はぁ...失礼な奴ら
翌朝、俺は遠くから聞こえてくる心地のよい物音で起きた。
まだぼんやりとした意識の中で薄っすらと目を開けてみると、そこには既に身支度を整え店の開店準備をしているエリスちゃんがいた。
「――――おはよう」
「あ、起こしちゃいましたか?ごめんなさいっ」
カスカスの声でボソッと告げた挨拶だったが、彼女の耳にはしっかりと届いていた様で五倍程の声量で爽やかな挨拶が帰ってきた。
(どれだけ丁重に扱ってくれるんだよ…。居候の身分でそこまで気を使われると逆に気まずいよ…)
「いやもう朝だしね。気にしないで」
「いつもはもう少し遅い開店なんですけど……今は祭りのシーズンなので少し早めに店を開けようかなって!」
祭り―――寝起きの為頭が上手く回っていなかったが、昨日の会話の中にそんなワードがあった事をぼんやりと思い出した。
(祭りか……。―――鬱だ)
一日経っても考えが変わる事は無かった。やはりさっさと街を出る事にしよう。
「じゃあ俺はそろそろ行くよ。泊めてくれて本当にありがとう。野宿しなくて済んだのは本当に助かったよ」
「いえ全然気にしないでくださいっ。困った時はお互い様です!
それより――――これからの予定とかって決まってるんですか?」
そう聞かれて改めて考えてみると、細かい事は何も決まっていない事に気付く。
決まっているのはアストラル法国に行くという事だけ。道中の事もついてからの事も何も考えていなかった。
(でもまぁ……行けばなんとかなる、か)
「ちょっと怪我の事でね。アストラル法国の方に行ってみようかと思ってる」
そう言うと彼女は俺の左腕の方を見て少しだけ沈痛な表情を浮かべる。
「そうですか…。冒険者って危ない仕事ですもんね…。レイアさんの命が無事でよかったです」
寝起きで頭が回っていなかったせいだろう。彼女には冒険者関連の話がタブーだという事をすっかり忘れていた。
少し空気が重くなりかけたのを感じたが、すぐに切り替え明るく振舞って俺の無事を喜んでくれる彼女の優しさに朝からどこか優しい気持ちになれた。
(……やっぱりこの子いい子だなぁ)
この子の闇とやらが、もし俺に解決できる様なモノだったら……いつか助けてあげられないかな。そんな事を考えてしまう。
――――――帰る前にそれぐらいの寄り道はいいよな。母さん
「ありがとう。じゃあ俺は行くから、また戻ってきたらご飯食べに来るね」
「はいっ!お待ちしてます!お気をつけてっ」
エリスちゃんの元気いっぱいの気持ちのいい声を背に店を出た俺は、とりあえずギルドへと向かう事にした。
もしまた無断で旅になど出たらユーリさんに怒られてしまうのが間違いなかったからだ。
そんな事を考えてから、ふと思う。
(思ったよりもレスティアの街――――好きかもしれないな、俺)
第二の母さんことフレルさんにチーム・サニスの面々、度々俺の身を案じてくれる心配性の受付嬢ユーリさんに、兄貴肌の様でとても面倒見の良いギルドマスターサウロ。
――――――そしてエリスちゃん
最初こそあの地獄の様な王城の中でほとんど味方もおらず肩身の狭い思いをしていたが、今となっては心から好きだと思える人達がいる。
(腕を失ったり色々と辛い思いもしてきたけどさ……)
この世界に来てよかったのかもしれない。なんだかんだで最近は目的もあり充実している様な気もするし、今の俺なら元の世界に戻っても上手くやっていける様な気が―――少しだけした。
「どうもですユーリさん。再び旅に出ようと思うので一応報告に来ました」
そんな報告をする俺の方を見て呆れた様な表情のユーリさん。
(え、もう怒ってる…?)
「はぁ……本当に破天荒な人ですね…貴方は。まぁレイアさんが強いのはわかりましたし今はそこまで心配の必要もないんでしょうけど……」
「いや怒られるのはイヤですけど心配はしてくださいよ…」
「じゃあもう怒られる様な事をしないでください?
――――なにはともあれ調子には乗らない様気を付けてくださいね!」
どうやらユーリさんの中での俺の印象は最悪な様だった。破天荒でお調子者、とんだ三枚目キャラだ。
(俺は二枚目でいたかったのに……)
「お、レイアじゃねぇか。今日はなんの用だ?」
そんな感じの和やか?な空気でユーリさんと話していると、二階から脳筋ギルドマスターことサウロが降りてきた。
「またちょっと旅に出ようと思ってさ。一応その報告に来たわけ」
「旅?どこに?」
「アストラル法国ってとこ」
俺がそう言うとサウロは勿論の事、ユーリさんまでもが驚いた様な表情をした。
なにかまずい事でも言ってしまったのだろうか。帝国の件もある、もしかすると法国までもが王国と仲が悪いなんて事もあるのだろうか。
「こりゃまた似合わねぇとこに……」
「レイアさんがアストラル法国になんの用ですか…?」
だがそんな心配はお門違いだった様で、彼らが驚いていたのは単に俺が信仰深いアストラル法国なんぞに行く事に驚いていただけだった。
(そもそもなんだ似合わないって、俺の事をなんだと思ってんだこいつらは)
俺だって神の事を信じる時は信じるのだ。おみくじだって引くし気が向けば賽銭を入れる事だってある。
「ちょっと腕のいい僧侶を探しにな。もしかしたら腕を治す手段がわかるかもしれないし」
「なるほどな…。まぁいるとすれば確かにあの国ぐらいか……。――――だが悪い事は言わない、あまり期待はし過ぎない方がいいかもしれないぞ。失った腕を完全に復活させるなんて芸当、人の域を軽く超えてるしな。もし可能性があるとすれば……」
「聖女様ぐらいですね。あの方だけは他の僧侶とは文字通りレベルが違うと聞きますし」
「……だな」
ここにきて久しぶりに初めて聞くワードが現れた。
聖女―――ファンタジーの世界では有名な言葉だが、この世界に来てからは間違いなく初めて聞く言葉だった。
俺の記憶では、確か神からの神託を受け取れる女性とかそういう感じのモノだった気がする。
そもそもな疑問なのだが、聖女様なんて呼ばれている人間にただの冒険者である俺が会えるものなのだろうか。
(――――いや待てよ…?俺勇者じゃん!)
いつか見たラノベの設定で勇者と聖女が同じパーティーに所属していた様な記憶がある。
しかもそのパーティーの中で勇者と聖女はペアみたいに描かれていたのも覚えている。
(こりゃ会えるかどうかどころか、レスティアに戻ってくる時にはラブラブハネムーンコースだってありえるんちゃいますのん!?)
だがいきなり「俺は勇者だ。だから聖女に会わせろ」なんて言ったら処刑されかねない。
それにこの国での勇者の扱いを思い出すと到底自信を持って会いに行くことなんて出来そうにも無かった。
「聖女様ねぇ…。じゃあとりあえずその聖女様とやらを探してみる事にするさ」
そう言うと二人が怪訝な表情でこちらを見てきた。
「お前……本当に変な事するなよ?ほんとのほんとに偉い人なんだからな?」
「失礼な事とか言ったら本当に大変な事になりますからね!?本当に気を付けてくださいよ?」
(だからお前ら俺の事をなんだと思ってんだよ。俺以上に礼節に厳しい奴そうそういないぞ?)
……え、いないよね?
「わかったわかった。任せとけ」
「任せられねぇ…。――――そうだ!ちょっと待ってろ!」
何かを思い出したかの様に急いで二階へと走っていくサウロ。思ったよりも時間を使っているし、出来る事ならすぐにでも法国へと向かいたかったのだが……この場にユーリさんさえいなければ二階へ行ったサウロの事など無視してもよかったのだが。
――――それから10分程経った頃、二階の方からこれまた聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あらぁ~、本当にあの時の坊やじゃない。久しぶりねぇ」
そこにいたのは――――このギルドの入り口でサウロと共にいたエッチなお姉さんことフィアだった




