第2章 その37
よろしくお願いします。。。
帰りのソリの窓から、精霊神殿の尖塔が見えてきた頃。
エティはキーペにいくつかお願い事をしていた。
ひとつめは少年衛士の家族に遺体を引き渡したいと。
「あたし、約束を果たせなかったわ──無事に連れ帰るって言ったのに」
「分かりました。ですが……そうお気に病む必要はありませんよ。
衛士に出したその時から、ご家族の覚悟は決まっているんです」
キーペの発言にこめかみをひくつかせたエティ。
狭いソリ内でがなることはなかったが、ゆっくりと腕を組んで背を反らした。
鋭い眼差しで少年神官を射抜く。
「あんた殴られたいの。そんなもの決まっているわけないわ。
そうでなきゃ、みんな見送りの時にあんなに名残惜しそうにしないわよ」
「そうですね……精霊神様がご不在だったら皆様、あんな風になさるんですね。
これまではお役目を果たせるように祈りを捧げるくらいだったのですが」
「あたしを召喚したのもそうだけど、最悪ね。その神様。
もし会ったら絶対に許さないわ」
「どうして神様がお姿を現さないのかは、ぼくには預かり知らないことですが……エティ様がお怒りになられるのも無理はありません。
お目にかかれる日が来ましたら、お好きなだけけんかなさってください」
ぷ。と思わず吹き出したエティだ。
彼女は少しだけ気分を良くして笑う。
「あんたは神様の味方じゃないの、神官殿? そんなこと言っちゃっていいの?」
「──覚えていてください。
よかれと思って意見することはもちろんあります。
けれどもぼくは、どうなってもぼくだけは、エティ様の味方です」
「そう──
うん。そうね。
ありがとう、キーペ」
彼女が組んでいた腕を解いてふわりと笑うと、キーペも常の微笑みを久しぶりに浮かべてそれに応えた。
ふたつめをキーペに問われて、彼女は、それが本題だと口にする。
「みんなを集めて。守護者と、衛士も全員よ。
コインになっている人も全員人間に戻して」
その発言に目を見開いたキーペ。
彼は引き気味になりながらためらいがちに答えた。
「え、エティ様……。守護者の方をそろえるのは、本当に難しいことなんですよ。
それに、衛士様方をコインも人間に戻して全員集めたら、千人を優に超えます。
分かりますか? 収容できる建物がないですよ!」
「大事なことなの、守護者のみんなにはあたしからもお願いするわ!
建物は、晴れた日を狙って外で集まりましょ。
拡声の魔法が使えるでしょ?」
「は、は、は……大事な……。
わ、分かりました……前言撤回はしません。
エティ様のためにできることをしましょう」
「ありがとう! キーペ!」
エティは、がばっとキーペに抱きついて笑みを深めた。
眉間にしわを寄せていたキーペは彼女の温もりを感じて穏やかな面持ちになり、ぽんぽんとその柔らかな背を叩いた。
みっつめ以降のお願いは、空腹を満たすことであったり、シャワーを浴びたいであったり、いずれにしても自宅に戻れば自ずから用意されている類のものばかりだった。
エティは自宅へ戻るより先に少年衛士の遺体を家族に届けたいと願い出て、まず神殿でソリの連結を離した。
そこへやってきたのは、数日前に見送りに来ていた家族たちの出迎えだ。
無事に帰ってきた大人衛士は歓待されていたが、亡骸になった少年衛士は──冷たい雪の上でそっと遺族に引き渡された。
厳しい表情の壮年と涙に震えていた婦人は、エティが深々と頭を下げて許しを請うと声を荒げた。
「なんであんたら傷のひとつもねぇんだ!」
「うちの子だけこんな傷だらけで……ああ!」
「傷ならついたさ! その場にいた全員にな!
その後、エティはそいつのことも、いの一番に治そうとしてた。
でも治らなかったんだ!」
反論したのはフィーレだった。
エティは彼の肩に手を置くと、潤んだ目元を閉じて首を左右に振った。
「申し訳ありません……
命が絶たれた後では、癒しの法は効かなかったのです」
久しぶりに少し笑えたエティとキーペ。
早く問題が解決するといいです。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます!




