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4.家庭の事情

第4話です。よければブクマや評価よろしくお願いします。

 今日の授業をすべて終え、帰りのホームルームで担任の先生と挨拶を交わして、直弥と共に下校する。


「そういえば、直弥の家ってマンションだよね? 何階に住んでるの?」


 直弥の家は学校の最寄り駅から電車で少し行ったところにあるマンションだ。俺の家は学校から徒歩15分くらいのところにあり、いつも駅までは一緒に帰っている。


「10階建てマンションの6階に住んでるよ」

「へぇ、やっぱ景色良かったりする?」


 生まれた時から戸建てに住んでいる俺には、6階からの景色なんて想像がつかない。


「うーん、そうでもないかな。周りはビルとか他のマンションがあるだけだし」

「あ、そうなんだ。マンションの上の階って絶対景色がいいのかと思ってた」

「そんなことないよ、僕の地元の方が景色は良かったかな。田舎だから不便だったけど」


 直弥は高校入学と同時に引っ越してきたので、この地域が地元というわけではない。

 能力者は能力者育成学校に通うことを義務付けられていて、近くに能力者育成高校が無い地域の能力者は、進学の際に居住地の変更が求められる。

 そのため、ノウコー学園には日本全国から生徒が集まってくる。

 多くの生徒は、単身で引っ越してきて、高校の寮に入る。直弥のように家族丸ごと引っ越してくるケースは珍しい。

 引っ越しに関する補助金は色々出してもらえるらしいが、両親の仕事の都合もあるのであまり現実的ではないらしい。

 俺は実家が元々ノウコー学園の近くにあったので、特に引っ越すこともなく普通に実家から通っている。これは直弥よりも珍しいケースだ。引っ越し等を考えなくていいので1番楽なケースでもある。

 俺も実家が高校の近くじゃなかったら寮で一人暮らしをしたかった。


「へぇ、景色の良い田舎とか行ってみたいな」


 あっという間に駅につき、俺は直弥と別方向に足を踏み出す。


「じゃ、また明日」

「うん、じゃあね」


 直弥に手を振って別れ、1人で帰路につく。


「ただいまー」

「おかえり、すぐにお風呂入っちゃって」


 家に帰ると、お母さんが夕飯の支度をしていた。


「お姉は?」

「なんか大学の課題やるからって部屋に籠ってるよ。お風呂は後にするって」


 俺には4つ上の姉がいる。今は実家暮らしの大学2年生だ。

 俺はお母さんに言われた通り風呂に入り、夜ご飯まで今日の課題を進める。明日提出しなければならない古典の課題があるから急いでやらなければならない。


「カゲー、ご飯よー」


 しばらくするとお母さんから呼び出された。『カゲ』というのは俺の家族からの呼び名だ。

 リビングには仕事から帰って来たお父さんと夜ご飯の配膳をしているお母さん、座ってスマホを眺めている姉がいた。

 俺はキッチンに向かい、配膳を手伝う。


「「「「いただきまーす」」」」


 我が家は基本的にお父さんが帰って来てからみんなで揃って食事をとる。家族仲は良い方だ。


「もう高校には慣れた?」


 お母さんがこっちを見て話す。


「うーん、まぁまぁかな、普通に友達はいるって感じ。授業はちょっと難しいかな」

「カゲの高校って能力者ばっかなんでしょ? どんな授業してるの?」


 お姉が会話に加わる。

 うちの家族は俺とお母さんが能力者でお父さんとお姉は非能力者だ。魔法は必ずしも遺伝するものではないらしい。


「古典とか数学とかやってるし、基礎魔法学っていう授業もある」

「へぇーやっぱり魔法の授業とかあるんだ。面白い?」

「うーん、面白いけど、難しいかな」

「確か、年に何回か大会もあるんだろう? それの練習とかはしてるのか?」


 お父さんが味噌汁を啜りながら聞いてくる。


「うん、魔闘祭っていうのがあって、みんなそれに向けて頑張ってるよ。魔闘祭で優勝すると何でも好きなもの貰えるから」

「なんでも!?」


 俺の言葉に姉が驚きながら食いついてきた。

 入学してすぐ、一年生の学年集会で魔闘祭の内容とその優勝賞品について告げられた。

 魔闘祭は年に数回大会が行われ、各大会の成績ごとにポイントが集計される。各年度末、最後の大会が終わった時点でランキング一位だった生徒が、その学年の優勝者となる。

 ポイントは学年が上がっても引き継がれるため、一年時にランキング上位だった生徒は自ずと二年時の優勝候補者となる。

 そして、魔闘祭の優勝賞品は、『好きな物何でも』という抽象的な内容だ。

 

「何でもってマジで何でも!?」

「うん、お金とか大学進学とか就職の権利とか、何でもありなんだって」

「あら、太っ腹ね」


 冷静なお母さんとは対照的に、姉は俺を羨ましそうに見つめてくる。

 もちろん、学校側で用意できるものに限られるらしいが、金、就職先、進学先、席替えを決める権利、などなど、優勝者が望めば本当にどんなものでも用意してくれるらしい。

 参考までに今までの優勝者の賞品を調べてみると、多くの生徒が金や就職先と進学先の内定を望んでいた。


「いいなぁー能力者ってただでさえ就職に困らないのに、そんなチャンスまであるんだ。私も能力者がよかったーそしたら優勝して大学の単位貰うのに」

「あらーそんなのに使うなんてもったいないわよ。カゲ、優勝したら良い大学に行って一流企業に勤めさせてもらいなさい」

「いやいや、そんなものより金の方がいいだろう。大学はしっかりと勉強していくもんだし就職も自分の力でするもんだ。素直にお金を貰って好きなことに使いなさい。あ、少しは学費を補填してくれると助かる」


 家族は好き勝手に優勝賞品の話で盛り上がる。


「ちょ、ちょっと待ってよ。魔闘祭で優勝するのなんて夢のまた夢だから」

「あ、そうなの? でもどっちにしても羨ましいなー」


 姉は生姜焼きにかぶりついた。

 魔闘祭で優勝するのは間違いなく難しい。だが、俺は心の中ではその優勝を目指している。

 家族の手前、あまり堂々と宣言することはできないが、優勝したら父の言う通り金をもらうつもりだ。そして、給料の良い企業から声をかけてもらい、親に仕送りをする。

 それが俺の描いている理想の道だ。

 うちの家族は貧乏というわけではないが、あまり家計に余裕はない。その原因が自分にあることは、俺には分かっている。


「そういえば、カゲは最近背が伸びたんじゃない? 体操着とか買い替えた方がいいかしら」

「いや、大丈夫だよ。元々ちょっと大きめのサイズ買ってもらったし、まだ余裕あるから」


 俺が家計を圧迫している理由は、俺が能力者だからだ。

 能力者の子供というのは、非能力者と比べて何かとお金がかかる。

 能力者の登録料に始まり、毎年必要な能力者講習の費用、魔力遮断器具などの日用品、それに能力者育成学校の学費など、普通の子供と比べて必要な支出が多くなる。

 能力者育成学校は他の公立校と比べて学費が相当高い。恐らく通常の教育に加えて能力者のための教育やそれに必要な設備が必要だからだ。

 能力者は高い学費を払って高校に行かなければならないのに国からの十分な支援は無い。そのことは長年問題視されているが、圧倒的マイノリティである能力者のための支援は中々実現しない。

 だから俺は、いち早く金を手に入れ、優秀な能力者として認められ、良い企業で働かなければならないとずっと思っている。

 お母さんが毎月家計簿をつけている姿を見ると、心が痛む。俺が能力者じゃなかったら、両親はもっといい暮らしができていたかもしれない。


「その大会でいい成績残した男子って、やっぱ女子に人気だったりすんの?」


 俺の悩みなんて知る由もない姉は、気楽に話す。


「うーん、そうなのかな。周りにそういう人がいるわけじゃないから分からない」

「いやー絶対人気でしょ。足の速い男子がモテるみたいに、学校行事で目立つような男子は人気なもんだよ。 いいなーそういう分かりやすく目立てる場所があって。ちなみに、カゲは前回どこまでいったの?」

「……一回戦負けだよ」

「それじゃあ、ダメだな。そんなんじゃ彼女もできないしクラスの人気者にもなれないぞ」


 姉は何故か俺を評価してくる。

 何様のつもりなんだ。自分だって高校生の頃は友達少なくて彼氏もいなかったくせに。


「別に魔闘祭だけで全てが決まるわけじゃないから」

「いや! そんなことないね!」


 姉は何故か食い下がる。


「聞いてる感じだと魔闘祭っていうのは学校の一大イベントなわけでしょ? 高校生活ってのは何かしらの分野で人の記憶に残らなきゃどうにもならないもんよ。運動も勉強も人並みのカゲはそういうイベントで自分をアピールしないと充実した高校生活を送れないってこと!」

「……肝に銘じておきます」


 その後は夜ご飯の間中、姉による『充実した高校生活を送るにはどうすればいいか』というテーマのプレゼンが行われた。お母さんとお父さんは心底興味無さそうに相槌を打っていた。


「充実した高校生活に、彼女、かぁ……」


 夜ご飯を食べ終えた俺は、自室のベッドで横になる。

 頭の中では先ほど姉に言われたことがぐるぐると回っていた。

 俺の高校生活での目標は、魔闘祭で好成績を残して良い仕事に就く。あわよくば優勝することだ。

 でも、正直、高校生のうちに彼女が欲しいという気持ちはあるし、友達もなるべく欲しいし、スクールカーストのなるべく上の方にいたいという気持ちも人並みにある。

 でも、そんな当たり前の欲望を叶えるためには俺には足りない物が多すぎる。今までは能力者というだけで珍しい人扱いだったけれど、今の高校ではそういう扱いも受けることができない。

 姉の言っていた通り運動も勉強も人並みで、ごく普通のクラスメイトである俺が一発逆転できる何かがあるとすれば、それは魔闘祭だ。

 やはり姉の言う通り、ノウコー学園で学生生活を送る上で、魔闘祭の存在は相当大きい。

 優勝、とまではいかなくても魔闘祭でいい成績を残せば充実した高校生活を送ることができるだろう。

 自分の将来の為、両親の為、そして充実した高校生活のために、魔闘祭は大きなカギとなる。

 何事よりも気合を入れて頑張らなければ。とりあえず、直近の目標は次の魔闘祭での1回戦突破だ。頑張ろう。

 俺は心の中で決意をして、(まぶた)を閉じた。

 そして、数秒後、(まぶた)を開ける。

 あ、古典の宿題、まだ終わってなかった。

ここまで読んでくださりありがとうございました!

よければブクマや評価、感想よろしくお願いします!

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