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世界最強の俺、好きな彼女の前でだけ魔力がゼロになる

魔王軍の黒い波が、地平線の向こうまで広がっていた。


空気は焦げ、地面は割れ、兵たちの悲鳴が遠くで響く。


その中心に、俺――アレン・クロフォードはただ一人、静かに立っていた。


「……終わらせる」


右手を軽く掲げる。


それだけで空気が震え、世界が光に染まった。


轟音。


大地が揺れ、魔王軍の兵が次々と光に飲み込まれていく。


抵抗する暇すら与えない。


これが“世界最強の魔法使い”と呼ばれる所以だ。


光が収まった時、戦場には俺だけが残っていた。


「ふぅ……今日も無事に終わったな」


肩の埃を払っていると、遠くから小さな影が駆けてくる。


「アレンくん!」


その声を聞いた瞬間、胸が跳ねた。


リリア・フェルナード。


王都魔法学院の魔術科に所属する少女で、俺が……ずっと好きな人だ。


彼女が近づいてくる。


その距離が縮まるにつれ、胸の奥がざわつき始めた。


――そして。


「……っ!」


体の奥から、魔力がスッと抜け落ちる感覚が走った。


まるで誰かに根こそぎ吸い取られたように。


まただ。


リリアの前に立つと、必ずこうなる。


「アレンくん、大丈夫? 怪我してない?」


心配そうに覗き込むリリア。


その瞳は澄んでいて、触れたら壊れてしまいそうなほど優しい。


「だ、大丈夫……だよ。うん」


声が震える。


魔力がゼロになったせいじゃない。


ただ、彼女が近くにいるだけで、俺はどうしようもなく弱くなる。


「本当に? 顔、赤いよ?」


「き、気のせいだって……!」


情けない。


魔王軍を一人で壊滅させた男が、好きな子の前ではまともに喋れないなんて。


リリアは胸に手を当て、ほっと息をついた。


「よかった……アレンくんが無事で。本当に、よかった」


その笑顔に、心臓が跳ねる。


魔力なんてなくても、この笑顔の前じゃ俺は勝てない。


「じゃあ、学院に戻ろっか。先生たちも心配してるよ」


「あ、ああ……」


歩き出すリリアの後ろ姿を追いながら、俺はそっと胸に手を当てた。


――どうして、リリアの前だと魔力が使えなくなるんだ?


理由は分からない。


ただ、彼女と一緒にいる時だけ、俺の魔力は完全に沈黙する。


それでも、彼女の隣を歩けるなら、それでいいと思ってしまう自分がいる。


そんな俺の背中に、リリアの小さな声が届いた。


「……また、アレンくんの魔力が消えちゃった。やっぱり……私のせいなのかな」


振り返った時には、リリアはもう笑顔に戻っていた。


その言葉の意味を、俺はまだ知らない。

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