第四十話「シュリエとビエルダの対立」
「あれがアジトか...... ぼくのガで確認しますか」
「だめだ。 相手が追跡を警戒してるなら、間違いなく罠がある。 しかもネクロマンサーだからな」
『私もだめだな。 ネコがこんなところにいないし......』
「出てくるまで待ちたいが、夜になるとここの気温はマイナスをはるかに下回る。 とても耐えられないな...... 仕方ない。 強行するしかないか」
「ですね。 雪の中でなければ三人なら戦えるはず」
(それに万が一には......)
『よし、いこう』
ぼくたちは装備をあらためゆっくりと洞窟に近づく。
「自然の洞窟か......」
「見張りや、ディシーストがいないのが気にかかるが......」
『まあ、仮に罠の類いがあっても、私の丸綿羊ならたえられる』
ぼくの金属箔蛾、ミーシャの丸綿羊を先行させ、奥へとすすむ。
少し明かりがみえて、ゆっくりとすすむ。
そこは大きな空洞になっており、人がいた形跡があるが、誰もみえずさらに奥へ通路があった。
「誰もいない...... 奥か」
「いやとまれ」
シュリエさんが制止した。
「......いるんだろうビエルダ」
そうシュリエさんがいうと、遠く奥から複数の白い迷彩をきた銃をもつものたちがでてきた。 そのなかの一人が前にでてフードをぬぐ。
「久しいなシュリエ、よく俺だとわかったな」
「俺が教えた戦術だ。 ユスリカも、逃げたように見せかけて狭い通路で奇襲をかけるこの方法も」
「そうだったな、すべてお前に教えてもらった。 ネクロマンシーも狩りも戦いかたも。 そのお前が国を裏切るなんて思わなかったぞ」
「そもそもこの国は滅ぶ運命だった。 共和国が攻めなくても内乱で崩壊していた」
「そうかもな。 だが俺たちはエルバス国民だ。 共和国の人間ではない」
そうビエルダが手を上げる。
すぐさま銃弾が放たれた。
『丸綿羊!!』
ヒツジが銃弾を防いだ。
「散弾蟻」
「痛い!!!!」
「ぐぁっ! なんだ!! アリ」
「いつの間にアリが!!」
放っていたアリが後ろの兵士たちに噛みついた。 大量の蟻につかれて兵士たちは混乱している。
「落ち着け! ちっ! そいつもネクロマンサーか!」
「諦めろ、後ろのやつらはもう動けん。 複数のネクロマンサー相手ではお前に勝ち目はない」
そうシュリエさんは銃を向けた。
「......それは、どうかな」
「なに......」
ぼくが動こうとすると体が動かない。
「なんだこれは!? 動けない! 冷たい」
冷たい部分をよくみると、なにかくっついているようだった。 だが体が拘束され身動きがとれない。
(なんだ!! 何かが体に...... ぼくのガも動けないで空中に止まっている。 だがミーシャは大丈夫だ)
ぼくは鞄のミーシャをみる。
『彷徨える魂よ、我が声に答えよ。 【甲虫】《ライノセラスビートル》」
鞄からカブトムシが飛び立ち、何かが砕ける音がすると、拘束が解かれた。 何かの欠片がキラキラと地面に落ちる。
「これは氷のかけら...... 氷で拘束されたのか」
「どうやら周囲全体に拘束する透明な氷が張られている。 周囲にはあのユスリカもだ」
「なに...... これだけのアリをはなって、まだ術を使えるだと」
ビエルダは怪訝そうに見ていたが、その銃をかまえる。
「彷徨える魂よ、我が声に答えよ。 【氷鷲弾】《アイスイーグルバレット》」
「彷徨える魂よ、我が声に答えよ。 【凍梟弾】《アイスオウルバレット》」
シュリエさんとビエルダの放った弾丸が、氷のワシとフクロウが空中で交錯してくだけちった。
「くっ!」
「お前の手はよくしっている...... お前たちは拘束させてもらうぞ。 それが約束だからな」
(約束、誰かが関わってるのか。 ぼくたちが来ることをしっていたのか、 まさか!)
「ビエルダは俺がとめる! お前はサポートを!」
「はい!!」
『おい! 上になにかいる』
上から大きな何かが近づいてくる。 だがその姿は見えない。
「ミーシャ、アリを!」
『彷徨える魂よ、我が声に答えよ。 写鏡蟻』
ぼくがミーシャの鏡を空中に投げると、無数のアリがその見えないなにかに取りつく。
「これは! クモ!」
それは大きなクモだった。 クモは氷の糸を吐き出してくる。 それが当たったところは凍りついた。
「この拘束の氷はあれの糸か! 彷徨える魂よ、我が声に答えよ! 甲虫護謨弾」
クモにゴム弾を放つが、その体に当たると弾かれた。
「なんて固さだ! 弾丸が効かない!!」
「無駄だ。 そいつはこの豪雪の圧縮によりつくられた氷のクモ。 並の強度じゃない」
(氷か。 それで見えづらかったのか)
その頭に大きな星幽石が埋まってるのが見えた。
(ぼくの手持ちで、あれを貫くのは無理か)
「クルス、そいつは俺がやる!」
「では、ぼくが前を止めます!」
「わかった!」
「なめるなよ。 そのクモも俺もお前らが倒すなど不可能だ」
そういうとビエルダは銃をうってくる。
「彷徨える魂よ、我が声に答えよ浅蜊盾」
「こいつ! 何体動かせる! くっ」
(やはり限界か......、 あのクモを操るので精一杯だな)
「だが! その凍蜘蛛とめることはできん!!」
「彷徨える魂よ、我が声に答えよ。 【氷海鷂魚】《アイスレイ》」
シュリエさんはもっていた氷のはいった鞄に星幽石のナイフをさすと、氷のエイが現れた。
「なっ!?」
エイはクモにあたると一瞬で凍りつかせる。
「あなたが止まっている間、シュリエさんは進んでいたんですよ」
「ふざけるな!」
『ふざけてんのはお前だよ。 彷徨える魂よ、我が声に答えよ』
ぼくの鞄からクロヒョウとなって飛び出たミーシャは、ビエルダを押し倒した。
「がはっ!!」
「シュリエさん、これで全員捕縛しました」
「ああ」
「......シュリエ、お前はなぜこの国を捨てた」
そう拘束されて座るビエルダはシュリエさんをみあげる。
「捨てた訳じゃない。 だが俺にはこの国を建て直す力も知恵もなかった。 ここにいても俺もこの国も腐るだけだった」
「......ふっ、それで共和国の犬か」
侮蔑したようにビエルダは座ったまま睨み付けている。
「ああそうだな。 俺は外にでて多くを学んだ。 その知識や力はいずれここの人たちにも希望を持たせることができるかもしれん」
「そんなことは無理だ! 子供の頃からここの大人たちは全てを諦め腐っていた、それはお前もしっているだろう! だから俺たちがここをただすんだ!」
「それで力で押さえつけるのか。 かつての王国のように。 結局お前もガザールとかわらん」
「ずいぶんないいようだな」
そう入り口から人影がはいってきた。




