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世捨て魔王  作者: R氏
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はぁ...まさかの



「あ、え?――――あ、はい?」


 壊れた人形の様に首をカクカクさせながら曖昧な返事をするユーリさん。

 恐らくこの場にいる誰も今目の前で起きた事象に対しての理解が追い付いていないのだろう、受付嬢だけで無く周りの冒険者達も依然として沈黙を貫いていた。

 『冒険者ギルド』なんていうくらいだから冒険者同士の喧嘩など日常茶飯事なのかと思っていたが、案外そういうわけでもないのかもしれない。


「クエストの話ですよ……なにかすぐにランクが上がる様なクエストありますか?」


「あ、クエスト!…んー…」


 ようやく本来の業務を思い出したユーリさんだったが、改めてこちらの要望を聞くと困ったように頭を傾げた。 


 (やはりそんな都合のいいクエストなんて無いのか?なんだかユーリさんを振り回しているみたいで申し訳なくなってきたな)


 やはり地道に薬草を集めたりゴブリンを倒していくしかないのかもしれない。そう思い始め諦めようとした時だった。


「おい、なんの騒ぎだ」


 今の今まで存在している事にも気付いていなかったギルドの二階部分、そこからレスラーの様なごついガタイをした顔に傷のある渋めの強面が降りてきた。


(あれは―――サウロ…?)


 あの明らかな強者然としているあの風格。忘れる筈も無い俺がこのギルドに初めて来た時に一番最初に話したあの男だ。


「ギルドマスター!」


 彼の登場と同時に聞き慣れない単語がユーリさんの口から飛び出した。

 冒険者ギルドなのだからギルドマスターがいるのは当然の事だろう。だがまさかあのサウロがそのギルマス様だとは正直微塵も思っていなかった。


「おうユーリ、さっきのはなんの騒ぎだ。――――なんだか異様な空気だが…」


「――それが…」


 ユーリさんがサウロの元へと駆け寄りなにかしら耳打ちをしている。単に今起きた出来事の事情説明をしているだけなのだろうが、なんだか告げ口をされている様な気分がして居心地が悪かった。


 (俺悪い事してないし大丈夫だよな…。俺絡まれた側だし…)


 やがて話が終わったのかサウロが俺の方を見て口を開く。


「おう坊主。ちょっと上まで来て貰おうか」


 先程までの楽観的な憶測は一瞬で打ち砕かれる事となった。

 そしてサウロのそれは、小学生の頃に担任の先生に職員室まで呼び出された時の感覚を彷彿とさせる言い方だった。


 (えー!ちょっとユーリさんあんた何言ったんだよ!二階に連行されるってただ事じゃなくない!?)


「えー…俺被害者なんですけど…」


「いいからとにかく来い!」


 どうにかゴネたい気分だったがどうやら問答無用の様だ。

 まだサウロと俺の間には距離があったし別に逃げ出してもよかったのだが、そんな事をすれば次からここでクエストを受ける事が出来なくなる可能性もある。

 色々考えはしたが、結局のところ俺には付いていく以外の選択肢は無かったのだった。

 そんな諦めにも似た感情と共にサウロの方へと向かおうとしたその時、後ろから異議を唱える声が聞こえてきた。


「おい!レイアは悪くねぇぞ!」

「そうです!レイアさんは絡まれた側ですよ!」

「僕も一部始終見てました!」


 声を挙げていたのは当然チーム・サニスの面々だった。仲間が理不尽に罰を受けそうになっている所を前にして黙っていられなくなったのだろう。

 一介の低級冒険者でしか無いDランクPTがギルドの最高権力者『ギルドマスター』に盾突くなんて傍から見れば命知らずにも程がある行為だ。


 (お前ら…なんていい奴らなんだ…。味方がいるってのはこんなに頼もしい事だったのか…?)


「わかってますよ。大丈夫ですから落ち着いてください」


 そんな彼らの抗議をユーリさんが宥める。そしてそんなやりとりを背に俺はサウロの後ろをついて行く。


「いい仲間を見っけたみてーじゃねぇか坊主」


 驚いた―――どうやらあんな軽いコンタクトしかしていなかった俺の事をこの男は覚えていたようだった。

 俺がこの男を覚えていたのとはわけが違う。あんなにも弱そうで駆け出し丸出しだった若造の事なんて普通は次の瞬間にでも忘れることだろう。


「そうだな。本当にいい奴らだよあいつらは……てかおっさんギルマスだったのかよ。あん時普通に大剣持ってたから冒険者なのかと思ってた」


「他の奴らじゃどうしようも無い様な魔物が現れた時だけ俺が行くんだよ。俺はつえーからなぁ」


 そう言って偉そうに踏ん反り返るサウロ。その姿はとても馬鹿な様に見えたが、その答えは確かに納得のいくものだった。

 初めて冒険者ギルドに来た時、この男からだけは貫禄の様なナニカを感じたのをよく覚えている。


 (案外馬鹿にならないもんだな、人の直感ってやつも)


 そんなやりとりをしながらしばらく歩いていると、やがて一つの部屋の前に辿り着いた。


「偉そうな部屋……ほんとにギルマスなんだな」


「偉そうっつっても広いだけだろ?―――てかなんで疑ってんだ!」


「いや疑うだろ!ギルマスってこんな脳筋みたいな感じの人じゃなくてもっと頭の良さそうな人がやるもんだろ!」


「お前それ遠回しに俺が馬鹿そうって言ってんだろ!――――初めて会った時は敬語で可愛らしかったのによぉ…時の流れってやつは残酷だな…」


 (別に遠回しに言ったつもりは無かったのだが…)


 だがサウロの言う様に俺は少し変わったのかもしれない。だが正しくは今の方が素に近いだけなのだが。 

 あの頃の俺は自分の強さになんの自信も持っていなかった。だから誰にも嫌われたり敵対されたりしない様にあくまで低姿勢を貫いていただけなのだから。


「それで?なんの用ですか?ギルドマスターさん」


 怒られるなら怒られるで出来るだけ早く済ませたかった為、単刀直入に用件を尋ねる。

 すると先程までとは違う少しだけ真面目な顔をしたサウロが本題を切り出した。


「正直さっきの揉め事はどうでもいいんだ。冒険者同士の喧嘩なんて日常茶飯事だしな。―――話っつうのはお前のランクの事だ。急ぎランクを上げたいんだろ?」


 てっきり先程の揉め事の件で説教でもされるもんだと思っていた俺は無意識に身構えていたのかも知れない、自分の中で少しだけ緊張が和らぐのを感じた。


「なんだ、よかった。そっちの事だったのか……正直18にもなっておっさんに説教なんかされたくなかったからな…。そうなんだよ、ぶっちゃけだけどGランクなんかじゃ出来るクエストがしょぼすぎるんだよ」


「お前18なのか!?全然見えねぇな……。ただまぁ普通はそういう低級のクエストをこなしながら力をつけてくもんなんだよ―――だがお前はちょっと特殊みたいだ。

 そこで だ、特殊クエストってやつを受けてみるか?もしこのクエストを無事完了出来たなら一気にDランクにしてやる事も出来るぞ?」


 (こちらが気にしている事をよくもズケズケと…) 

 

 だがそんな事でいちいち噛みついていては進む話も進まなくなる。それに今サウロの機嫌を損ねてこの話を無かった事にされても困る。


「いいのか?それって特別扱いみたいにならないか?周りの反感とか――」


「別に特別扱いってわけじゃない。お前以外の低級冒険者も参加するだろうしな、ただ普通の低級冒険者じゃどう足掻いてもクリアする事なんて出来ないクエストだからな。だからこそクリア出来た者にはそれだけの実力があるって事になるんだ」


 サウロの口ぶりだと、どうやら相当に危険の伴いそうなクエストの様だ。だが条件だけ聞けばその話は限りなくおいしい話に聞こえた。目の前に餌を吊るされたビギナー達が無謀な挑戦をする可能性とかは無いのだろうか。


「俺は別にいいけどさ。実際その救済措置って必要なのか?普通の低級冒険者にはリスクが高すぎる様な気もするが」


「そもそも特殊クエストの難しさは冒険者なら誰もが知ってる事だ。特殊クエストの必要性に関してだが、冒険者としての年月が浅くとも強い者は実際いる。そういった者達を低級に置いておくのはギルドからしても損でしか無いからな。そもそも自分を普通の低級冒険者だと思ってる様な奴らは参加すらしないから安心しろ」


 意外に優しいんだな?最後にそんな事を言われたが、なんだかむず痒いので無視した。

「―――で、なにをすればいい?」


 とにかくこの話は青天の霹靂だった。そんな都合のいいクエストがあるのなら受けない選択肢は無い。

 少し間を置いて、サウロがクエストの概要を口にする。


「ワイバーンの討伐だ。これは本来ならBランクの冒険者が受けるクエストだ」


 ワイバーンーーー自分の中のイメージ通りの魔物だとするなら小型の飛竜といったところだろうか。

 これまたファンタジー世界での王道の様な有名な魔物の名前が飛び出した。出来る事ならば是非ともお目にかかってみたいものだ。

 最早俺の頭の中に勝てるかどうかなんてそんな逡巡は生まれていなかった。


「もちろん。で、いつからクエスト開始?」


 詳細を聞くと、サウロはちょっとだけ気まずそうな顔をして目を逸らす。

 

 (え、なに?全然可愛くないよ?)


「それがな…。実はもう始まってるんだ……他の奴らは一昨日からもう討伐に向かってる」


「―――は?…まさか早い者勝ちとか言わないよな…?」


「その……まさかだ」


 小さかった筈のサウロの声がなぜか反響して聞こえるくらいの沈黙。



「ばっかやろぉぉおおおおおおおおおお!さっさと場所を教えろ!」


「仕方ねぇだろ!まさかこんな事になるなんて思ってなかったんだからよ!場所は詰所を出てまっすぐ南に行った所だ。D級ダンジョンがあるから今頃そこでキャンプでもしてる筈だ」


 たしかにサウロの言う通りサウロからすれば俺の出現は本当にただのイレギュラーだ。むしろ途中からでも参加させてもらえるだけ感謝するべきなのかもしれない。

 少し冷静になってそう考えると、目の前のゴツイ強面に対して怒りを抱くなんてのはお門違いも甚だしい気がしてきた。


「わかった。じゃあもう行くわ―――――ありがとう」


 俺が素直に感謝を告げると、サウロは気持ちのいい笑顔を浮かべて茶々を入れてくる。

「まだ少しだけ可愛いとこも残ってんじゃねぇかっ。それに礼を言うのはクエストを無事完了してからにしろよ」


「確かにな。じゃあ行ってくる!」


「おう。間違っても死ぬなよ」


 誰に言ってんだサウロ。俺がこれまでどんな奴らを相手に戦ってきたと思ってんだ。

 B級クエスト?お話になんねーっての。



 んじゃまぁ――――サクッと終わらせますかね




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