はぁ...黒歴史
「レイアさーん!こっちこっち」
「おうレイア! 緊急クエストはどうだった?」
「お疲れ様!」
ギルドの一階部分に降りてすぐ、近くのテーブル席で談笑していたチーム・サニスの面々と合流した。
時刻は夕刻前、少し汚れの目立つ彼らの身なりから察するに恐らくクエスト帰りの一服といったところだろう。
(別に素直に言っていいんだよな…?隠す必要無いよな…)
「特に問題なく終わったよ。無事ランクも上がったしお金も貰えて満足ですわ」
「結局クエストの内容はなんだったんですか?」
「ワイバーンの討伐クエスト」
「わ、ワイバーン!?ワイバーンてあの飛竜のですか!?」
「う、うん。多分そのワイバーンだと思うけど……」
身を乗り出し確認してくるリーナちゃんのあまりの勢いに若干気圧されながら答える。そんなに驚く事なのか?とも思ったがそこで思い出す。
彼らの中での俺はただ少し強いスキルを持っているだけの駆け出し冒険者なのだ。そんな駆け出しがワイバーンを倒しただなんて話は到底信じられるモノでは無いだろう
見知らぬ者達から疑いの目を向けられる事は覚悟していた。だが彼らにも疑われる可能性がある事を完全に失念していた。
その他大勢の知らない奴等に疑われるくらいなら然程気にもならないが、もし彼らにも疑われてしまい距離を置かれる様な事になったら流石に少し傷付いてしまいそうだ。
「まじかよレイア!お前ワイバーンなんか倒せたのかよ!?」
「相変わらず凄すぎますよレイアさん……」
「て事は一気にCランクぐらいまで上がったんじゃないのかい?」
だがそんなこちらの不安などよそに彼らは疑いの言葉など一切上げず、ただただ素直に賞賛をしてくれる。
そんな彼らの純粋さに正直救われた様な気分になった。
「いや、なんだか知らんがAランクにしてくれた」
そう告げると一瞬の沈黙の後、辺りは一変喧騒に包まれた。
「Aぇぇえええええええ!?まじかよ!」
「前代未聞の飛び級だな……。でも――確かワイバーンの討伐はBランクのクエストだった筈……。そのクエストでどうしてAランクに…」
「きっと凄い倒し方をしたんでしょ?レイアさんの事だから!」
サニス達は言うまでも無く驚いていたが、聞き耳でも立てていたのか周りの冒険者達まで途端にざわざわとしだした。
「あー……、なんか知らんがワイバーンが四体いたからじゃないか?ギルドマスターもあのレベルの魔物の複数討伐は結構難しいって言ってたし」
唖然とした表情でこちらを見つめるチーム・サニスの面々
「―――ん?」
「ワイバーンを四体って……本当ですか…?」
「本当だけど……。どうかしたの…?」
再び静まり返る周囲。そして―――次の瞬間、堰を切った様に飛んでくる様々な言葉
「ったりめぇだろ馬鹿!ワイバーンを四体同時に倒せる奴なんて聞いた事ねぇぞ!」
「流石に僕の想像を超えてるよレイア…」
「やっぱりレイアさんはスゴイ人だったんですね……!」
怒涛の勢いで飛んでくる驚愕と賞賛の嵐、毎度毎度新鮮な反応を見せてくれる彼らに自分の口角がいつの間にか少し上がっていた事に気付いた。
(可愛い奴らだよ。本当に)
だが今回の一件は自分で思っていたよりも遥かに凄い偉業の様だ。こちらからすれば本当に一瞬の事だったし実感は一ミリも無いのだが、周りの反応を見るにずれているのは間違いなく自分の方の様だし色々とずれてしまっている自分の感覚を早く戻さなくてはならないなと再認識させられた。
そんな感じでしばらくの間騒がしかったチーム・サニスの様子を眺め、平和だなぁ……。なんて思っていると、後ろの方から何者かが近づいて来る気配がした。
「――――なに?」
「――ッ!」
後ろ向きのまま声をかけ振り返る。まさか気付かれているとは思っていなかったのだろう、そこには驚いた様な表情でこちらを睨みつける強面の冒険者が立っていた。
(そんな恐い顔して、いったい何をする気だったのやら…)
「……どうしてわかった?」
「なんとなく」
辺りを軽く見渡してみると、見るからにガラの悪そうな連中が数人俺を取り囲む様に半円状に集まっていた。
「さっきワイバーンを四体倒したとか抜かしてたよな。てめぇみてーなガキにんな事が出来るわきゃねぇ、どんなズルをしたんだ?」
「そうだそうだ。どうせ瀕死の所に止めをさしただけで、倒しましたー!とか言ってんだろ?そんなズルを見逃すわけにはいかねぇなぁ」
「それかあれか?てめーもしかしてギルドマスターの親戚かなんかか?」
矢継ぎ早に飛んでくるイチャモンの数々、予想はしていたがここまで早く来るとは思っていなかった。冒険者という人種のプライドの高さを少しばかり見誤っていたのかもしれない。
そもそも少し考えればわかりそうな事だがあのサウロという男がそんなくだらぬ贔屓をする様な男に見えるのだろうか。
「なに言ってやがる!レイアがんな事するわけねぇだろうが!」
「そうですよ!!レイアさんはズルなんかする人じゃありません!」
後ろから『仲間』達の俺を擁護する言葉が飛んでくる
(仲間がいるってこんなにも心強いモノだったんだな)
だがこのままじゃ真実はどうあれチーム・サニスまで嘘つきPTだと思われてしまうかもしれない。
つい最近揉め事を起こしたばかりだし、出来れば穏便に済ませたかったのだが目の前の男達の表情を見るにそれはどうも難しい様に思えた。
(サウロには許可も貰ってる事だし……やるしか無いか)
そう思い一歩踏み出そうとした時だった。
「――――やめろ!」
ギルドの入り口の方から聞こえたその大声に、死神の鎌は振り下ろされる途中で止められた。
誰もが声のした方へと振り返る――――と、そこには一人の青年が立っていた。
(……ん?どっかで見た事ある様な……)
「あいつは…、最近頭角を現してきたっていうCランクのラッシュじゃねーか?」
「あー、そんな奴もいたなぁ。で、そのラッシュさんが何の用だ?」
目の前の強面達はあの男の事を知っている様子だった。だが肝心の俺にはCランクのラッシュと言われても微塵もピンと来ていなかった。
「俺も彼と同じくワイバーンの討伐クエストに参加していた!そして――そこの彼に命を救ってもらったんだ!誓って彼は嘘などついていない!」
その言葉でようやくピースが上手く埋まった。あれはあのクエストの時に隅の方で一人泣いていたあの男だ。
(あの時は涙やら鼻水やらで酷い顔をしてたからな…)
だが今の姿はとても爽やかで「THE・好青年」といった感じの顔をしていた。あまりのギャップに気付けなかった。
だが証人が現れたと言っても彼もただのCランク冒険者、そんな威厳も何も無い男が突然現れ容疑者の肩を持った所で状況が好転するわけも無く
「…んだ?そりゃ。お前も共犯って事か?」
「――っな!ち、違う!」
「雑魚と雑魚が群れて小細工してんじゃねーぞ。あんまごちゃごちゃうっせーとお前もやっちまうぞ?」
少しは話が好転するかと思ったが、なんなら悪化した様にも思えた。あの突然現れた男に対し好意など微塵も無かったが一応は自分を庇ってくれている様子。そんな男に奴等のヘイトが向くのは少しばかり癪に感じた。
(――――流石にそろそろ不快だしとりあえず黙らせるか)
「あーうるさい。じゃあちょっと遊んでやろうか?」
一度は運良く止められた死神の鎌が再び大きく振り上げられている事に弱者達は気付けない。
舐め腐っていた若造にそう言われた強面達は腹を抱えて笑い出す。
「手合わせぇー!?てめーがか!?」
「ぎゃははは!腹いてぇ!頭おかしいぞこのガキ。俺らがBランクの冒険者様だってわかってねーみてーだ!」
(何を言ってるんだこいつらは……。そんなお前らが喧嘩を売ってる相手はAランクの冒険者様なんだが……)
『Bランク』それは高位冒険者に近き存在。頂きに手をかけようとしているそんな位に位置する者達がこんなのでいいのか。ギルドの運営方針に対しそんな疑念を抱かざるを得なかった。
(……なんだかまともに相手するのもめんどくさいな)
つい今しがた自分の事をBランクだと紹介してくれた男の首を鷲掴みする。男の首はとても太く、自分の手では半分までも届かなかったがそんなモノは力によるゴリ押しでなんとでもなる。
そしてそのまま男の身体を宙に浮かせ……振り回した。
――――いや、ほんとに文字通り振り回した。そりゃもうタオルの様に
そのBランクのタオルにぶつかった先から倒れていく他の強面達。
周りを取り囲んでいた男達が全員倒れた事を確認し、掴んでいた手を離すとタオルは白目をむき泡を吹いていた。
やがて――――静寂がその場を包んだ
冒険者ギルド――そこは荒くれ者達のたまり場。素行の悪い者や街の力自慢、そんな者達が集まるこの場所では日々絶えず争い事が起きていた。
だが……今まで起きた数々の揉め事の中でも今日起きた争いは、過去一見栄えの悪い争いだった。
今日見た滑稽な諍いの顛末を観衆が忘れる事はないだろう。
一人一人相手にするのが面倒くさかったとはいえ、もう少しまともな黙らせ方があったのではないだろうか。
これからしばらくの間そんな自問自答を繰り返す事になるなんて。
イライラしていたこの時の俺はまだ――――知らなかった




