1.独り歩き
新連載の一話です!よければブクマや評価よろしくお願いします。
今日の学校は、休日には似つかわしくない人の気配と熱気、喧噪に包まれている。
案内された控室で待っていると、職員から呼び出され、廊下を進む。控室も廊下も壁が白く綺麗で、この建物が比較的新しいことが分かる。
一歩一歩進むにつれ、観衆の声が大きくなり、緊張も高まる。
「「今年もやって参りました。ノウコー学園魔闘祭!!」」
廊下を進み、地上へ続く階段の前に立った時、ちょうど実況の声が響き渡る。
ここは国立能力開発第二高等学園、略してノウコー学園。この学校では毎年、魔闘祭という行事が開催されている。今から行われるのは1年生の部だ。
「「さぁ、本日最初の試合にいきましょう! まずはこの選手、トオル・カゲミチィッ!!」」
実況が俺の名前を叫んだ。緊張を落ち着けるために一度深呼吸し、学校から借りた魔道具の剣を握りしめ、目の前の階段を上る。
階段の先には大きな青い門が設置されており、更にその先には四方をバリアで囲まれたフィールドが用意されていた。
その周りにはスピーカーやドローンといった実況放送のための設備、2万人は入るであろう大きな観覧席が見える。観覧席には観客が詰まっている。
俺は観衆の拍手を受け、硬い足取りで門をくぐった。
「「対するはこの選手、ツチオカ・リュウジィッ!!」」
向かいにある赤い門からガタイのいい男子生徒が入場してきた。武器は何も持っていないが、厳ついグローブを着けている。
「「本日の最初の試合となりますので、試合の前にルールを説明しましょう。本日試合を行うのは今春入学したばかりの1年生! 皆さん、緊張した子がいても温かい目で見守ってあげましょう!」」
客席から少し笑い声が聞こえる。
俺は反則負けだけは避けなければと思い、ルール説明に耳を傾けた。
「「皆さんご存じだとは思いますが、この学校の生徒は全員、魔法と呼ばれる力が使えます。魔闘祭で戦うのはそんな魔法を操る能力者たち! 基本的にどんな能力でも使用可ですが、試合後も影響が残るような呪いの類は禁止とさせていただきます。また、選手には1人1つずつ何かしらの武器・道具を持つことが認められています!」」
俺は実況の声を聞きながら、握りしめた剣に魔力を流してみる。すると、刀身の周りが輝き、光の刃が形成された。形は西洋の騎士が持っている剣のようだ。
魔道具なんて今日初めて触ったけれど、案外簡単に使えそうだ。
「「勝敗の付け方は3つ。『本人の意思による降参』、『1分以上の拘束』、『意識の消失』です。これらの勝敗がつくのならどんな手を使ってもOK! フィールドのバリアによって客席の皆さんの安全は保たれていますので、ご安心を! ルール説明は以上です!」」
実況によるルール説明が終わった。いよいよ試合開始だ。
俺は剣の刃をしまい、腰の鞘に納める。
「「それでは、準備はよろしいですね? 通 影道 VS 土岡 隆二、試合開始ィッ!!」」
ブザーと共にそれぞれが入場してきた門が閉ざされ、フィールドの中には俺と相手の2人のきりとなる。
土岡と呼ばれた生徒は真っ直ぐと俺の目を見て動かない。様子見だろうか。
そう思って警戒していると、相手が口を開いた。
「B組の土岡だ。よろしく」
「あっ、A組の通です。よろしく」
お互い挨拶を済ませる。土岡は、見た目は怖いが礼儀正しそうだ。
「じゃあ、いくぞッ!!」
土岡は掛け声とともに両手を地面につけた。
俺は剣を前に構え警戒したが、地面から何かが近づいてくるのを感じすぐに視線を下に向ける。
「(なにかくるッ!!)」
俺は咄嗟に後ろに跳ぶ。
その一瞬後、さっきまで立っていた地面が隆起し、尖った岩が飛び出してきた。
「(岩や地面を操る能力……!?)」
地面から飛び出た岩を見て相手の能力を分析する。
この学校は魔法を使える能力者のための高校で、俺を含め生徒は全員能力者だ。
能力というのは多種多様千差万別十人十色で、火を出す能力者もいれば空を飛ぶ能力者もいる。
「(地面に魔力を流し込んで相手の足元から攻撃する感じか……? 直前まで攻撃が見えない分避けにくいけど、地面に手を付けるという明確な隙があるな)」
「隙あり!」
考えるのに夢中になっていると岩に隠れる形で近づいてきた土岡が拳を放ってきた。
「危なっ!」
俺は寸でのところで拳を躱す。土岡は近接戦闘もできるようだ。
「(あのグローブは近接戦闘用のものか。多分岩を操る能力の攻撃範囲は8mくらい。相手との距離が中距離ならば能力で攻めて、近づくことができたら打撃で攻めるって感じのスタイルか)」
次々と繰り出される打撃を半分躱し、半分モロに喰らいながら考える。
「(俺もそろそろ攻めなきゃ……!!)」
俺は剣で相手の拳を弾きつつ、距離を取る。
「よし、【独り歩き】!」
隙を見て自身の能力を発動する。
俺、通 影道の能力は【独り歩き】。
影人形という人型の物体を生み出し、それを操ることが出来る。影人形はどんな形にも変形可能だ。
俺は生み出した影人形に剣を持たせ、土岡に向かわせる。
「化身型か、その剣はそいつに持たせるためのものだったか」
土岡は俺の能力の分析を始める。
化身型とは自身の魔力によって何かしらの物体を生み出すタイプの能力のことで、俺の【独り歩き】は典型的な化身型だ。
土岡の能力は恐らく射出型、自身の魔力を何らかの形で飛ばすタイプの能力だ。
先ほどの土岡の分析を少しだけ訂正するとすれば、剣は影人形に持たせようと思って持ってきたわけではない。
なんとなく強そうに見えたから持ってきただけだ
俺は影人形を操って剣を振り回させる。しかし、剣先は空を切った。
土岡は素手と剣では不利だと思ったのか、攻撃を躱しながら距離を取る。
「お返しだッ!」
距離を取った土岡は地面から複数の石礫を生成し、飛ばしてくる。
石礫はかなりの速度で迫ってくる。当たったら相当痛そうだ。
「(ガードしなきゃ!)」
俺は土岡に向かわせていた影人形を呼び戻し、板状に形を変え、その後ろに隠れる。
石礫が雹のように衝突する音が、影人形で作った壁越しに聞こえる。その音が鳴るたびに影人形が消耗していくのを感じる。
「(どうするか考えないと)」
打開策を考えていると、5秒ほど続いた石礫が止んだ。
「(魔力切れ……?)」
そう思った瞬間、自分の足元から気配を感じる。
「しまっ……!」
急いで避けようとしたが、遅かった。
試合開始直後に見たのと同じ尖った岩が地面から飛び出し、俺は吹き飛ばされる。
その後は影人形を出して態勢を立て直す暇もなく、全身を岩で押さえつけられて拘束された。
こうして、俺の高校生活初試合は幕を閉じた。
「いやー高校に入ったばっかりなのにいきなり戦わせられるなんて、大変だよね」
魔闘祭から3日後の昼休み、俺は同じクラスの炎王 直弥と一緒にお弁当を食べていた。
直弥は俺と同じA組でたまたま席が隣だった。入学初日に話してから、今では高校で唯一の友達だ。
「本当だよ。一応自由参加らしいけどほとんどの生徒が参加するみたいだし、何となく参加した方がいいみたいな雰囲気あるよな」
「そうだねー、僕もあんまり参加したくなった。まぁ、ノウコーに入学決めた時から魔闘祭の存在は知ってはいたけど」
ノウコーでは毎年魔闘祭が行われており、その様子はテレビでも放送されているため、多くの人がその存在を認知している。
毎年決まる魔闘祭の優勝者は優れた能力者として名が知られ、多くの企業や大学から声がかかるという。
「でも、直弥は準決勝までいってたでしょ? すごかったよ」
俺は魔闘祭での直弥を思い出す。直哉は手から炎を出す能力を使っていた。
能力自体は単純なものだったけど、その迫力は凄まじかった。炎を出すだけといっても、能力の規模と威力と派手さは生徒の中でも群を抜いており、ほとんどの生徒を初撃で蹴散らしていた。
「いやーあれはまぐれというか、そんな大層なことじゃないよ」
「いやいや、めちゃくちゃ凄かったよ。格闘技とか習ってた?」
「ううん、何にも習ってない。ただ能力がちょっと戦い向きだから勝てたんじゃないかなぁ」
直弥は首を振って、タコさんウインナーを口に運ぶ。
能力は基本的に幼少期から使えるようになるが、その性質は使う人間の考えや性格を反映すると言われている。
見た目も性格も大人しそうな直弥があんなに攻撃的な能力を使うなんて想像していなかったので、初めて見た時は驚いた。
「俺なんて1回戦で負けちゃったよ。あっさり拘束されちゃって、すぐに降参した」
「うん、見てた。そういえば通くんは剣持ってたけど、剣道とか習ってたの?」
「いや、習ってない。道具が一つ借りられるっていうからテキトーに選んだだけ。素手よりは有利かなって思って」
「あ、そうだったんだ。確かにただ剣振り回してただけだったもんね」
素人の自分が剣をブンブン振り回していたところを見られたと思うと、今更ながら少し恥ずかしくなる。
直弥とはまだ短い付き合いだが、今みたいにサラッと心に刺さるようなことを言ってくる。もしかしたらこいつの毒舌なところが能力に反映されているのかもしれない。
弁当を食べ終えた俺と直弥は、少し雑談をした後、次の授業の支度を始めた。
国立能力開発第二高等学園、ここは能力者の高校生のために作られた高校。
影道や直弥のような能力者は、世界人口の10分の1程度しか存在しない。そんな特別で貴重な能力者は社会の多くの場面で重宝されており、この高校のように能力者を専門に育てる学校もいくつかある。
俺、通 影道の目標は、このノウコー学園で一番の能力者になることだ。
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