はぁ...よかったよかった
「ガルルルルルルルゥッ!!」
山岳地帯に入ってすぐの事だった。俺達一行は灰色の様な毛色をした全長三メートル程の体躯をした狼の群れに囲まれていた。
数はどう少なく見積もっても十体以上はおり、もし一般人や駆け出しの冒険者がこの状況に陥ったならばどう考えても未来は一つ―――「死」だった。
獲物を見つけた獣達の眼光はこれ以上に無いと言う程ぎらついており、ご馳走を前に口から溢れ出ている涎は見る者を更なる恐怖へと誘う――――筈だった。
(おかしいな…。どうしてこいつらはこんなに好戦的なんだ?
クレナの森の魔物達は全然襲いかかってこなかったのに…)
そんな目の前の獣達の威嚇などまるで意に介さないかの様に、俺は一人呑気に考え事をしていた。
どう考えても目の前のこいつらがあの森の魔物達よりも強いとは思えなかったのだ。もしかしてなにか勝てる見込みでもあるのかも知れない、そんな一抹の不安が過る。
(一応少しだけ警戒した方がいいかもしれないな)
「キャァアアアアアアア!やばいですやばいですよ!死んじゃうよこんなのー!」
「どうしていきなりこんな数の……」
(まずリーナちゃんは一旦落ち着こ……)
だが無理も無いのかもしれない。本来だったら一体が相手でも勝てない様な相手が十体も現れ更には取り囲まれているのだ。取り乱すなと言う方が無茶かもしれない。
彼女の様子はだいぶ動転している様で、隣に俺がいるって事も忘れていそうだった。
「どうするレイア…。俺が突っ込んでお前が援護の方が勝算あるか?」
そんな中、意外にもサニスは冷静だった。ダラダラと汗が滴っている事からも恐らくビビってはいるのだろうが、それを必死に表に出さない様にしていた。
本能的に相手に弱味を見せてはいけないという事を理解しているのかもしれない。
(―――ちょっと主人公っぽいじゃねぇかこいつ…)
「いや何もしなくていい。本当は俺が足止めしてお前らにとどめを刺させようと思ってたけど流石にこの数じゃそんな事言ってられないし―――とりあえずここは俺が片づけるわ」
可能性は低いかもしれないが、この狼たちが何か秘策を隠している可能性もある。
こんな近場の山岳地帯に自分よりも強い魔物がいるとは到底思えなかったが、相手は俺の全く知らない未知の魔物―――少しだけ本気で行く事にした。
万が一の為にサニスたちの周りに土の壁を具現化し彼らを囲んでおく。
彼らの姿が土の壁で完全に隠れたのを確認する、そして剣と足に魔力付与を施し駆け出す。
自らの視界すら霞む程の速度で最後尾の狼の後ろへと回り込む。
「―――――――……」
だが……おかしい、すぐ傍まで来たというのに奴等は何の反応も示さなかった。
―――罠か?そんな考えが過るがとりあえずはアクションを起こしてみない事には何も始まらない。俺は最後尾にいた狼に向かい横薙ぎを一閃。何の抵抗も無く真っ二つになり崩れ落ちる狼。そしてその後だいぶ遅れてから聞こえてくる周りの狼達の彷徨。
「――――――ん?」
(もしかして……反応出来てなかっただけ?単に俺の速さに目が追い付いていないだけなのか?)
安直にそんな考えが過るが油断は出来ない。一人ならまだしも今回はサニス達もいるのだ。もし自分が負けてしまった場合、残された彼らがその後どのような末路を迎えるかは想像に容易い。
念押しの為にもう一匹同じ様に殺してみる。
そしてまた――――あっけなく崩れ落ちる狼
(……え、弱くない?)
その時、俺の頭の中に一つの可能性が浮上した。それはとても単純ですぐに思いつきそうな可能性だったが何故か思いつかなかったモノ。
俺の中での魔物のイメージはやはりクレナードの森の魔物達で定着してしまっていたのかもしれない。
更に要因を挙げるとするならば道中でアスロに重々警戒する様に言われていた事も関係していたのかもしれないが。
(もしかしてこいつら……弱すぎて俺の強さがわからなかっただけ…?)
そして恐らくその考えは正しい。奴等には何も秘策など無くただただ目の前の獲物の強さを計りかねていただけだったのだ。
その証拠に仲間を二体も殺されたというのに奴等はなんのアクションも起こしていない。勝てる算段があるというなら流石にそろそろ行動に移していなければおかしい。
そうとわかった後はただの一方的な暴力でしかなかった。こちらの速さに全くついてこれないまま何の反応も出来ずに斬り殺されていく狼達。
「なんだよくだらねぇ…。少しでも警戒してた俺が馬鹿みたいだ…」
そんな独り言が漏れてしまうのも無理がなかった。誰かを守りながら戦うなんて経験当然あるわけも無く、変に緊張していた己が滑稽に思えたからだ。
そしてすぐに全ての狼を斬り殺し、サニス達を守っていた魔法を解く
「――――特に問題もなく終わったわ」
毎度の事ながら三人は唖然として辺りを見渡す
「レイア、お前まじですげぇんだな……」
「正直……あの数はレイアでもやばいのかと思ってたよ」
「――――……」
(いやいやそれは流石に舐めすぎよ。こんなのただの動物の延長だし)
実際もっと恐ろしい魔物達を山ほど見てきた俺にとっては、本当に少し大きいだけの狼にしか思えなかった。
だが久しぶりに浴びるリーナちゃんの尊敬の眼差しはとても気持ちの良いモノだった。
(なるほどな。弱すぎる魔物には互いのレベル差とかもわからないのか。だったらこれから先のクエストとかもしばらくは問題無さそうだな)
――――――よかったよかった




