少年達の深夜の大冒険③
山本将(僕たちのなかでは"山ちゃん"の名で通っている)が、鉛筆削りくらいの大きさの小さなプラスチックケースを大事そうに見せてくれた。そこには甲虫が飼育される環境が既に整っている。(輪切りにされたクヌギ、茶色いふかふかのおがくず、クヌギの上には黒光りする鋭いハサミを持つクワガタが威風堂々と鎮座していた)
それは僕たち子供たちの憧憬の存在"オオクワガタ"だ!
薄明かりの街灯の下でもその存在をまざまざと見せつけてくれた。僕はドキドキとワクワクが一気に込み上げ心臓の鼓動がいつもの三倍くらいに、それもドクドクと血流の音が聞こえてきそうだ。その高鳴りを自分の両手をグッと強く握り必死に抑え込んだ。
速見洋介も、僕と同じように眼差輝くように、真剣に凝視していた。いつも大人びた彼を少年へと戻るその様子を見て、僕は微笑んだ。
山ちゃんが…学校の裏の立林(裏山)で捕ったと夏休み前に言っていたのを思い出した。
深夜に集まったのもカブトムシを捕るためだった。
山ちゃんは大事にオオクワガタが入ったケースを専用の分厚い袋(多分お母さんの手作り)に大事にしまった。
「新なクヌギを見つけた、こいつは"そこ産"なんだ」
僕たちはカブトムシをどこで捕まえたかを表現するのに"産"という言葉を使っていた。そして、どこでそれを捕ったかは大事な秘密でもあった。
それを教え合うのは、親友だからこその共有できる特権だった。
僕たちの地域には自然が多く、少し行けば山にぶつかるのだが、山は大人が居なければ入る事は学校で禁止されていた。
よって、子供たちが入れる場所で、まだ"未開拓な場所"を知っているということもリーダーに必要な条件だった。
山ちゃんには二人お兄さんがいるので、その情報網は僕たちの中でもトップクラスだった。
しかしその場所も時間が経てば皆に知られてしまうのだけれども──
これは、頭脳派の速見洋介でも手に入れられないもので、僕なんかはもちろん絶対に、手に入れることのできない情報だった。
山ちゃんはそんな貴重な場所をいつも僕たちに簡単に教えてくれるので、僕にとっては神様のような存在だった。
ようやく、外が少し明るくなり始めたことに、まだ気づいていない僕たちの後ろには、要塞のような学校がその存在をよりリアルに浮かび上がらせ不気味に迫ってくるように感じた。
歩みを進めながら、僕たちは秘密の場所を目指していた。
僕のモトクロス自転車がカラカラと乾いた音を響かせる。
速見洋介が思い出したように「あっ」呟いた。そして街灯の光が届く場所まで移動して、上品な仕草で背負ってる高級そうな皮の鞄から、腕時計のような、絶対にワクワクするようなモノを(確信)を取り出して渡してくれた。
それはオーダーメイドの(腕時計型)トランシーバーだった。
斬新で見たこともないような高そうな素材で暗闇でも、文字盤らしき数字が発光し時間も表示されていた。ベルトは手首の細い僕でもしっかりつけられるように腕時計のように等間隔に空いた(明らかな子供用)穴に金具を嵌め込むタイプで作られていた。
それは正に、テレビアニメで着けている者同士が通信できるようなものであった。
速見洋介が簡単に使い方を説明してくれる間、僕はそれを聞く集中力はなく、光るトランシーバーを何度も腕につけては、その摩訶不思議な感触を何度も味わった。
速見洋介はこの時、絶対に喜ぶ僕たちの顔を微笑みながら見ているに違いなかった。僕たちのワクワクが収まるのを待って再度使い方を復唱してくれたのだった。
「あと一つあるから、もう一人誘っても良かったかもね」と付け加えた。四人の方が二手に分かれても融通が利くしね。とも言った──
山ちゃんと僕はその場から、ダッシュで少し離れて隠れた。
「もしもし、こちら山本応答願います」
「はい、こちら仁木どうぞ…」
「はい、速見、聞こえますどうぞ…」
僕たちは(山ちゃんと僕)トランシーバーの醍醐味に包まれて魂が翔んだように笑いあった。
すぐに使い方はわかった。もちろん細かい設定は速見洋介があらかじめ済ませていたのだけれど、そういうことを黙っているのも速見洋介なのだ。
僕たちの装備は揃った。
いざ裏山に上る準備は完璧だった。
④に続く……




