、そうか」


静寂の中、俺の口から、自然と答えがこぼれ落ちた。


気づいてしまえば、簡単なことだった。

どんなに市場が乱高下しようとも、どんなに魅力的なプレゼンを受けようとも。

俺の視線は、俺の心は……最初からずっと、たった一つの方向だけを向いていたのだ。


俺はスマホの画面を閉じ、窓の外を見た。

雪はいつの間にか止み、雲の隙間から、冬の澄んだ夕日が差し込んでいる。


「……待ってろよ。クリスマスの日……絶対に、お前の市場ところへ行くから」


俺は、決意を込めてそう呟いた。

六大資本による狂乱の相場。俺のせいでストップ高を記録し続けた美少女たちの株価。

そのすべての決算フィナーレを下すための、俺自身の「最終事業計画アンサー」が、今、完全に固まった。


6. エピローグ:運命のカウントダウン


「……ふふっ。高坂くん、絶対に私を選ぶわ」

風紀委員室で、分刻みのスケジュール表を何度も見返す四宮アリス。


「……優人くん、今日は何を作って待ってようかな」

自室のキッチンで、クリスマスのレシピ本をめくる橘ひまり。


「……にひひ! 先輩、絶対に驚かせてみせますわ!」

廃遊園地で、イルミネーションの最終調整を行う七星くるみ。


「……バグの修正完了。私の現実リアル、全部あげる」

サーバー室で、最高のクリスマスコートを試着する如月ミア。


「……お金なんていらないわ。ただ、あなたが来てくれれば」

スイートルームで、不格好な卵焼きの練習を続ける神宮寺カレン。


「……ユウト、世界で一番の夜にしましょうね」

ホテルのラウンジで、青いサファイアのカフスを見つめるオリビア・サマーズ。


沈黙期間ブラックアウトの裏側で、六人の少女たちもまた、運命の日のために静かに、そして熱くその時を待っていた。


卒業式(第150話)に向けたカウントダウン。残り11話。

長く、そして狂おしいほど甘かった俺たちの市場は、いよいよ数日後……12月24日の「聖夜の大決算」へと向けて、最後の静寂サイレンスを刻み続けるのだった。


(第139話・完)


本日の市場ニュース(沈黙期間・特別号)


【市場の静観】六大資本のプロモーション活動が全面停止、市場は完全なる『ブラックアウト期間』へ!: 12月24日の最終決断に向け、各陣営からの直接的なアプローチ(IR活動)がルールにより禁止された。学園のボラティリティ(乱高下)は一時的に収束し、不気味なほどの静寂に包まれている。


佐藤のアナリスト・レポート: 「投資において最も苦しいのは、買う時でも売る時でもなく『待つホールド』である。六人の少女たちは祈るように決断を待ち、投資家(高坂)は五人を切り捨てる覚悟(損切り)を抱いて本命を見定める。すべてのノイズが消えた今、高坂の心に残る『真の企業価値(本命)』が誰なのか……我々アナリストには、もはや見守ることしかできない」


高坂優人の現在の状況: 佐藤の微糖缶コーヒー(的確な助言)により、自己嫌悪から脱却。「五人を泣かせる責任」を背負い、ついに自身の心の中の『絶対的な筆頭株主(たった一人の本命)』を確定させた。迷いを捨てた瞳で、12月24日の朝を静かに待ち受けている。

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