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第8話「死んで尚、自分を殺して戦う者」

 あの日以来、摺木統矢(スルギトウヤ)は初めて更紗(サラサ)りんなと話した。

 お互いにとって、いつもの統矢、いつものりんなではなかった。

 二人は違う平行世界の住人同士で、その身に招いた年月も、乗り越えてきた事情も全く違う。それでも、いつものように話して別れた。

 受話器を置いた今、電話ボックスの硝子(ガラス)がビリビリと震える。

 外に出れば、既に次元転移の光が頭上に歪な虹を広げている。


「統矢殿っ! こ、これは……次元転移ディストーション・リープ反応! 新地球帝國(しんちきゅうていこく)残党かもしれませんっ!」


 クレア・ホーストが血相を変えて駆け寄ってくる。

 彼女は知らないのだ。

 戦後に軍人になったクレアには、これが初めての実戦になるかもしれない。

 軍事力を持つ者同士が武力を行使する時、その空間は空気や物理法則まで変わってしまう。論理と科学で説明ができない、不可思議な(プレッシャー)が支配する世界が生まれるのだ。

 それを統矢は、今まで嫌というほど経験してその身に刻んできた。


「クレア、街を出るぞ! ……ここは戦場になる」

「や、ややや、やっぱりでありますか!?」

「リレイド・リレイズ・システムは、誰にとっても起死回生の一発逆転要素だ。スルギトウヤという指導者を失って(なお)、異星人と戦いたいって連中には……(のど)から手が出るほど欲しいだろうさ」


 頭での理解、思考の結論に苛立(いらだ)ちを感じる。

 なんて愚かで、(むな)しい戦いが続いているのだろう。統矢が復讐から始めた戦争は今、最愛の恋人の片方を失って尚も続いている。統矢が諸悪の根源を倒しても、終わらない。

 すぐに、時間も距離も飛び越えてきた機動兵器がセイラムの街に降り立った。


「クッ、新型か! 資金の流れが確実に存在しているな……まだまだ戦争で稼ぎたい連中がいるってことだ」

「そ、それは? 統矢殿、つまり」

「残党軍に技術提供しているのは、こっち側の地球の一部の企業かもしれない。一定の驚異を演出できれば、パンツァー・モータロイドの開発資金や配備予算を獲得できるからな」


 統矢はクレアの手を引いて走り出す。

 今いる大通りにも、巨大なセラフ級パラレイドが現れていた。その着地の振動が、路上に放置されていた車両をことごとくひっくり返して散乱させる。

 目算では、サイズは13mから14mとセラフ級にしては小型だ。

 しかし、その数は多い。

 恐らく、残党軍としてのゲリラ戦術に特化した機体なのだろう。

 同型機が複数存在することから、エンジェル級と呼ぶほうがふさわしそうだ。


「こ、これが……パラレイド! パパを……あ、いや、自分の父を殺した敵でありますか!」

「そういう見方はオススメしないが、真実でもある。今は黙って走れ、クレア!」

「はいであります!」


 敵は皆、PMR(パメラ)よりも二回りほど大きいが、その意匠や設計思想は似通っている。

 恐らく、この世界で戦う相手に合わせて、()()()()()()()()()()()()()()

 特徴的なのは、両足にウィング状のバインダーが装備されている。それをどう使うか、すぐに統矢は知る羽目(はめ)になった。

 敵機は、両足に翼を広げてホバリングし、高速で移動を開始した。

 (あらかじ)め展開していた軍のPMRが、その機動性の餌食(えじき)となってそこかしこで爆散する。


「なるほど、サイズが大きい分PMRより出力に余裕がある。それを、低高度での滑空能力に回して脚を使うってやつか」

「統矢殿! 感心してる場合ではないであります!」

「あ、いや、すまない。でも、大丈夫さ……きっと、彼女が来てくれる」

「彼女?」


 (すで)に街は戦場と化した。

 そして、人類同盟軍のPMRがそこかしこで爆散する。

 当然だ……大部隊を配備することで『見える警備』をするより、残党軍の注目を集めないように隠匿(いんとく)を選んだのだから。

 だが、統矢は知っている。

 軍の内部には、残党軍と繋がってる人間が複数存在するのだ。

 そして勿論(もちろん)御統霧華(ミスマルキリカ)のように別の軍事勢力に加担している者もいる。

 今や、地球の情勢は混迷を極めていた。

 その中で確かなのは、平和を願って闇に生きる、亡霊となって戦う者たちの存在だ。


「と、統矢殿! あの機体……隊長機でありますか? こっちを見てるであります!」

「対人兵器に気をつけろよ。って言っても、対人地雷やバルカンの掃射になにができるかって話だけどな。……よし、クレア! こっちだ!」

「ああっと!? 統矢殿、そっちは」

DUSTER(ダスター)能力じゃないぞ、俺の(かん)だ。そもそも、俺の力はもう」

「ほへ? 統矢殿?」

「いいから黙って走れ! 絶対に二人で生き残るぞ! ……希望は、可能性はきっと多分、恐らく絶対にある!」


 統矢たちの背後に、オレンジ色の機体が迫る。

 周囲のエンジェル級と同型らしいが、装甲がシェイプされた高機動タイプだ。そして、鮮やかなオレンジ色に彩られたカラーリングがエースを思わせる。

 まだ、これだけの機体を建造し、組織的に抵抗する力が敵にはある。

 脳裏にちらつくデッドエンドを無視して、必死に統矢は走る中で考えた。

 残党軍の存在が必要な利権団体がいて、軍にも強く食い込んで結びついているようだ。そして、そのカウンターとして暗躍する勢力もまた確かに存在する。

 突如、懐かしい声が響き渡った。


「統矢殿っ! こっちであります! このままこの通りを先へ!」


 酷く落ち着いて、それでいて暗く(よど)んだ声だった。

 叫んでいても声が小さくて、それなのに落ち着いた響きが強く鼓膜を叩く。

 咄嗟(とっさ)に統矢は、クレアを連れたまま全力疾走で角を曲がった。

 同時に、声の主が携行型のロケットランチャーを肩に担いで発射する。彼女が射撃と同時にランチャーを捨てて走れば、周囲に煙幕が広がった。

 視界を奪うスモークに、オレンジ色の隊長機が動きを鈍らせる。

 その時にはもう、長い髪を(ひるがえ)す女性が統矢の隣を走っていた。

 統矢は嬉しさと悲しさがないまぜになった感情を言葉に乗せた。


「やっぱり生きてたな、沙菊(サギク)! 渡良瀬沙菊(ワタラセサギク)!」

「死んでいたでありますよ……自分たちは死兵(アンデット)、この世に存在しない戦力でありますから」

「それでも、お前は息をして、鼓動を高鳴らせてここにいる」

「……死んだままでいれない理由がありますので」


 そう、生死不明のまま戦闘中行方不明(MIA)になっていた沙菊がそこにはいた。

 髪が長く伸びて、疾駆する風の中でたなびいいている。

 人間としての感情を捨てて失った沙菊の無表情は、どこか統矢の愛した少女に似ていた。相変わらず傷だらけの肉体に薄着で、ボロボロのコートを(ひるがえ)して沙菊は走る。


「髪、伸ばしたんだな!」

「! こ、これは、別に、その、あれであります! 千雪(チユキ)殿を意識している訳ではなくて」

「あ、こっちはクレア。あのグレイ大尉の娘さんだ」

「……統矢殿、この状況でその冷静さ、ちょっと、あれです……どうなんでありますか?」

「気にするなよ、お互い死線をくぐって生き延びた仲だしな」

「そうでありますね……自分は今、確かに生きてるであります」


 小さく笑って、沙菊が加速する。

 デスクワークと軟禁生活で(にぶ)った統矢と違って、常在戦場(じょうざいせんじょう)で戦い抜いてきた戦士の脚力が爆発した。そのまま彼女は、追い縋る残党軍の機体を連れたまま通りを走る。

 その先に大型のトレーラーがあって、そのカーゴに沙菊は飛び込んだ。

 そして、冷却材の白い煙を撒き散らしながらコンテナが開封される。


「統矢殿! なるべく遠くに逃げてください! ……奴らは自分が排撃(はいげき)撃滅(げきめつ)するであります!」


 運送会社の名前がペイントされたトレーラーから、闇が広がった。

 奈落(アビス)深淵(しんえん)にも似た、漆黒の機体が立ち上がる。それは、肌をさすような冷気が白く煙る中で光を吸い込んでいた。例えるならそう、地獄の暗黒を凝縮した悪魔のような威圧感だった。

 思わず統矢は、その機体の名を叫ぶ。


零号機(ゼロごうき)! そうか、お前が……沙菊が乗ってたか! 89式【幻雷(げんらい)改型零号機(かいがたゼロごうき)!」


 その姿はボロボロで、塗装もあちこち剥げて汚れている。両腕が一回り大きく膨らんでいるのは、以前に沙菊が乗っていた改型伍号機(かいがたごごうき)のパーツを移植したからだ。

 そして、昔統矢が乗っていた機体のように、包帯まみれの敗残兵に見えた。

 補修用のスキンテープで応急処置を施した、傷だらけの古参兵がバイザー状の頭部に光を走らせる。

 初めてPMRでの実戦、本当の戦争を目の当たりにしたクレアが叫んだ。


「統矢殿っ! あの機体は!」

「大丈夫だ! それより、俺たちがここにいると彼女の邪魔になる! 行くぞっ!」

「は、はいであります!」


 改型零号機は、驚きに動きを止めたオレンジ色へ猛然と襲いかかった。

 まるで、悲痛な沙菊の絶叫が聴こえてきそうな闘志だった。ツギハギだらけの改型零号機が、いびつな巨大さの両腕を振り上げる。

 あっという間に、オレンジ色は頭部だけを握り潰されてその場に倒れ込んだ。

 その時にはもう、トレーラーの荷台から沙菊はショットガンを取り出している。


「……この音、そして臭い」

「ど、どうしたんでありますか? 統矢殿」

「いや、あの機体は昔から不安定でね。駆動音にノイズが交じるのは、常温Gx炉じょうおんジンキ・リアクターにフリクションを抱えているからだ。それに、セッティングも上手くないな」

「オイルの()ける臭いだけで、そこまでわかるんでありますか?」

「わかるってレベルは、瑠璃(ラピス)先輩とかの次元だな。俺は、そう感じるだけだ」


 次々と敵が集まってくる。脚部にフロートユニットを持つだけあって、その動きは機敏だ。いかな沙菊とて、改型零号機ただ一機で戦える数じゃない。

 だが、彼女は決して退かず、逃げず、(ひる)むことすらなかった。

 それはまるで、在りし日の五百雀千雪(イオジャクチユキ)のように泰然(たいぜん)と揺るがなく、強い意思に溢れている。そうやって彼女は、死んだ自分を殺し続けて戦後を戦ってきたのだ。


「っ!? と、統矢殿! 新しい次元転移反応であります!」

「もういい加減見飽きたよなあ……まだ来るのか。便利に使ってくれちゃってさ」

「そういうこと言ってる場合では、ワワワッ! な、なんでありますか、あれは!」


 その時、再び空に歪んだ虹が浮かび上がる。

 そして、その奥から天使が舞い降りた。

 そう、天使……神の御使いにも似た、翼を持つ者だ。

 戦後の世界でまだ、戦いは続いている。そして、戦争が続き限り兵器は進化を続けて変わってゆくのだ。そのことを思い知らされ、流石(さすが)に統矢も唇を噛む。

 巨大な神鳥にも似た、人型ですらない巨大な殺戮兵器が舞い降りた。

 クレアの手の中で、携帯電話がけたたましく鳴り響いたのは、そんな時だった。

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