はぁ...何故?
あの後ギルドに戻った俺達はクエストの完了報告と素材の買取りをして貰い、軽く食事をとって解散する事となった。
隠れてついて行った事もあり、表立って分配など出来る筈も無かったし俺は今回のクエストの報酬は貰わない事にした。
当然お人好し三人組からの猛反発を食らったが、実際今俺の懐はワイバーン討伐による報酬のおかげでこれ以上ない程に潤っていた。
だから腕の修復に関する情報料だと言って強引に押し切りすぐさま外に逃げ出した。
「本当にいい奴らだよなぁ。……絶対に死ぬなよな」
別れ際の三人の顔を思い出し不意に笑みが零れた。
(――――――仲間…だよなぁ。もう)
まさかこの世界の人間とこんなにも親しくなるなんて転移したばかりの頃は微塵も考えていなかった事だろう。
元の世界の友人達も勿論大事だが、いつの間にか彼らの事もそれに引けを取らないくらい大事に思っていた自分に気付き、少し可笑しくなってしまう。
人付き合いとその関係値にやはり時間など関係の無いモノなのだと再認識した。
なんだか妙にこそばゆい気分になってきたので一旦思考を切り替える事に
サニス達と別れた俺は今晩泊れる宿を探していた。だが何故か今日はどこの宿屋も満室で泊まれる場所を中々見つける事が出来ないでいた。
いい加減空き部屋のある宿を探すのにも疲れてきて「…もう野宿でもいいかなぁ」なんて口にだした時――――不意に後ろから声をかけられた。
「――――あの!」
振り返ると、そこには最近行きつけにしているご飯屋さんの美少女店員が立っていた。
「おー、誰かと思った。どうしたの?」
「私は買い出しの途中ですけど…。逆にこんな時間に一人でなにをしてるんですか?」
そう言われて空を見上げる。するともう完全に日は暮れ夜になりかけていた。
レスティアに戻ってきたのが大体三時過ぎだった事から、いつの間にか四時間近くも宿を探し彷徨っていたみたいだ。
「あー…。どこの宿も満室でさ、ずっと宿を探し続けてるんだよ」
「そうなんですかっ。そういえばもうすぐ建国祭ですもんね。多分既に観光の人達が増え始めてるのかもしれないですね…」
「―――建国祭?」
聞き慣れない単語に思わず聞き返す。
「あ、そうか。レイアさんはそういうの疎いって仰ってましたもんね!
建国祭っていうのは言葉そのままの意味で捉えてもらって差し支えないと思います。それでこれが結構な規模のお祭りなので、毎年他の国からもたくさんの観光目的のお客さん達がいらっしゃるんですよ」
(なるほど……祭りか…。言うまでも無く苦手だ。そんな事のせいで俺が野宿をする羽目になるとは……)
――――許すまじ建国祭
なにはともあれ、だったらその祭りとやらが始まる前にさっさとアストラル法国に向かった方が賢明かもしれない。宿が無いのなら街中にいようが外にいようが大して違いは無い。
大きい祭りだというなら当然訪れる人の数もとんでもない事になりそうだし尚更だ。
「そんなのがあるのか。いい迷惑だな…。―――そういう事ならしょうがない、今日はとりあえず野宿で我慢するか…」
誰に言うでも無くそう呟く。そして視点を戻すと、目の前の少女が気まずそうな恥ずかしそうな複雑な表情でこちらを見上げている事に気付いた。
「もしよかったら…。もしよかったらなんですけど!
宿が無いのならうちのお店で寝泊まりしていきますか?小さい部屋なんですけど…。それでも野宿よりはだいぶマシかと……」
それはこちらとしては願っても無い提案だった――――だが……あのお店は言っちゃあなんだが正直かなり小さかった気がする。決して客を泊めれる様な余計な部屋がある様には思えなかった。
「え、いいの?ていうか飯屋なのに客が泊まれる部屋なんかあるの?」
「いえ、本来はそういう用途の部屋では無いんですけど……住み込みで働いてる従業員用のお部屋が一部屋だけあるんですっ」
(そういう事か――――でも…だったら断った方がいいかもしれないな)
従業員用の部屋という事は客を泊める事なんて普通は無いだろうし、そういう特別扱いをされるのもそれはそれで正直ちょっと気まずい。
「そうなのか…。でもそれは悪いし大丈夫だよ」
「悪くないです!レイアさんには御贔屓にしてもらってますし、そんなお客様がこれから野宿をするなんて知ってほっとけません!」
確かに最近はよく足を運んでいたが、それだけでここまでの特別扱いをしてもらってもいいものだろうか。
だがここまで言って貰えると断るのもそれはそれで悪い気がしてくる。
この子が実は俺の事を好きだからこういった特別扱いをしてくれている――――なんて勘違いをする気は毛頭無い。
だとするなら……単純に困ってる常連がいて、お店にもちょうど空いている部屋がある。だから泊めてあげる。
(――――うん。別にそこまで特別な事じゃないのかもしれない)
「そこまで言ってくれるなら……じゃあ今日だけお邪魔させてもらっていいかな」
「はい!じゃあ付いてきてください!」
心無しか嬉しそうにも見える彼女の後ろをついてしばらく歩いて行くと、すぐに見慣れたお店の前についた。
今日では無く明日の為の買い出しだったのか、既に店の明かりはついていなかった。ただでさえ人通りの少ない場所にある質素な見た目の店だ。夜で明かりも点いていないとその場所は若干不気味にすら見えた。
(ここに一人で寝るのか…。まぁいいか野宿よりはマシだろ)
到底泊めてもらう立場の態度では無いそんな失礼な事を考えながら、彼女の後を追い店内へと入る。
「じゃあ今日はここで寝てください!」
彼女は手際良く買い出しした物を全てしまい込み、すぐに俺を奥の部屋へと案内してくれた。
案内された部屋は意外にも綺麗に片付いていた。てっきりしばらく使っていない部屋だと思っていた為色々な物が散乱でもしているのかと思っていた。
部屋自体は思っていた通り狭かったがちゃんとベッドもあり寝泊まりする分には何の問題も無さそうだった。
「ありがとう。ごめんねこんな遅くまで」
「気にしないでください!じゃあ布団持ってきますね!」
(――――――布団……?why?何故?)
立派とは言えないまでもこの部屋にはちゃんとしたベッドが存在している。このベッドは使ってはいけないモノだったりするのだろうか。
(まさか―――呪われたベッドだったりする…のか?)
そんなわけも無いのだが、そんなくだらないifを想像してしまうぐらい理由が検討もつかなかった。
よくわからなかったがなんだか文句を言ってるみたいになるのもイヤだった為、特に何も言わずに部屋で待っている事に。
やがて彼女が布団を持って戻ってくる。そして手際良くその布団を床に敷くと――――こう言った。
「じゃあ――私は布団で寝るのでレイアさんはベッドで寝てください!」




