はぁ...イージー
ワイバーンを討伐した日から三日程経った頃、俺は再び冒険者ギルドへと来ていた。
「おうレイアこっちだ!」
ギルドに入ってすぐ、二階の方から声をかけてきたガタイのいい強面の男。見るからに脳筋でとてもじゃないが頭を使う仕事が出来る様には見えない彼の名はサウロ―――この冒険者ギルドのギルドマスター。
傍から見ればただの一介の新人でしか無いGランクの冒険者がギルドマスターから名指しで呼ばれているこの状況はイヤでも目立ってしまっていた。
「また絡まれたらどうすんだよ……」
辺りの視線を気にしながらサウロの方へ向かっていると、途中美人受付嬢のユーリさんが心配そうな顔をしてこちらの様子を窺っている事に気付いた。
彼女がなんの心配をしているのかはわからなかったが別に怒られるわけでは無いだろうしそこまで心配しなくてもいいのに……なんて思うが、きっともうユーリさんの中での俺のイメージは問題児として認定されてしまっているのかもしれない。
「よく来たな!ついさっき討伐隊の奴らが戻って来たぞ!」
「そりゃよかった。で?確認は取れた?」
「そこは問題なく取れた。だが―――ワイバーンが複数いたなんて驚いたぞ。なんで言わなかった?」
「いやそもそもクエストの内容をよく知らなかったしな…。とりあえずあの場にいたヤツ全部が討伐対象だと思ったんだが……違ったのか?」
そう言うとサウロは呆れた様な表情を浮かべた。
「ったりめーだろうが…。元々のクエスト内容はワイバーン一体の討伐だったんだよ。五体のワイバーンがいるなんてわかってたらAランク以上の冒険者だけで行かせてたに決まってる」
そんなサウロの発言に多少ではあったが驚きを感じた。あの程度の魔物の数が一体から四体に増えただけでそこまで難度が上がるとは夢にも思っていなかった。
「数が少し増えるだけでそんなに難易度上がるもんなのか?たかだ四、五体だろ?」
「あのレベルの魔物になると一体増えるだけでもだいぶ大変なんだがな…。まぁお前が色々と規格外な事はわかった……」
(そういうもんなのか…。だとすると今回の件は思いの外目立ってしまう事案だったのかもしれない)
冷静に考えると確かに適性レベルのクエストだとしたらあんなに死体が転がっているわけが無いのだ。
あの時はワイバーンがまだ生きていた事に安堵していて他の事を全然考えていなかったから気付かなかった。
「別に普通だと思うけどな。で?ランクアップは出来そうか?」
「……どんな普通だどんな。あーそっちの方は問題無い。だが……ワイバーン四体の討伐は中々の功績になる。先程サブマスターとも話したんだが、お前は今日からAランク冒険者として登録する事になったぞ」
(――――A?本気か?流石に飛び過ぎでは?)
「本気か……?上げてくれる分には俺の方は何の問題も無いけど…。流石にそんなの異例だろ?周りの意見とか大丈夫なのか?」
勿論自分の力ではAランク冒険者として実力不足。なんて考えは一切無い。
むしろ今回の件で冒険者という職業に対し若干の疑問を抱いている俺はSでもSSでも自分よりだいぶ下なのではないかとすら思っていた。
だが問題はそこでは無くギルドの評判の方だった。色々とコンタクトを取り合っている俺とサウロが全くの他人同士と思っている者は恐らく少ないだろう。
そんな俺が飛び級でAランクになったなんて聞いて、他の冒険者達はその事を一体どう思うだろうか。
お互いに今まであまり見せた事の無い様な真剣な顔で話し合う二人
「まぁ確かにとんでもない異例だ...これは。最低ランクの冒険者がいきなりAランクなんておかしな話だし今まで真面目にコツコツやってきた連中からしたら当然ふざけんなって話だ。だが――ギルドとしてはお前程の強者にゴブリン狩りなんかさせてる方がよっぽど損だからな。
それに……周りの不満や文句の行先はギルドじゃなくてお前本人だろうしな」
途中までの真剣な顔をしていた威厳ある男の姿はすでに無く、最後にそこにいたのは憎たらしい笑みでこちらを見やる馬鹿だけだった。
(――おいこのおっさんふざけんなよ…。因縁吹っ掛けられるのは俺だから別にいいってか?いい性格してんじゃねーかこいつ…)
「ふざけてんな…。まぁ別にいいけどな。でも絡んできた奴等の無事までは保証しないからな」
「構わねーよ、そもそもまともな奴等はそんなイチャモンをつけないだろうしな。本当に強い奴等はワイバーン複数討伐の難易度もわかる筈だし、お前にならそれが出来るであろう事もわかる筈。特に文句を言ったりもしないだろう」
「なるほどな、じゃあとにかく俺は今日からAランク冒険者って名乗っていいんだな?――――それじゃあ話が終わりなら俺はもう行くよ」
そう言い席を立とうとするとサウロに急ぎ引き留められた。
「おい馬鹿!まだ報酬渡してないだろうが!」
(……完全に忘れてた。そうか報酬なんてのもあるんだったな)
今まではただ生きる為と経験値の為にしか魔物を倒してこなかった為に報酬なんて概念は頭の中から完全に消え去っていた。
(冷静に考えるとさ……魔物を倒してお金貰えるとか最高過ぎないか?)
前々から思ってはいたのだが何故かこの世界での俺は本当にお金に対して執着が無い。 元々いた世界でもそこまでお金にうるさい方では無かったが、こちらにに来てからの無頓着さは少し異常な様に思う。
これは恐らく―――心の奥底の方でこの世界で生きていくつもりなど無い。と思ってしまっているからなのかもしれないが。
「いや完全に忘れてたわ…」
「そこらへんのゴブリンの討伐報酬とかならまだしも、ワイバーン討伐の報酬を忘れるなんてSSSランクでもしないぞ……」
サウロの口ぶりから察するならワイバーンの討伐報酬は中々に大きな額になるのかもしれない。
かかった手間を考えるなら決して高価な対価が貰える様な任務では無かった様に思えたが、それも度々起こっている自身と周りの認識のズレによるモノなのだろう。
「今回の報酬は金貨4枚だ。素材とかがあればもっと高かったんだが、お前が跡形も無く燃やしてしまったみたいだからそれは諦めろ」
「……ん?―――金貨!?」
初めて聞いたと言っても過言ではないくらい今までの自分とは縁遠い単語だった、あまりの驚きについ聞き返してしまう。
銀貨が100枚で金貨1枚―――つまりわかりやすく言うならもう今回の報酬だけで俺は一年以上働かずに済むという事だ。
(やばいな冒険者…。なんてイージーな仕事なんだ…)
「そんなに驚く事か?当たり前の報酬だぞ。――――ほら、持ってけ」
「お、おう。――――じゃあ…行くわ…」
金貨を受け取りそそくさとギルドマスターの部屋を出る。らしくもなく思いっきり動揺を表に出してしまった。
手にした事の無い大金に緊張しつつ、誰にも取られる事の無い様にしっかりとポケットの中で握りしめる。
(いやー、思わずビックリしてしまったがラッキーだった……ランクもAになったしお金もたんまり貰えた――――最高のクエストだったな)
――――どうしてみんなワイバーン狩らないんだろ




