第2章 その33
よろしくお願いします。。。
「どうしたのキーペ? 何だか、つらい何かを無理に抑え込んでるみたいな顔だけど」
「……!」
少しだけ両目を見開いたキーペは、すぐに元通りの無表情に戻ってエティを見つめ返した。
その声音は冷えて淡々としている。
「これから何があっても、平常心を保たれますように」
「なぁに? 何か驚くことでもあるの?
儀礼具の回収するだけでしょ」
「……儀礼具の回収も慣れるまでは難しいと思いますが、それよりむしろ」
「むしろ?」
「侵害者です。おそらく来るでしょう」
「……!」
今度はエティのほうが目を見開く番だった。
彼女は息をのむと一度その唇を引き結んだ後、意を決した様子でうなずいた。
「分かった。最善を尽くすわ」
「……はい。そうしてください」
キーペは無だった面持ちにまた切なそうな色を浮かべたが、それも数秒で消えた。
彼が背筋を伸ばして救世の乙女と集まっていた守護者たちを岩場へと先導する。
大人衛士はソリの見張りに残ったが、少年衛士はエティたちについてきた。
「あんた、むりすんじゃないわよ」
「はい! 全力でがんばります!」
(どうしようかしら。こいつ絶対分かってないわ)
エティは正直、少年衛士にはソリに残っていてほしかった。
しかしキーペや守護者たちは彼がついてくるのを当然と捉えており、むしろ大人衛士たちを残すのに難色を示していた。
そのため、エティは強く出られなかったのだ。
今、赤く光る精霊石で足元を照らしながら雪積場を横に見て岩場までやってきた一行。
彼らは、その天然の祭壇を見て確かに月闇の極がそこにあることを悟った。
「岩場の中に球体を輪切りにしたみたいな影が見えるわね。
暗紫色の淡い光の中。
あれが月闇の極なの?」
「さすがに無属性ですね。
これまでの乙女なら、一旦ご自身の精霊力を解放して、対象の儀礼具と同じ属性の精霊を取り込む儀式を先に行う必要があったのですが。
エティ様には不要なようです」
「ふふ。役に立つこともあるのね」
「ではこちらへ。エティ様、フィーレ様。
あとの方々はその場で待機願います」
岩場の左右にキーペとフィーレが陣取る。
エティには正面の位置があてがわれた。
一番大きな穴から漏れ出ている光は、遠目には美しいばかりだったが、近付いてよくよく見ると少しばかり禍々しい。
エティがぽろりとつぶやく。
「何だか悪いことが起きそうな雰囲気ね」
「侵害者の影響下にあるからですね。
ぼくとフィーレ様とで悪しの精霊力を無力化します。
そうすると光の色合いが今のどす黒いものよりも白っぽい藤色に変化しますから。
それを確認したのち岩場から儀礼具を取り出してください」
「分かった。
もしも色が既に変わっているのにあたしが動かなかったら言ってもらえる?
気付けなかったかもしれないわ」
「それでしたら、ぼくが右手で合図しましょう。
詠唱している呪文以外の言葉を口にすると儀式が失敗に終わります」
「ええ。それでいいわ。
ありがとう」
エティは岩場を真向かいに見て仁王立ちした。
そして鋭くした眼差しを件の穴に突き刺す。
フィーレはそんな彼女に気を取られていた。
いな、もっと平たく言えば──見惚れていたのだ。
見惚れていたのはフィーレだけではない。
ワーテルも、ウードも、ゴルドも。
彼女の背中から見て取れる意気込みに目が離せなくなっていた。
これまでの乙女たちとは違う。
背負って立つ責任感。
守られるだけでは終わらせない覚悟の表れ。
それらがにじみ出て、彼女を輝かせているのだった。
(守る。なんとしても。
今度こそ、このバカげたゲームを終わらせるために)
ワーテルは、そう心に誓ってこぶしを握った。
ゴルドはウードに小声で呼ばれて目を見かわしたが、やがて互いに小さくうなずいた。
最後に少年衛士が動いた。
彼はエティの背後に回ると背中を合わせてそこに立った。
キーペは一瞬、迷ったのだろう。
何か言おうと口を開いて、しかしすぐにまた閉じた。
彼は長いまつ毛に縁どられた両目を閉じてから、ゆっくりと開き直す。
そこにはもう迷いや動揺は微塵もなかった。
儀式が始まる。
キーペの口上が始まった。
エティが密かに野郎どもの好感度上げてます。
そして一番若く見えるのに一番苦労症なキーペ。
がんばってほしいです。
ここまでお付き合いいただきありがとうございます!




