第102話:秋のセクターローテーション! 規律の番人(四宮アリス)による、放課後密室の徹底監査!
1. 16:00:市場の「セクター・ローテーション」宣言
「いいか高坂。マーケットにおいて、巨大な資本を持つ複数の優良銘柄が同時に暴騰すると、市場全体が過熱してシステムダウン(お前の過労死)を引き起こす。これを回避するための高等戦術が『セクター・ローテーション』だ。つまり、資金(お前との時間)を特定のセクター(ヒロイン)に集中投資し、各個撃破でじっくりと向き合うこと。……佐藤ファンド(俺)の采配により、本日の放課後は他銘柄の介入を完全にブロックした。お前が今日、徹底的に向き合うべき『重点投資銘柄』は……彼女だ」
9月上旬、放課後の文化祭実行委員会・準備室。
俺、高坂優人は、山積みになった文化祭の申請書類の前に座っていた。インカムからは、他の5人のヒロインたちにダミーのスケジュール(偽の買い注文)を流して足止めしている親友・佐藤の、軍師のような低い声が響く。
「佐藤、助かった。6人全員に囲まれていると、本当に息をする暇もなかったからな。……でも、この準備室、さっきから内側から鍵がかけられてる上に、ブラインドまで完全に下ろされているんだが……」
「バカ。それは『非公開市場』の形成だ。外部のノイズを完全に遮断した密室。そこで行われるのは、一対一の極めて濃厚な『相対取引』だ。……ほら、今日の独占交渉権を獲得した『規律の番人』が、お前の背後で監査の準備を終えたぞ」
2. 四宮アリスの「密室・コンプライアンス監査」
「……高坂くん。書類のチェック、全然進んでいないわね」
静寂に包まれた準備室。背後から聞こえたのは、生徒会副会長にして文化祭執行役員、四宮アリスの凛とした声だった。彼女はピシッとアイロンのかかった秋服の制服に身を包み、「風紀」と書かれた腕章を夕日に鈍く光らせている。
「アリス……。いや、書類の数が多すぎて。各クラスからの備品申請がめちゃくちゃなんだよ」
「言い訳は規律違反よ。……仕方ないわね、私が直々に、あなたの『業務の遅れ(負債)』を監査してあげるわ」
そう言うと、アリスは俺の隣のパイプ椅子に腰を下ろすのではなく、なぜか俺が座っている椅子の「背もたれ」の後ろに立ち、俺の肩越しに書類を覗き込んできた。
フワリと、秋の涼しげな風と共に、アリスの髪から漂う清潔なシャンプーの香りが俺の嗅覚を直撃する。
「ほら、ここの予算申請、計算が合っていないわ。……ペンを貸しなさい。私が修正してあげるから」
アリスの白い手が、俺の右手に重なる。ペンを握る俺の手を、彼女が上から包み込むような形だ。
彼女の柔らかな体温と、背中に微かに当たる「規律正しからぬ柔らかな双丘」の感触。それは、普段の厳格な彼女からは想像もつかない、極めて直接的で物理的な『資本注入』だった。
「あ、アリス……。近いって。これじゃあ、書類が見えない……」
「……っ! こ、これはあくまで正しいペンの持ち方を指導しているだけよ! 生徒会の役員として、あなたの乱れた姿勢を矯正するのは当然の義務なんだから!」
顔を真っ赤にして早口でまくしたてるアリスだが、俺を包み込む手は一切離れようとしない。むしろ、そのホールドは秒を追うごとに強くなり、彼女の鼓動が俺の背中越しにドクドクと伝わってくる。
3. 規律の崩壊と、溢れ出す「内部留保」
「高坂くん……。文化祭の準備期間中、あなたは実行委員長として、常に私の『監視下』に置かれるわ。他の……そう、神宮寺さんや橘さんのような、不適切な誘惑(インサイダー取引)に乗ることは、私が絶対に許さないわよ」
アリスの声が、耳元で熱い吐息となって鼓膜を揺らす。
普段は誰よりも校則を重んじ、他人の視線を気にする彼女が、この密室では、隠し持っていた莫大な『内部留保(デレの蓄積)』を一気に解放しようとしていた。
「私には、神宮寺さんのような無限の資金力はないわ。……橘さんのような、17年間の思い出(長期保有実績)もない。……でも」
アリスは俺の手を握ったまま、そっと俺の肩に自分の顎を乗せた。
「……あなたのことを一番『正しく』見つめているのは、私よ。……あなたの少しだらしないところも、本当は誰よりも優しいところも、全部私が監査して、私の『特別帳簿』に記録しているんだから」
夕日がブラインドの隙間から差し込み、アリスの横顔をオレンジ色に染め上げる。彼女の潤んだ瞳が、至近距離で俺を見つめていた。
「……だから、高坂くん。……私の『規律』を、あなただけで満たして。……他の銘柄(女の子)に目移りなんてしたら……私、本当に……あなたを私室に『強制収容』しちゃうかもしれないんだから……」
それは、規律の番人である彼女が自らのルールを破り捨ててまで提示した、痛いほどの純情と、独占欲の塊のような『超法規的プロポーズ』だった。
4. 17:30:市場閉鎖(大引け)と残された余韻
「(……グハッ、眩しい! アリスの『普段の厳格さ』と『密室での極限の甘え』というギャップ(ボラティリティ)が、俺の理性をストップ高で粉砕しに来ている……っ!)」
俺の心拍数は、限界を突破して警鐘を鳴らしていた。
アリスの手の温もり、耳元の吐息、そして不器用で真っ直ぐな言葉。この圧倒的な「現物投資」の前に、俺の防衛線は完全に機能不全に陥っていた。
「……アリス。わかった、ちゃんとアリスだけを見るから。だから……その、背中の密着度をもう少しだけ……」
「……ダメよ。これは、あなたが約束を破らないための『担保』なんだから。……この書類が終わるまで、私は絶対に離れないわ」
アリスは嬉しそうに微笑むと、さらにギュッと俺の背中にしがみついた。
――カチャッ。
その時、準備室のドアノブが外から回されようとする音が響いた。
「……アリスさん? 優人くん? 準備室、鍵が閉まっているようだけれど……中でおかしな『不正会計(密会)』なんてしていないわよね?」
廊下から聞こえてきたのは、冷たく透き通った神宮寺カレンの、氷点下の声だった。
「……っ! か、神宮寺さん!? い、今開けるわ! 高坂くん、早く離れて! 規律が乱れるわ!」
さっきまで自分から抱きついていたアリスが、弾かれたように飛び退き、大慌てでブラインドを上げ始める。
「おい、アリス! 俺の手を掴んだまま立ち上がるな、書類が全部床に……!」
5. エピローグ:次なるセクターへのバトンタッチ
「――おい高坂。どうやら『規律セクター』での独占交渉は、タイムアップのようだな。見事な急騰だったぞ」
インカムから、佐藤の呆れたような声が聞こえる。
「佐藤……お前、ダミーのスケジュールで足止めしてたんじゃなかったのかよ!」
「無理だな。神宮寺財閥の『情報収集能力』を舐めるな。お前が密室にいると嗅ぎつけた瞬間に、彼女たちの資金は一気にこの準備室へと流れ込んできたぞ。……さあ、明日の放課後は、どのセクター(ヒロイン)がお前を『密室監査』するのか。俺も徹夜でチャートを分析しておくよ」
ドアの外から響くカレンのノック音(という名の物理的な破壊音)に怯えながら、俺の文化祭実行委員としての波乱の日々は、まだ始まったばかりだった。
(第102話・完)
本日の市場ニュース(個別ピックアップ:四宮アリス編)
四宮アリスの時価総額: 密室での「背後からのホールド」という新規事業が投資家に好感され、本日単独でストップ高を記録。
新規規律の追加: アリスの生徒会手帳に「高坂優人の半径1メートル以内は、四宮アリスの絶対専管水域とする」という条項がこっそり追加された。
佐藤のアナリスト・レポート: 「普段厳しい銘柄(ツンデレ・風紀委員)ほど、密室での『甘え(デレ)』に転じた際の爆発力は計り知れない。投資家は、アリスの『顔の赤さ(過熱感)』に常に注意を払うべし」




