はぁ...やり過ぎた?
――――急げ!――――急げ!
(わざわざこんな遠くまで来たのに着いたら終わってましたー。なんて馬鹿らし過ぎる…!今こそ出し惜しみしてる場合じゃない。飛ぶぞ!俺は!)
誰に言っているのかもわからない言い訳を頭の中で叫び、俺はとりあえず飛んだ。
そもそもD級ダンジョンとは?そしてそれはどこにあるのか?様々な疑問があったが今はともかくサウロに言われた方角へ向けて飛ぶしか無かった。
そして、もう一時間程飛んでいるがそれらしき物はまだ見つかっていなかった。
「―――いや待てよ、あれじゃないか?」
少し前方の地面に『D級ダンジョン』と書かれた大きな旗を見つけた。そしてその姿は以前自分がいた世界での『名産お土産』の様で妙な既視感を抱かせた。
「なんだありゃ――――ロマンもクソも無いな…」
実際ダンジョンを見た事の無い自分でも発見出来たし、あの場所にD級ダンジョンがあるであろう事は一目でわかった為、助かったには助かったのだが……それでもあれはどうなんだ?という疑問が残ってしまう。
そんなどこにぶつければいいのかもわからない不満を一旦飲み込み、とりあえず一旦地面に降りてキャンプ場らしき場所まで走る。
するとそこにはギルドの受付嬢とよく似た格好をした女性がいたので声をかけてみる事に。
「すいません!ワイバーンの討伐クエストで来たんですけど!……もしかしてもう終わっちゃいましたか…?」
「え、えーっと……随分遅い到着ですね…。他の冒険者の方々は二時間程前に出発されましたよ?」
二日も前に出立した先行隊と僅か二時間遅れで到着したのだ。飛行魔法の偉大さに感謝するべき場面であったのだが遅れは遅れ、焦りは消えないしその焦りは正しい物である筈。
(なにぃぃいいいいい!?まずい!本格的にまずい!)
「どの方角に行けばいいですか!?」
受付嬢に大体のポイントだけ教えて貰い俺はひたすらにダッシュした。
帝国に行く前に俺はゆとりだから全力疾走なんかしませんよーとかほざいてた頃の自分をぶん殴ってやりたい。
そしてこんな状況に陥ったからこそ気付けた事が一つあった。
(――――身体能力向上LV8やばい!)
旅の途中に初めて自分でステータスを開いた後、自分の力量を把握する為に走った時もその異常なまでの速さに驚いたのを覚えている。
だが今の速さはーーー次元が違った。今の自分はもはや光なんじゃないか?周りから視認されていないんじゃないのか?
そんな事を考えてしまうぐらいにただただ速かった。
そんな事を考えながら走っていると―――不意にナニカが聞こえた様な気がした。
「てくれぇぇぇぇ…」
(――――てくれ?聞いた事の無い響きですね。だがまぁとりあえずは人の声の様だし行ってみるか。もしかしたら冒険者の声かもしれないしな)
正直な話、今のナニカは冒険者の断末魔であって欲しい…なんて下衆な考えを持ってしまう。
追い付いた時にワイバーンの方が殺されているくらいならば冒険者達の方が全員殺されていた方が俺にとっては断然都合がいいからだ。
顔も名前も知らない冒険者がどんな末路を迎えようが俺にはなんの関係も無い。そんな事よりも今はクエストの方が100倍大事なのだ。
声のした方に向かって走っていると、やがて空に浮かんでいる小さなドラゴンが見えた。
「――――おぉぉぉぉおおおお!!あれ絶対ワイバーンだろ!」
そのご健在な姿を見て、俺は心底安堵した。
憎まれこそすれ、生きている事を喜ばれた事など長い魔物の寿命の中でも一度たりとも無かった経験だろう。
あと少しで殺してやるから死ぬなよ!そんな矛盾した願いを持ちつつ全力で近付いていく。すると―――
そこには中々に凄惨な光景が広がっていた。
頭部が丸々無い者もいれば背中が大きく裂けている者もいた。そして至る所に無造作に死体が転がっていた。
魔物の血肉や死体なら腐る程目にしてきた俺だったが、人の死体をーーーそれもこれ程までの数をなんて当然見たことは無かった。
少々えずきそうになりながらもなんとか堪える。
堪えられた要因の一つとして、己にとって嬉しい誤算があった事は間違いないだろう。
目の前に雄々しく羽ばたく4匹のワイバーン、そのどれもが殆ど無傷のままだった。
考えうる中で最悪のケースは既に全てのワイバーンが討伐されていた場合。この場合は問答無用でクエストは失敗という事になっていただろうからだ。
そしてもう一つの悪いパターン、正直俺はこの可能性が一番高いかと踏んでいた。それは残されているのが瀕死のワイバーンのみだった場合。これもお世辞にもクエストをクリアしたとは言い難いので昇格させて貰えるかどうかが際どかった。
「――――よかったぁ…。まだ生きてたか」
(安心して思わず心の声が漏れてしまった。というかこれ倒しちゃってもいいんだよね?横取りとかにならないよな…?)
ギルドの規約とかはよくわからないが、獲物を横取りされていい気分になる者はいないだろう。
後から難癖をつけられてもイヤだったので、とりあえず一番近くにいた何故か壁際で泣いていたお兄さんに聞いてみる事に。
「そこのお兄さん?――これって倒しちゃってもいいんだよね?」
「………あ、あぁ!…倒せるんだったら是非倒してくれ…っ!」
どこか縋る様な視線を向けてくるその男を見た感じは、到底横取りだなんて言われなさそうに感じる。だがそれと同時に素朴な疑問が浮かんでくる。
(もしかしてこいつら……あんなのにも勝てないのか?)
目の前でこちらの事を威嚇している鳥類を見やる、その姿からは到底威圧感の様なモノは感じず見るからに弱者の様に思えた。
冒険者達の思わぬ体たらくに多少の不信感を抱きつつも、とりあえずは自分の目的を遂行する事に。
「おっけー」
この程度の相手を一体ずつ相手するなんてそれこそ時間の無駄でしか無い。
俺は百程の炎の槍を具現化させ、それらを四等分しそれぞれのワイバーンへと飛ばした。
――ザザザザザン!ボワッ!
(あ、やべ…ちょっとやり過ぎたか?)
炎の槍が直撃したワイバーン達はあっという間に全身をズタズタに切り裂かれ、最後にはただの燃える肉塊と化した。
一応ドラゴンの仲間という事前情報があった為、少しだけ気合いを入れたのだが―――どうやら少し入れ過ぎてしまったのかもしれない。
身体はほとんど焼失しており、辺りには肉の焦げた匂いと血の蒸発した様な独特な匂いが漂っていた。
(いいんだよなこれ…別に素材採集クエストとかじゃ無いよな…このクエスト…)
「ねぇお兄さん…。これって大丈夫だよね?クエストクリアになるよね…?」
少し不安になってきたのでさっきの泣いていたお兄さんにそう聞くと、唖然とした表情のお兄さんがロボットの様なカクついた動きで顔をこちらへ向け、頷いた。
「そっかそっか!よかったぁ!――――じゃあ俺先帰るから」
お兄さんは相変わらずのロボットの様な動きで頷いて俺を見送ってくれた。
――――あの程度の魔物でBランクか……
こりゃ思ったよりもずっとレベルが低いぞ冒険者……
なんだか冒険者業を続ける意味があるのかどうか、疑問だけが残った微妙なクエストだった




