第三十九話「孤児院の記憶と銀狼」
『さむぅ......』
そういってミーシャが鞄のなかに隠れた。
雪のふっている白い町をあるく。 だがそこに人の姿はまばらで、静かな町だった。
「ふぅ、確かに寒いですね」
「ああ、ここは常に雪がふる地域だからな。 ガリッ」
そう氷をかんでシュリエさんが懐かしそうにいった。 ぼくたちはカイル隊長から、この地域エルバス行きを命じられてきていた。
「それでシュリエさん、隊長から詳しくはシュリエさんに聞くようにいわれたのですが......」
「ああ、ここに反政府活動をしているものたちがいる。 そいつらの捕縛だ」
「エルバス...... 【銀狼】《シルバーウルフ》ですか」
「そうだ」
銀狼はエルバスの独立を求める武装組織だった。
『ここはお前の故郷だろ』
「ひっ...... 」
ミーシャが鞄から顔を出すと、シュリエさんが体を引いた。
「やっぱりネコ苦手なんですね」
『いい加減なれろ』
「す、すまん。 ガリッ」
「でも...... エルバスって昔、共和国と戦争してたんですよね」
「ああ、六年前までエルバス王国って独立国だったが降伏した。 俺も参戦して戦ったよ」
『それでよく軍に入ったな。 いわば敵だろ』
「昔はな。 戦いが終わったのに、いつまでも戦いを続けてもしかたないからな。 戦いを続ければ一番被害があるのは弱い人たちだ。 そう知ったのさ」
『ふーん、まあ私たちと同じようなものだな』
「それで、行き交う人が、ぼくたちをみているんですね」
さっきから通るものたちが、こちらをうかがうようにみていた。
「珍しさのもあるが、やはり傷はいえてないのだろう」
ぼくたちは町を歩き、人々に聞き込みをするが、よそよそしく会話を切られてしまう。
『情報が得られないな。 警察や自警団もこの有り様じゃ、どうしようもないぞ』
「ああ、元々排他的な人々が多いが、ここまでかたくなとはな。 直接アジトのありそうなところを押さえるしかないな」
「......銀狼のアジトに、大丈夫ですか」
「銀狼は数十人にもみたない小さな組織だ。 だからいままではほっておかれたんだ。 ただ政府への不満がましているいま増加する恐れがある。 大きなテロでも起こされるわけにもいかない」
『それで、そいつらを捕まえるのか』
「ああ、俺たちなら数十人程度なら捕まえるのは難しくないからな。
ガリッ」
「まあ普通の人たちなら...... でもぼくたちもきたということは、ネクロマンサーもいるんですね」
「ああ、リーダーが使うそうだ」
『それでか...... うぅさぶぃ、早く建物には入ろう』
そういいながらミーシャは鞄に潜り込んだ。
(時間さえ稼げれば...... 大丈夫か)
『うぅ...... にゃーん』
ミーシャがうんざりした顔で子供たちにさわられている。
ぼくたちはシュリエさんが育ったという孤児院にきていた。
「シュリエさんも孤児だったんですね」
「ああ、ここで十才までいた」
「シュリエ兄ちゃん、遊ぼうよ!」
「私と遊ぶの!」
「わかった。 アムル、リノエあっちにいこう」
そういってシュリエさんは子供たちをつれていった。
「すみません、ネコちゃんに子供たちの相手をしてもらって」
そうこの孤児院の老院長【ルベリア】さんが話しかけてきた。
「いえ、構いません。 シュリエさんのあんな穏やかな顔ははじめてみました。 いつもクールで冷静な人ですから」
(ネコと女性以外には)
「そうですか。 昔はよく笑う子供でしたよ」
そうルベリアさんは子供たちと遊ぶシュリエさんをみてほほえむ。
「いまもあの子はこの孤児院にお金をいれてくれるんです」
「そうでしたか」
そういったルベリアさんの顔は悲しそうだった。
「シュリエさんは共和国との戦争に参加されてたとか」
「ええ、戦争が始まって、元々苦しかった孤児院は民間からの寄付が受けられなくなったのです。 それでシュリエは数人と共にお金をえるため戦争に参加したんです」
(ぼくたちみたいだな)
「あの子には本当に迷惑をかけているのです......」
申し訳なさそうにルベリアさんがいう。
「でも、今は楽しそうですよ」
そうシュリエさんをみていうと、ルベリアさんが微笑んだ。
次の日、ぼくたちは山にいた。
「それで銀狼はこの山に?」
「この山に潜伏して、輸送や基地を襲撃しているらしい。 といっても被害など軽微だ。 大したことはできてない。 ただ捕縛は容易くない雪山だからな」
『雪山か...... 厄介だな。 隠れていても見つけづらい』
周囲は地面も木々も真っ白だ。
「たしかエルバスとの戦いで一番苦しめられたのが、ゲリラ戦だったはず」
「そうだな。 だが俺は山のことを熟知している。 ここは見知った庭だ。 ガリッ」
白く雪が積もる山道をのぼる。
『寒いな...... こんなところじゃ、作物も育たないだろう』
「ああ、だから常に飢えていたよ。 子供の頃は食べるものもなかったから、雪を食べたりもしてた」
(今氷を食べるのはその癖なのかな)
「たしかザガール王は戦争後に失踪してますよね」
「そうだ。 共和国に殺されたとか自殺したとかの話もあるが、あいつなら生きているだろう。 独裁者だったんだ、簡単に死ぬような殊勝なたまじゃない」
『ここは元々その圧政からの解放を理由に共和国が進攻したからな』
「まあな。 飢えに耐えかねて亡命者も多かった。 ただ共和国も帝国の影響が強い、この国を邪魔だったから潰したんだがな」
「まあ、そうでしょうね」
『......なにかいる』
ミーシャの耳がピクピクうごいた。
「ああ、鳥だね」
遠くの木々の間から白い鳥が群れでいる。
『なんだ鳥か』
「いや、あのカモメは群れなんてつくらない。 みんなかまえろ...... 彷徨える魂よ、我が声に答えよ 【雪海豹】《スノーシール》」
シュリエさんが足で雪に星幽石をうめ踏むと、雪のアザラシを産み出した。
その瞬間、弾丸とカモメがこちらに飛んでくる。 雪のアザラシは壁となりそれを防ぐ。
「罠か」
「ああ、この戦法はゲリラの常套手段だ」
『向こうは正確に狙ってくるが、こっちは周りにある木で姿すら視認できないぞ』
「......攻めるには不利だからな。 ガリッ、彷徨える魂よ、我が声に答えよ」
シュリエさんは小さく割った氷に、複数の針の星幽石を埋め込んだ。
「雪虫雨」
大量の雪虫が雪のように空を舞うと、木々の奥で地面へと降りそそいだ。
「ぐぁっ!!」
「ぐっ!!」
遠くで声がする。 そして雪を人が去っていく音がした。
「いくぞ」
近づくと、その場所には血の後があり、それが転々と奥へと向かっていた。
「なるほど、これを追っていけば」
「ああ、昔動物を狩る時につかった方法だ」
シュリエさんは地面をみていった。
『そういや、シュリエは孤児院育ちだろ。 どこでネクロマンシーを手に入れたんだ』
「俺の家はネクロマンサーの家系だった。 両親は戦争に駆り出され死んだがな」
「なるほど、術士の家系ですか。 ぼくと同じか」
『じゃあ、さっさと追うぞ』
「まて......」
そうシュリエさんが制止した。
「そこになにかある...... これは」
雪に隠れているが、小さな虫がそこらにいる。
「これはなんですか?」
「ユスリカのディシーストだ。 小型の爆薬に変えている」
『これが全部か!』
「ああ、俺たちが昔使った手だ。 追わせて踏ませる」
「地雷ですか」
「ああ、当然威力は小さいが足を負傷させれば優位になるからな。 踏まないように歩くぞ。 二人ともディシーストはだしておけ。 最悪狙撃や別の罠もあるかもしれん。 一度爆発させておく」
シュリエさんが雪のアザラシで、ユスリカを踏ませると連続して爆発した。
「連鎖、誘爆ですか」
「そうだ。 これで爆発したと思わせ、近づこう」
ぼくたちは奥へとすすむ。
「ふぅ、かなりきついですね」
深い雪と寒さと山道で体力をうしなう。
「ああ、罠の可能性を考えて足跡がみえるところから離れている、わざと獣道をとおっているからな」
『本当に厄介だな......』
「ゲリラに苦戦するわけですね」
「ああ...... だが、あれだ」
奥に洞窟が見えてきた。




