はぁ...行ってみるか
三人は複雑な面持ちで磔にされ動けなくなっているグロウウルフを見つめていた。
何故複雑な面持ちなのか、それはその磔にされている魔物が決して弱い魔物などでは無かったからだ。並みの冒険者程度なら手も足も出せずにその鋭い牙と爪の餌食となっている事だろうし、世間一般で「ベテラン」と言われている冒険者や一流の戦士が相手でもここまで惨めな姿を晒す事はまず無い筈なのだ。
「グロウウルフって結構強い魔物な筈なんだけどな…」
そうぼやいているアスロの隣でサニスは一人葛藤していた。
「いいのか?こんなズルみたいな事してレベル上げていいのか?俺!」
「どんな葛藤だよ…。強くなるのに手段なんか選んでたら……いつか絶対に後悔するぞ?」
サニスにそう助言した時、俺は自分が無意識にスカスカになっている左腕部分の服を握りしめていた事に気付いた。
――――俺は後悔していた。だから彼らにはそんな思いを絶対にして欲しくない。
(そんなのはただの俺のエゴなのかもしれないけどな)
「私はいいと思う!今はレイアさんの方が強いから助けて貰う。それで!いつか私達が強くなったら次は私達がレイアさんを助ける!それが仲間だと思う」
そんなリーナちゃんの言葉を聞いてようやく二人も覚悟を決めた様だった。
「そうだねリーナ。今は人の力を借りてでも強くなる時かもしれないね」
「――――これは借りにしとくからな!いつかお前が本当に困った時は俺が絶対に助けてやるから!」
指をこちらにビシッっと向けて何故か偉そうにしているサニス。何故偉そうなのかは一ミリもわからなかったが、その顔は――――とてもいい顔に思えた。なんだか眩しく感じた。
彼らは絶対に強くなる。その時恐らくもう俺はこの世界からいなくなっているかもしれない。だがそれでも彼らが立派な冒険者となって幸せになってくれているのならそれで十分な様に思えた。
改めて自分の中での彼らの存在の大きさに驚かされる。
あの頃は元の世界に戻る事しか考えて無くて全く気付けていなかったが……俺の居場所はあったんだ
確かに――――ここに
「あぁ、その時は頼むな。……でもその前にさ、早くこいつ楽にしてやった方がいいんじゃないか?」
そう言うと三人は思い出したかの様にグロウウルフの方を見やった。するとそこには弱りきって軽く痙攣までしているグロウウルフが寝転がっていた。
無理もない、全ての足を氷柱で貫かれていて苦しくない筈が無いのだ。
「……魔物を可哀そうだと思ったのは初めてかもしれないな…」
「だな…。じゃあここは俺がパパっと止めを刺すぜ!」
そう言ってグロウウルフに斬りかかるサニス。だがやはりレベルが低いせいだろうか、斬っても表面に軽く傷がつくだけでなかなか致命傷を与えられない。
このままでは無駄に体力を消耗するだけだろうし、サニスに助け舟を出してやる事にした。
(―――グロウウルフの方も拷問されてるみたいで可哀そうだしな…)
「サニス。ちょっとその武器貸してみ」
サニスから剣を受け取り、その剣に軽く魔力を付与する。淡い光を放つ剣をまじまじと見つめるサニス。
「これは……?なんで光ってんだ?この剣」
「まぁいいからもっかい斬ってみろよ」
そして再度サニスがグロウウルフを斬るつけると、今度はバターの様にグロウウルフの身体が真っ二つになる。
「おおおおおおおおおおっ!なんだこりゃぁあああ!」
自分で施しておいてなんだが…驚いた。付与する前と後での見比べなどした事無かったし、軽くしか魔力を付与していないのにここまでの効果があるとは正直思っていなかった。
(こんなに違うのなら剣士は確実に覚えた方がいいスキルだな……)
「サニスは魔力付与出来ないのか?」
「出来るわけねぇだろ!そんな高等技術使える剣士なんかほんの一握りだわ!」
(そうだったのか。イメージ的に初期スキルの様な感じだと思っていた)
「基本的に剣士とか格闘家の人達は魔力の操作自体が苦手ですからね…。剣技と魔力コントロールを両立するのはとっても難しい事だと聞きます」
そこにリーナちゃんの優しい解説が入った。魔法の事に関してこの中で一番詳しいのは間違いなく彼女だ。だからそんな彼女が言うのなら恐らくそういう事なのだろう。
「そうなのか。でも絶対にあった方がいいと思うから頑張って習得しろよサニス」
「―――たしかに…。ここまでの効果を見せつけられると覚えたくもなるぜ…」
それからしばらくの間、今と同じ様な感じで三時間程グロウウルフを狩り続けた俺達。
そして陽の色が黄色からオレンジに変わり始めた頃、気付くと三人のレベルは無事40を超えていた。
「いやー、レイア様様って感じだな!」
「本当に助かったよありがとう。恩が積み重なり過ぎてとても返せる気がしないよ…」
「本当ですね…」
最初こそ一番抵抗を見せていた様に思えたサニスだったが、今では一番喜んでいる様に見えた。
だが当然レベルが上がって嫌な気持ちになる者などいないだろうし、それは至って自然な反応なのだろう。
「だから気にしなくていいって。別に俺にはなんの損も無いしな。暇だったし」
そんな風には言っても実際はやる事は沢山あった。だがこのレベリング自体もそのやる事の内の一つだった為特に問題は無い。
(それに――――みんなにはちょっと聞きたい事もあったしな)
「ちょっと聞きたいんだけどさ。失った腕を治せる様な魔法って無いのか?」
そんな質問を投げかけると、途端に表情が暗くなる面々。恐らくまた余計な気遣いをしているのだろう。
(いい奴ら過ぎて逆にめんどくさいわ!)
「いや別に大して不便は無いからそこまで気にしてないんだけどさ。それでも治す手段があるなら治しとこうかなーってちょっと思っただけなんだけど」
「わりーけど俺はそうゆうのは全然わかんねぇな」
「僕も僧侶系の魔法の事は詳しくないんだ。ごめんね役に立てなくて…」
申し訳なさそうに俯いてしまう男性陣。本当にそんないちいち気にしなくていいのだがこんな反応をされてしまうとこちらも何故か申し訳なくなる。
だが確かに彼らの気持ちもわからんではなかった。ただでさえ助けられてばかりなのに有益な情報の一つも与えられない自分自身に何か歯がゆさの様なモノを感じているのかも知れない。
するとリーナちゃんが何かを思い出したかの様にバッと顔を上げた。
「――――そういえば!ヒール系の最上位の魔法でどんな怪我でも一瞬で治せる魔法があるって聞いた事があります!」
「ほんとに?なんて魔法かわかったりする?」
「ごめんなさい名前まではわからないです…。それに使える人がいるのかどうかも…」
一転して暗い表情になってしまうリーナちゃん。だが正直この情報はかなり有益だった、そういう魔法が存在する可能性があるってだけでもだいぶモチベーションが上がる。
「気にし過ぎだって…。でもその情報は助かった、ありがとう」
「んー…。――あ!もし使える人がいるとしたらアストラル法国の可能性が高いと思いますよ!なんてったってあそこは僧侶の総本山ですから」
アストラル法国―――それは確か帝国とは反対の方角にある大国
元の世界にいた頃から信仰心の欠片も持っていなかった俺が馴染めるわけなど無いのだろうが、腕を治せる可能性が少しでもあると言うのなら行く以外の選択肢は無かった。
――――行ってみるか。アストラル法国




