第2章 その38
よろしくお願いします。。。
少年衛士の母親が、か細い亡骸を抱いて、大きな声で泣き出した。
その張り詰めた肩に手を置いた父親が、暗い眼差しでエティへ問いかけた。
「うちの子は……どうでした。
立派に役目を果たしましたかい」
エティはその視線を真正面から受け止めて。
受け止めたからこそ、涙がにじんでくるのを感じた。
瞬きしたらきっと涙がこぼれてしまう。
それを嫌って、瞳を開いたまま父親に応えた。
「はい。この上なく見事な働きぶりでした。
──だからこそ。これ以上は誰も。
二度と彼と同じ目に遭わせたくない。
そう思っています」
嫌っていたはずの涙が、ころりと頬の上を転がっていく。
エティはそれでも目を開けたまま。
真っ直ぐに少年衛士の父親の視線を受け止め続けた。
視線を下に落としたのは父親のほうが先だった。
「ありがとうごぜえやす──
そう言われてこいつも報われらあ。
『これ以上の犠牲は出させない。』
何よりの手向けでさあ」
「ありがとう……ございます。
エティ様」
ふたりの会話を聞いていた母親が、涙でかれた声でようやくそれだけ口にした。
エティは、悲しそうな、けれどとても心の強い父母におじぎをして、葬儀の段取りを打ち合わせることにした。
キーペに聞いた話では、これまでの衛士は死亡後のコインを墓地に収めることで、葬儀の代用としてきたという。
今回の少年衛士は身体が残っているので、一般的な葬儀と同じ扱いになる。
浴葬だ。
「よくそう? 何それ?」
「死者が身を浸すと白骨化する温泉があるんです。
神殿からほど近い山あいにありまして、動物が湯治に訪れる湯です。
昔、傷が深かったクマが湯に浸かっていて、絶命した途端に毛皮も肉も溶けてなくなったという逸話がありまして。
ぼくらは葬儀に使っています」
「動物……すごいわね……」
「ぼくらが日ごろはサウナやシャワーだけにして、温泉に浸かりたがらないのは、それもあるんですよね。
何だか不吉な気がして」
「そうね。それはそうなるわよね。
──息子さんを白骨の湯に連れて行くときはご一緒させてください」
台詞の途中から遺族へ向き直ってそう告げたエティ。
キーペは内心では苦悩していたが、その、どこか予想通りな彼女の発言を受けて、異を唱えることはしなかった。
眉根を寄せて、けれど口角は上げる。
「そう言うと思ってましたよエティ様。
ぼくも行きますのでご安心ください」
「エティとキーペだけじゃ不安だろ。
俺も行くから更に安心しろよ。な?」
そう言いながらエティのそばに歩み寄って、親指で自らを指し示したのはフィーレだ。
彼は、にかっと笑ってもう片方の手を自分の腰に当てた。
エティは近くに来たフィーレを見つめて、キーペへ見せていた笑顔をそのまま彼に向けた。
「フィーレ。いいの?」
「悪かったら言わねえっつの。
そいつ、俺のバングル守ってくれたからな」
「そうね。ありがとう」
「ありがとうございます、フィーレ様」
「いや待て待て。オレも行くよ」
「ワーテルも行ってくれるの?」
キーペの隣に立ちながらワーテルがこぶしを握った。
それを肩のあたりに持ち上げて眼鏡を光らせる。
「ああ。オレ、今回、思うところあったんだ。
最後まで付き合わせてほしい」
ワーテルがそれを言うと、ウードとゴルドも集まってきた。
「思うところという意味では、ぼくにとっても今回は忘れられない探索行になったよ。
一緒に行かせてくれるかい?」
「ボクも……迷惑じゃなければ。
忘れないでいたいんです。彼のこと」
「みんな……」
エティは意外なことで目を丸くした。
けれども、もしかしたら自分の言っていた『死なない心構え』が、わずかでも彼らに届いたのではないかと感じて。
泣きそうな顔で笑うと、もう一度「ありがとう」を繰り返した。
遺族は浴葬に出発する際には必ず連絡すると約束してくれ、遺体はいったん、神殿の安置所に寝かされることになった。
そうして一回目の探索行は終わり、それぞれ帰途に就く。
エティは帰りのソリの中で、守護者と衛士を全員集めての集会は明後日になるとキーペから聞かされた。
「悪いわね。疲れているのに」
「大丈夫ですよ。どちらにしろ、おひろめもまだでしたしね。兼ねる形で開催しましょう」
「おひろめ……」
「エティ様が救世の乙女だと、この土地の皆様にお伝えするんです。
色々と便宜を図っていただけるようになりますよ」
「へえほんと。食堂が一割引きになったり?」
「ぷ。そうですね」
食堂によっては一割どころか半額になったり、飲み屋に行けば一杯タダになったりするのだが。
エティはまだそれを知らない。
くすくすと笑って肩を揺らすキーペを見てエティは怪訝そうにしていた。
一緒に行動してる守護者とは少しずつ信頼関係も生まれてきたかな? というところですね。
ここまでお付き合いいただきありがとうございます!




