はぁ...長い
あれからしばらくの間サニス達と話し込んでいたが、正直に帝国の十賢に襲われて腕を落とされたなんて言わるわけも無くなんとかはぐらかす事に。
サニスは元々頭で考える様なタイプの人間では無いだろうし適当に流しておけばいずれ興味を失うだろう。
だが真面目なアスロは色々と聞きたがっている様に見えた。俺だって彼らに嘘はつきたくない、無いがーーーそれと同じくらい心配もかけたくなかった。
だから腕の事はこちらから深く話すようなことはしなかった。そしてそんなこちらの様子を見てか、アスロの方も特に追及する事は無かった。
「そっかぁ...色々大変だったんだねレイアも」
「でもかっこいいです!一人でそんな危険な旅を終えて帰ってくるなんて!」
「たしかになぁ...。今回ばっかりは俺も負けを認めるぜ」
「お前は何に負けたんだ一体...」
本当は彼らの想像している十倍以上苦労した自信がある。だがそんな苦労話を聞かされたところで彼らも困ってしまうだろうし特に言及はしなかった。
もし...彼らの中の誰かが、あと一歩踏み込んでこようとしたならーーーその時には全てを話そうと思う。
そして、もしそうなったのならその相手は俺にとってかけがえのない存在になるかもしれないーーーそんな予感がした。
「でもお前らも凄いじゃんか。ランクってそんなすぐに上がるもんじゃないんだろ?」
そう言うとチーム・サニスの面々がどこか誇らしげな表情で答える。
「そうだね。僕たちも僕たちなりに結構頑張ったと思うよ」
「私も僧侶として成長できたと思います!」
「旅だなんだ言っても俺なんか結局まだGランクだからな」
「じゃあとりあえずさっさとランク上げてこいよ!そしたらすぐにでも一緒にクエスト受けようぜ」
(そうだった。こいつらのランク上がっちゃったからもう一緒にクエスト行けないんだった...)
正直なところそんなギルドの決め事なんか守る必要ない。なんて思う自分もいた。
でも俺にはどうでもいい事かもしれなくとも、これからもこの世界で冒険者として生きていこうとしている彼らにとってソレは大事な事なのかもしれない。
そう考えてみるとただの自分の怠惰によって彼らの足を引っ張る可能性のある行為をする事なんて到底出来るはずも無く、さっさとクエストを受けてランクを上げてくるという選択肢を俺が選ぶのは必然であった。
「そうだな。じゃあ早速行ってくるわ!すぐ追い付いてやるから待ってろよ」
後ろから聞こえてくる三人のエールを背に俺は受付へと向かう。
(......正直、恥ずかしい)
周りから見る俺の姿は、あたかも保護者同伴の新米冒険者の様に見えている事だろう。 そしていくつかある受付の中に懐かしのユーリさんの姿を見つけた。元々挨拶はするつもりだったし折角だからユーリさんの列に並ぶことに。
今回は以前のように長い間待つことも無くすぐに自分の番となった。
(改めて見ると本当に綺麗な人だな...)
記憶の中と寸分違わぬ美しさを誇っていたユーリさんは、俺の姿を見て驚いた様な顔をしてその後に笑顔になって、そしてその後に腕の方を見て悲しそうな表情を浮かべ、最後に残っていたのは怒りの表情だった。
今の一瞬で俺はこの人の全ての感情を見れたのでは無いだろうか。
「ーーーレイアさん...。私になにか言う事...ありませんか?」
「えーっと...ごめんなさい...?」
「もう!無茶な冒険はしちゃダメだってあれほど言ったでしょ!腕を失くすなんて大事件じゃないですか!どうして貴方は毎度毎度無茶ばかりするんですか!」
恐らく十分程経っただろうか。驚くべきことに説教は未だに続いていた。
俺の事を思って言ってくれているのは痛いぐらいにわかる。だがそろそろ後ろで待っている者達の視線が気まず過ぎるから流石に終わらせて欲しいと思ってしまうのもまた仕方の無い事だろう。
「すいません...これからはもっともっと気を付けます...」
とりあえずはひとしきりの不満は出し切ったのか、大きな溜息をつき一般業務に戻ったユーリさん。
「ーーーはぁ...それで?今日はどういったご用件ですか?」
「はい。出来る限り最速でランクを上げたいので一番難しいクエストを受けさせてください」
そして時間は遡る。落ち着きかけた空気が一瞬でピリつきを取り戻した。
「...貴方はーーー私の話を聞いていたんですか!?」
(怒られると思った!わかってました!でもしょうがないんです!サニス達が待ってるので急がないといけないんです!)
「すいません!でも俺結構強くなったんで大丈夫なんです!ほんとに!」
そうやって必死にユーリさんを説得していると、不意に後ろの方からこちらを嘲る様な笑い声が聞こえてきた。
「ぷぷ、なんかあいつGランクの癖にイキった事言ってるぜ」
「身の程知らずって本当に恥ずかしいよな」
「てかどうやったらGランクのクエストで片腕失くせんだよ。逆に教えて欲しいわ」
ーーーーーはい殺します
「は?お前ら俺に言ってんの?」
流石に大勢の前で馬鹿にされて黙ってられる程俺も大人じゃない。それもよりによってサニス達やユーリさんの前で、だ。
「あ?だったらなんだよGランク」
「てめーみてーな雑魚は黙って薬草でも集めてろよ」
「そうだそうだ。てめーーーっ!」
三人目が言い終わるのは流石に待てなかった。
一人目の顔面を殴り飛ばす。精一杯加減をしたつもりだったが、殴られた大柄の男は5メートル程先の壁に叩き付けられて力無く項垂れる。
それを確認するでもなく二人目の腹に膝を入れる。肥満気味のその男の脂肪など関係も無く間違いなく内臓にまで届いているであろう程めり込む膝、肥満気味な男は胃の中の全てと多量の血液を吐瀉しそのままうつ伏せに倒れた。
そして最後に残った細身の男の首を掴み、先程一人目を殴り飛ばした壁へと叩き付ける。奇しくもソレはクレナが戦いの最後に俺にした事と似ていた。
あの時の俺は間違いなく「死んだ」と思ったが、目の前のこいつは今何を思っているだろうか。
「...てめーの後は?なんて言おうとしたんだ?」
辺りはあまりの驚愕によって静寂に包まれていた。テーブルに座っていた冒険者達は唖然とした表情でこちらを見ているし、受付嬢の何人かは声にならない悲鳴をあげていた。 ユーリさんも例に漏れることなく口に手を当て驚いていた。
周りの様子を見渡しどう収拾をしようか考えていると、掴んでいた男がなにか言おうとしている様だったので少しだけ力を緩めてやった。
「ーーーっはッ...なんでも...ないですっ!」
「だったらいいけど、次からは喧嘩売る相手は慎重に選べよ?」
そう言いそいつの身体を適当に投げ捨てる。
そして、再度ユーリさんの方へと身体を向け
「ーーーそれで、なにかいい感じのクエストあります?」




